銀狼族の少女 その1
アステル・メイガスにクラスチェンジして1週間程経過したころ。
いつものように俺とスノウが森の探索を行っていると、
突然、スノウがもの凄い勢いで走り出した。
どうやら何かを感知したようだ。
「あッ、こらッ、一人で飛び出したら危ないぞ。」
俺の制止も聞かずに、どんどん森の奥へと行ってしまう。
こんな事は初めてだ。
こちとらAGIが、ほとんどないのだから追いかけるのも大変だ。
やっとのことで、スノウに追いつくと、そこでは何者かがブラッド・ベアと戦っている。
魔物の半分くらい、俺とほとんど変わらない身長の人物が、もの凄く素早い動きで敵を翻弄している。
驚いたことに女の子のようだ。
銀色の髪を一つにまとめて腰の辺りまで伸ばしており、彼女が飛び跳ねるたびにキラキラと波打っている。
真剣に魔物と向き合う横顔は、凛々しくてかなりの美少女だ。
ただ頭にはケモ耳が、
亜人、それも獣人のようだ。
時折チラチラと気を配っている背後には、もう一人が隠れている者がいる。
彼女よりだいぶ年下の可愛らしい女の子で、その子にもケモ耳がある。
仲間をかばっているのだろう、明らかにベアの注意を引きつけるように、威嚇するような動きを繰り返している。
そこに飛び出したスノウが加わった。
銀髪の少女は、いきなりの乱入者に驚いた様子だったが、敵ではないと分かったのか、不思議とすぐに息が合って共闘し始めた。
確かサーチでは四つの反応があったはず、俺が辺りを見回していると、
茂みの陰から、突如もう一匹のベアが姿を現した。
小さい女の子の方へ襲い掛かる。
それに気づいた戦闘中の少女が、顔を歪めるが間に合わない。
「プロテクション・スフィア!」
俺は展開していた守護の魔法球を、隠れていた小さい子に向けて移動する。
これはプロテクション・スフィアの習熟度が上がってC2になったことにより、守護球を他者にも使うことができるようになったのだ。
だたし、展開できる魔法球は一つだけ。
他人に使っている間は、俺は無防備になってしまうので、結構リスクがあるのだ。
ベアが振り下ろしたかぎ爪は、ギリギリで魔法に遮られて少女には届かない。
一方、突然自分を包み込んだ光の球に驚いて、少女は目を白黒させている。
「フォトン・ブラスト」
続けて放ったフォトン・ブラストをくらって吹き飛ばされる魔物。
こちらも威力アップしている、以前とは違い一撃でKOだ。
さらにもう一発、スノウが対峙しているブラッド・ベアにも叩きつける。
2匹のブラッド・ベアはあっけなく動きを止めた。
「あ、あなたは何者ですか?」
銀髪の少女は、突如現れた正体不明者が、2匹の魔物を瞬殺するのを呆然と見ていたが、
すぐに幼い仲間を背後にかばう。
どうやら言葉が通じるようだ。
「怪しい者じゃない。このあたりで狩りをしていたんだ。」
俺は両手を軽く上げて敵意の無いことを示す。
「この魔法はあなたが?」
小さく頷いて俺は、少女を覆っていた魔法を解除した。
「どうやら助けていただいたようですね。ありがとうございました。」
「俺はタケル、それにこいつはスノウ。」
俺の肩に乗っているスノウを紹介すると
「私はセフィアル、この子は妹のレクイルです。
その獣は・・・、やはり結晶獣ですか。それもプラチナム・ウルフの。」
やはり姉妹だったか。結晶獣のことは知っているようだ。
しかしながら助けはしたが、俺の事はまだ警戒している様子。
俺は、まずこの少女たちの警戒を解くことから始めることにした。




