ヒーローと探偵――1.帰る時間
扉を開けると正面に仮町がいた。力なく長椅子に体を預けていた。両腕はだらんと下げられていて、足はがに股にだらしなく開き、首は赤ん坊のように下がっている。
寝ているのだと思った。四十五分も待たせてしまったからそれも仕方がないと思った。けれど、仮町の目が開いていることに気づいた。
「よう、話は終わったか?」僕に気づいた彼はいつものように明るく声をかけてきて、すぐに体に力を入れて姿勢を戻した。
「終わったよ」僕は特に感情を込めることなく淡々と言った。けれど仮町は何かを感じたのか「そうか」と微笑んだ。
僕がそばまで行くと仮町は立ち上がった。こうして近くで見ると、彼との身長差にまた驚いてしまう。しかしその姿には生気が無かった。
まるで彼の周りだけ重力が強まっているようだった。何かが彼に、重く圧し掛かっているようだった。
「帰るか」
「君は妹に会わなくていいのかい?」
「おいおい、幻想を壊して申し訳ないが、妹好きの兄なんてこの世に存在しないんだぜ?」
僕は苦笑いを浮かべながら、背の高い彼に続いて病院を出た。
外はもう日が暮れて、星の輝く時間になっていた。七月だというのになぜかその日の夜は肌寒く、僕は身を震わせた。
「どうして言ってくれなかったんだ?」先を行く仮町の背中を眺めながら聞いた。
「なにを?」
「妹さんの病状だよ」
「言って何かが変わったか?言わなくたってお前はきっと話をしてくれただろうさ」
僕は仮町の言葉の中に、僕を信頼しているという意味があるような、そんな気持ちが含まれているような気がした。事情を説明しなくとも、突然少女の病状を知ったとしても動じることなく語るだろうと思ってくれていたのだ。僕はそれが無性に嬉しかった。