アント族大討伐
書庫周辺に現れた大量のアント族はなんとか撃退したが、また新たな問題が発生した。
「彼らは、非常に執念深い魔物です。
書庫の位置が分かった以上、また襲ってくるでしょう。
こちらを全滅させるまで、何度でも戦闘部隊を送り込んでくるに違いありません。」
今回は建物を利用してうまく倒せたが、森の中でアントの大群に襲いかかられてはたまらない。
「ですのでこちらから出向いて、敵の女王を倒すしかありません。」
「あんなのが何千匹いるかわからないんだぞ。いくら何でも無理だろう。」
エクレール曰く、アント族には女王がいてそいつさえ倒せば群れは瓦解するそうだが、
巨大な塔と化している蟻塚の、一番奥で守られているとのこと。
「今回は私がアイデアを思いつきました。
かなり危険ですが、うまくいけば敵の群れを破壊できるはずです。」
エクレールの立てた作戦とは、先ほど倒した蟻の体液を体に塗りつけてアントに偽装、
敵の巣に忍び込むというものだった。
「アント族は匂いで敵味方を識別していると考えられます。なのでたっぷりと取ってよく塗ってください。」
「うえぇぇぇ」
気持ち悪い。緑色の体液は、見た目もひどいが匂いもキツイ。
「キャン、キャン」
スノウはかなり嫌がって抵抗したが、心を鬼にして無理やり体中に塗りたくる。
セフィアルは顔を歪めながらも、淡々と服の上から体液を塗っていく。
この作戦はかなり危険なので連れて行くわけにはいかない、レクイルは書庫で待機だ。
蟻塚のあるエリアまでやってきた俺たちは、恐る恐る群れに近づいて行く。
すると一匹のアントがこちらにやって来た。
匂いを嗅いでいるのか、しばらく目の前で頭から突き出た触手を動かしていたが、
そのまま何事もなかったかのように通り過ぎて行った。
どうやらうまくいったようだ。
俺達は、コソコソと目立たないように蟻塚へと侵入した。
蟻塚の中にはいくつもの小さな部屋があって、それらが細い通路でつながっている。
「たくさん部屋があるぞ。これじゃあどこに女王アリがいるか分からないな。」
「エクレールさんの話では、蟻塚の真ん中にあたりに大きな女王専用の部屋があるとのことなので、
まずは上に昇ってみましょう。」
俺達は大きなビルのような塚の内部を音を立てないように静かに進んでいった。
途中、何度もアントらとすれちがったが、体に塗った体液のおかげで何事もなくすんだ。
ビルでいえば10階分ほども登っただろうか、前方にひときわ大きな部屋が、
たぶんあれが女王のいる部屋だろう。俺達は部屋の中へと進んでいった。
内部は部屋というよりもホールのように大きく開けていて、
真ん中あたりにドカンと巨大な魔物が置物みたいにとん挫している。
「あれが女王アリみたいだな。」
女王は他のアントに比べてかなりデカい、10メートルはあるだろう。
ただ体のほとんどを大きなお腹が占めているので動きは鈍そうだ。
「今ならアント達は気づいていません。早くやっつけてしまいましょう。」
「ウォン!」
やっつけると言ってもあの巨体だ、どの魔法で攻撃するべきか、まずは
「アイス・バレット!」
大きさは違うが相手はアリンコ、つまり昆虫だ。
虫は寒さに弱いと勝手に判断した俺は、冷気の魔法アイス・バレットをぶつけてみる。
ランクアップしたアイス・バレットは、より大きくて固い氷の礫を放射線状に放出する。
女王アリは吹雪のように襲ってくる氷の粒に覆われてカチコチになるが、平気そうだ。
<あんまり効いている感じはしないな。まあ表情が変わらないからよく分からないけど>
さすがにアリ達も気が付いたようだ。
女王の護衛兵だろうか、他のアントより二回りは大きくて鋭い牙を持った蟻が数匹近づいてくる。
「フォトン・ブラスト」
近づいてくるアントに光球を浴びせるが、どんどん次がやって来る。
「私が相手をします。タケルさんは女王をやっつけてください。」
セフィアルが飛び出して敵を引きつける。
スノウも後に続いた。
「フォトン・ブラスト」
その間に今度はフォトン・ブラストを当てて見る。女王は一瞬動きを止めたが、大して効いてないようだ。
まあ、あの大きさでは無理だろう。
さすがに怒ったのか、ノソノソと近づいてくる。
と見せかけて一転、突然突進して体当たりをかましてきた。
「うわッ」
俺はポーンとボールのように弾き飛ばされて、部屋の壁に激突する。
プロテクション・スフィアが防いでくれたが、コロコロと転がされて俺はスフィアの中で目を回してしまう。
「タケルさんッ!」
「ウォン!」
俺が吹っ飛ばされたのを見て、セフィアルとスノウは女王アリに向かっていく。
向かっていくのだか、いかんせんしがたい。
フォトン・ブラストを受けても平気な奴に、セフィアルの短剣ではどうしようもない。
スノウも魔物の背中に飛び乗って噛んだり引っかいたりを繰り返しているが、
傍から見るとじゃれ合って遊んでるみたいだ。
そうしている間にアリ達の援軍がどんどん部屋に入って来る。
「ええい、イチかバチかだ。セフィアル!スノウ!
戻ってプロテクション・スフィアの中に入れ。」
敵を引きつけていたセフィアルとスノウは、俺の指示ですぐに光球の中に戻って来る。
俺はアントの女王に狙いを定めると、
「いくぞッ!流星砲!」
現在の俺の持つ最強攻撃魔法コメット・ストライクを、女王に向けてぶっ放す。
魔法をもろにくらった女王アリは、哀れ砲弾と一緒に蟻塚の壁を突き破って外へ飛んで行ってしまった。
女王がやられて一斉にパニック状態になるアント達。
その時、内部での戦闘で傷んでいた塚が、コメット・ストライクの衝撃が決め手となって崩れ出す。
そうコメット・ストライクは建物内では使用禁止の魔法なのだ。
ミシミシと音を立てて傾いていく蟻塚、轟音ととてつもない砂煙を上げて倒壊してしまう。
当然、中にいる俺達に脱出の手段はない。
「うわああああ」「きゃあああああ」「ウォォォォン」
と悲鳴を上げてながら崩れ落ちる建物の下敷きになった。
「ぷッはぁ。」
「何とか生き残れたようですね。」
「ウォン、ウォン」
崩れた建物の残骸から這い出てくる俺と仲間たち、なんとかプロテクション・スフィアが持ってくれた。
アント達のほとんどは生き埋めになったようだ。
残りも女王を失ったことでパニック、散り散りなってどこかに行ってしまった。
「いやあ、それにしても危なかったな」
「タケルさんの魔法のおかげで助かりました」
「ウォン、ウォン!」
残骸の下で、今回も頑張ってくれたスノウの頭をナデナデしてやる。
セフィアルがそれを羨ましそうに見ているので、ふとためらいながらも俺は、
セフィアルの頭に手を乗せて、ナデナデする。
なんだか俺の方が恥ずかしくなってしまうな。
彼女は「ンッ」と頭を引っ込めてジッとしていたが、
ケモ尻尾がブンブンと振られているので喜んでくれているようだ。
男子が同世代の女子の頭をなでるという、傍から見ればシュールな光景が生まれてしまったが、
まあ本人が望むのであれば良しとしよう。
こうしてなんとかアントの巣を破壊した俺達は書庫へと帰還するのだった。




