タケル、町へ出る その3
「止まれッ!そこの亜人のグループ!」
同行した銀狼族の人達と一緒に宿に一泊した俺達が、翌朝カントの町を出ようと門の辺りまで来ていたところ
を、哨戒中の少数の兵隊団に止められた。
「チッ、面倒なヤツにつかまった。タケル殿、ここは私が話をつけますんで、ここでお待ちください。」
ベルモンが兵隊達のリーダーに向かっていくが、あっけなくあしらわれてしまう。
リーダーの男はそのまま俺達の方にやって来た。
「その亜人が報告にあった狼族の娘か、確かに美しい。
どれ、俺が領主様に紹介してやろう。こっちに来るがいい。」
<ゲッ、またこのパターンか、勘弁してくれ>
「セフィアル」「ハイ」
前回同様に俺の指示で、セフィアル達がピッタリとよりそうと、俺はプロテクション・スフィアを展開した。
「これが報告にあった魔法か?おいッ!」
隊長のかけ声で兵たちの中から一際大きな男が前に出る。
いかにも力自慢といった感じだ。
身の丈ほどもあるハンマーのような武器を構えると大きく振りかぶる。
<おお、すごい力だ。>
大男は振り上げた大型ハンマーを、スフィアの光体に向けて思い切り振り下ろしてくる。
「キャッ!」レクイルは驚いて目をつむってしまう。
ドォンと大きな音を立ててハンマーは、光体にはじき返される。
「バッ、バカなッ、もう一回だ」
隊長の命令で男は再度ハンマーを振り上げる。
「ハア、ハア、ハア」何度もハンマーを振り下ろした大男は、息が上がって膝をついている。
残念ながらその程度の打撃では、何十回繰り返そうとスフィアはびくともしないのだ。
「ええいッ、その妙な魔法をとかんかッ!解かないというのなら。」
兵士達が一斉に俺たちの周りを取り囲む。
ううん、これは口で言っても通じそうにないな。
やむを得ないと俺が第二段階、実力行使へと踏み切ろうとした時、
「ちょっと待ちなッ!」
30代半ばくらいの男が、そばで見ていた野次馬たちの間から声をかけて来る。
「俺は冒険者パーティー黒鋼の盾のリーダー、モーリッツってもんだ。」
「黒鋼の盾」「銀等級の・・・」
野次馬たちから声が上がる。どうやら有名なパーティーのようだ。
「シ、シルバークラスの冒険者パーティーが何のようだ。公務の邪魔をするつもりかッ?!」
「いや、この件を領主のゴートン伯爵は知っているのか?」
「な、なんだと?」
「ゴートン伯爵の許可は、取ってあるのかと聞いているんだ。俺たちは何度か伯爵様の依頼を受けて、昵懇にしてもらっている。
伯爵はこのような権力をかさに着た身勝手なふるまいを、許す方ではなかったと思ったが」
「な、なにを言うか」
周りの住民も兵たちに冷たい眼を向け始める。
「チッ、撤収するぞ。」
隊長格の男は、俺を睨みつけると兵たちを連れてその場を去って行った。
「助けられたみたいだな。ありがとう」
「なに、助けたのはオマエさん達じゃない。アイツらの方さ。」
なるほどシルバークラスというだけあって、この男は俺と兵たちの力の差を見抜いていたようだ。
「俺はタケル、この娘達はセフィアルにレクイル、それとスノウだ。」
「こいつはやっぱり結晶獣か。
銀狼族加えて、結晶獣まで連れて、しかもさっきの魔法はなんだ?」
「あれは、黒魔法の一種だ。」
「黒魔法か。まあそういうことにしておこう。」
何はともあれ、再度のトラブルを無難に乗り切った俺達は、カントの町を後にした。
「それで、どうだった?」
タケル達が去った後、モーリッツは隠れていた仲間に尋ねる。
彼がタケル達を見かけたのは初めてではない。
昨日食堂で騒ぎが起きたときも、彼らは偶然同じ食堂で食事をしていた。
その時見せたタケルの魔法が気になって、密かに後を付けていたのだ。
銀等級の冒険者パーティー、黒鋼の盾はレベル48の戦士モーリッツを中心とした5名で構成されている。
前衛の戦士4名と後衛の魔術師1名という編成は、ややバランスが悪いようにも見えるが、持ち前のチームワークの良さでシルバークラスまで駆け上がって来た。
冒険者としては人格者といってよい、モーリッツの人柄もあり冒険者ギルドの信頼も厚い。
パーティー唯一の魔術師であるオスカートは、サポート系の魔法を専門としているが、それ以外の役割も持っている。鑑定魔法の一種である「アナライズ」を使い、これまでも敵対する陣営の能力を探ってきた。
C2の力を持つアナライズは、レベル40までの相手であれば、おおよそのステータスを見通せる。
モーリッツは今回その力を使って、オスカートに気になっていたタケルのステータスを探らせていた。
「職業は黒魔導士、レベルは22、ステータスに特に目立った特徴はありませんが、MPが五千程度もあるようです。」
「MP五千だってッ!そりゃ、スゲェじゃねえかよッ!」
同じパーティーに属する槍使いの戦士ネルマイユが驚きの声をあげる。
「いえ、それはそうなのですが・・・」
<MP五千、いえ私が最初に見たとき感じた感覚はそんなものではなかった。>
とてつもない魔力の塊、例えるならマナの塊、大精霊が直接顕現して町をうろついているような感じを受けて背筋が寒くなったほどだ。
「あの年でそれだけの魔力があるなら、将来、宮廷魔術師は確実だな。」
斧使いの戦士カルロは気楽なことを言っているが、そもそも黒鋼の盾は戦士中心のパーティなのであまり魔法には詳しくない。
「なんにせよ、一応伯爵に報告しておくべきだろうな。」
リーダーのモーリッツは領主のゴートン伯爵へ知らせる為に、町に隣接した小高い丘にある領主の館へと足を運ぶことにした。
○モーリッツ 人族
職業 黒剛戦士
LEVEL 42
HP 615
MP 65
STR 113
VIT 205
INT 38
AGI 113
WIS 38
LUC 18
闘技
上級 シールド・ブロック・マキシマイズ
中級 クワッド・ソード・スラッシュ
シールド・クラッシュ・ミドル
ウォー・クライ
スキル
シールド・コントロール (大) (Lv1)
ソード・コントロール (中) (Lv6)
アーマー・コンフィデンス (中) (Lv5)
ヘルメット・コンフィデンス(中) (Lv5)
HP自動回復 (中) (Lv8)
持久力増大 (中) (Lv7)




