ヒーローと探偵
最終章です。ここまで読んでくださり恐悦至極でございます。
僕は語り終えた。一つの小説を書き終えたときのような満足感を得ていた。僕の心は、満ち足りていた。しかし、それはただの自己満足に過ぎないのだろう。
なぜなら僕が語り続けた少女は、眠っているからだ。
体中から管が伸び、口には酸素マスクを着けられている。ベッドサイドモニターだけが少女の生を現していた。それ以外から、少女が生きているということを証明するものを僕は見つけられなかった。
病状としては脳死というらしい。医学方面の知識を全く持たない僕にはよく分からないが、意識を全く持っていないという状態を指す言葉だ。
つまり僕が語った三つの話は、少女の耳には届いていなかった。それを分かっていながら、僕は四十五分という時間をかけて、一切の妥協なく、気持ちを伝え続けた。満足するまでずっとだ。
どうしてそんなことをしたのか説明するのは難しい。僕のやったことは無駄なことで、論理が破綻している行為だ。だから説明なんてしようがなかった。
けれど一つ言えることが、説明できることが一つだけあった。僕がそれをしたいと思ったということだ。僕が、僕の意思で語ったのだ。それだけは確かだった。
最初は仮町に頼まれたからだった。頼まれて、彼の妹なら会ってみたいと興味が沸いた。でもこの部屋に入って、ベッドに横たわる物言わぬ少女を見て、僕はお話をしてあげたいと思った。なぜかは分からないけれどそう感じたんだ。
「さよなら春ちゃん」
また来るよ――とは言えなかった。今のこの気持ちがなんなのかも分からないのに、そう言うことはできなかった。
でも、それでも――また来たい、と思った。