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地球の重力と彗星の引力――13.彗星の引力
扉が開かないと知ったとき、人は案外その絶望を受け入れる。僕はそのことを、小学二年生の時に経験した。
目の前に現れた大きく黒い扉。それはドアノブもなく、蝶番も付いていない壁のようなものだった。しかし、それが扉だということを僕は無意識に理解していた。だから僕は開こうとした。押し、引き、叩いた。けれど開くことはなかった。
僕は気づいてしまった。これは扉ではあるが、ここから先の世界の可能性を示唆するものであって、入り口ではないのだ。ただ僕に思い知らせるためだけの扉。お前はこれ以上どこにも行けないと、思い知らせるための存在だった。
だから僕はいじけて、扉の前で蹲った。そしてしばらくしてから、それを受け入れた。開かない扉を、僕に世界を見せつけるその忌々しい存在を、僕は気にしなくなった。
けれどある日、その扉が突然開いた。
彗星の引力によってその扉は開いた。その彗星は四歳の頃に一度現れたものだった。
僕はそのまま引っ張られ、扉の外に出た。