ヒーローと探偵――7.死因
次の日の朝は、とんでもなく早く目が覚めた。日が昇るよりも先に起きてしまった。僕はゆっくりとした動きでベッドから這い出て、窓から外を眺めた。灰色の空が広がっていて、住宅街は静まり返っていた。
僕は背伸びをして、体中の関節をこきこきと鳴らし、頭と一緒に体も目覚めさせた。その時なんだか仮町のことが気になった。そして連鎖的に、そのことが気がかりでこんなに早く起きてしまったのだと気づいた。
僕は学習机の上に置かれた、ケーブルに接続された状態の携帯電話を取った。そして仮町の連絡先を開きながらケーブルを抜き、発信のボタンを押して耳元にあてた。
数回のコールが鳴って留守番電話サービスに繋がった。さすがにこんな朝早くに出てはくれないか、と自分の行動を愚かだと思った。
「朝早くに悪いね。ちょっと気になったものだから。それで、その大丈夫かい?何かあったらすぐ教えてくれ。力になりたいんだ」そんなメッセージを残して電話を切った。
学校に着くと梨花が既に教室にいてびっくりした。今日は早起きしたのをいいことに、誰よりも早く校舎に入ったと思っていたからだ。
梨花は自分の席に座って窓の外を眺めているようだった。
「今日は天気が悪いよね」
僕は無難に天気の話を振りながら梨花の席に近づいた。
「そうだね」彼女は振り向いて僕を見て、少し驚いた様子で「あれ、今日は随分と早いんだね」と言った。
「なんだか早く目が覚めたんだ」
「私も」彼女は微笑んでいた。しかし、その笑みはぎこちなく、瞳は悲しみに溢れているように歪んでしまっていた。
「昨日のお葬式には来なかったんだね」
「知らなかったんだ」僕はばつが悪そうに言った。
「え?!どういうこと、ひーくんから聞いてないの?」
梨花が目を見開き、信じられない出来事を目の当たりにしているかのように言った。
「なにを?」梨花の反応に動揺しながら僕は答えた。
「昨日お葬式をやるってこと」
「うん、だって仮町だって色々大変だったんだろうし、僕に知らせるのを忘れるのも無理ないんじゃないかな」昨日の京司さんの時のように、僕はフォローを入れた。しかし梨花は、怒りとは違う、戸惑いのような感情を顔に表していた。
「でも、春ちゃんのお葬式の日は決まっていたんだから、前もって言っておくのは難しくないはずだよ」
「えっ……」今梨花はなんと言った?
葬式の日が――決まっていた?
そんな、馬鹿な学生のずる休みの言い訳みたいなことがあり得るのだろうか。
けれど、僕の疑問は梨花がすぐに解いてくれた。
「だって春ちゃんは、臓器移植手術をして亡くなったんだよ」