ヒーローと探偵――4.昔の話
「私とひーくんはね小学四年生の時に出会ったんだよ」
梨花は僕の隣をとてとてと小さな歩幅で歩いている。僕は彼女の歩幅に合わせて歩きながら、梨花の話を黙って聞いていた。
「転校してすぐはずっと一人だった。両親も家にいなかったし」彼女は当時を思い出しているようで、とても悲しそうな顔をしている。
「ご両親は共働きかい?」
「うん。でも世間一般の共働きとは違っていた。お母さんは海外に出張、お父さんも転勤直後は忙しくて外が真っ暗にならないと帰ってこなかった。だから私は本当に一人だったの」
真っ暗の中一人でいる辛さは僕も知っている。だから彼女が今見せているぎこちない笑みが、作り笑いだと分かってしまった。
「そんな時だった。私の家に強盗が入ったの。多分家に私しかいないってばれちゃって、それで狙われたんだね」
「え?!強盗?」突然彼女の口から発せられた物騒な言葉に僕は驚いた。
「うん。でもね大丈夫だった。強盗に襲われそうになった時に、ひーくんが助けてくれたんだ」
梨花はトラウマとも言える過去を、安心しきった顔で語っていた。きっと梨花にとっては仮町との大切な思い出で、怖い部分なんて一つもないからだろう。
「その時は知らなかったんだけど、私の家とひーくんの家はお隣さんだったんだよ。それで私の悲鳴を聞いたひーくんがすぐ家に入ってきてくれて、強盗をやっつけてくれた」
子供が強盗を倒すというその話は、おそらく梨花の思い出補正的脚色が入っているのだろうけれど、それでもまあ仮町ならあり得そうな話だった。そんな突飛な話を僕はすんなりと受け入れられるほど、この四か月で彼の凄さを思い知っていたのだ。
「だから今度は私がひーくんを助けたい」それは力強く輝かしい言葉だった。僕はただその言葉を聞いて「そうか」と答えることしかできない。
これはきっと二人のお話なのだろう。固い絆で結ばれた男女が危機を乗り越えて成長し、これからはお互い支えながら生きていくという話だ。そういう単純明快なラブストーリーだ。僕が介入する隙はない。
彼女が僕を頼ったとしても、僕は何もすべきではない。僕はただの相談役であり物語の本筋には関係がない。
そんなことを思った。だから僕は気楽に特に深い考えもなく、「頑張ってくれ」と言ったのだ。
「言ったでしょ、あなたにも助けてほしいの」
僕がどう思おうと、僕の介入を迫る彼女に、僕はただぎこちなく微笑むことしかできなかった。