ヒーローと探偵――6.静かなるお別れ
次の日の火曜日、梨花は学校を休んだ。風邪でも引いたんだろうかと考えていたら、ホームルームで先生がお葬式だと言った。昼休み、仮町もまた葬式で休んでいることを知った。僕の頭に嫌な予感が走った。
それから二日間、梨花と仮町は学校を休んだ。
水曜日の放課後、何をするでもなく自分の机に頭をつけ、だらしなく窓を眺めていた。雲が茜色に染まり、穏やかに動いていた。それはまるで海の上をゆっくりと進むボートのようで、遥か遠くを目指しているように見えた。僕は何にも縛れることなく形を変え、自由にどこまでも進んでいく雲を羨ましく思った。
そんな風に雲に嫉妬心を抱いていたとき、制服のポケットに入れていた携帯電話が鳴った。僕は姿勢を変えずにだらりとした手を入れて取ると、電話に出た。
「もしもし」
『元気ないな。どうしたよ』
そういう仮町の声もまた元気がなかった。
「ちょっとね、嫌な予感がしたものだから」僕は曖昧な返事をして、椅子に座りなおし姿勢を正した。
『今、春の葬儀が終わったところなんだ。それだけ、伝えておこうと思ってな』
僕は自分の予感が当たったことに絶望した。僕の予感なんて外れてもいいくらいなのに、なぜこういうときだけ当たってしまうんだろう。
「お葬式なら呼んでくれてもよかったじゃないか」僕はつい責めるような口調で言ってしまった。そんな場合ではないと分かっているはずなのに。
『悪かったよ。ちょっとな、疲れちまってそれどころじゃなかったんだ』
「いや、ごめん。僕も言い過ぎた。それよりも大丈夫なのか?」
僕は自分勝手な言い方を反省し、仮町の力ない様子を心配した。
『何がだよ。葬儀なら滞りなく終わったぜ』
「そうじゃなくて、なにか、その――」僕は今のこの気持ちをどう表現したらいいのか、相応しい言葉が見つからずどもってしまった。
『大丈夫だよ。心配するな』
仮町は明るい声で言ったが、それが強がりだというのは電話口でも分かった。
「仮町……」僕は彼の名を呼んで息を止めた。目も閉じて、ゆっくりと息を吐いた。
『なんだよ。お前こそ変だな、大丈夫か?』
僕は目を開いて頭に浮かんだ言葉を言った。
「なにかあったら言ってくれよ。この前約束しただろ、だから――」
『分かってるって。大丈夫だから、心配すんな』
僕の言葉を途中で遮って、仮町はわざとらしく妙に軽い口調で言った。
電話はそこで切られ、耳元のスピーカーからはつーつーという虚しい音だけが聞こえた。僕はしばらく教室に残り、仮町の妹の死を頭の中で考えながらなんとか受け入れようとしていた。
あの日出会った少女はもう、この世にはいない。
そんな非現実的な言葉をやっと受け入れると、既に外は真っ暗になっていた。ふと、あの日話した僕の言葉はあの子に届いていたんだろうかと考えてしまった。
届いていなかったと考えるのが普通だろう。しかし、届いていたらいいなと思ってしまう自分がいた。