地球の重力と彗星の引力――10.アルゴンの疑念
潟元夫妻の家から五分ほど歩くと、大きな公園がある。遊具は少ないがその広さゆえに今日もたくさんの子供が集まっていた。皆広場でサッカーやキックベースを楽しんでいる。
僕はそんな未来を担う子供たちを尻目に、砂場で遊んでいた。今日は土曜日で学校は休みだった。
休みの日に公園で、一人砂場遊びをすることは酷く虚しい行為に思えた。しかし、実際にやってみると童心に帰り、そんなに悪い気分にはならなかった。そして僕は砂の中から透明な粒を一つ摘み、それを眺めた。こんなものが星の涙なんて大層な名前で呼ばれていることに不条理を感じた。
「いやいや、高校生が一人で砂場遊びはやべえだろ」後ろから、嘲笑するわけでも、恐怖しているわけでもなく、ただ本気で心配しているかのような声が聞こえた。
「君も一緒にどうだい?童心に帰れるよ」僕は引きつった表情を見せる仮町にそう提案した。
「嫌だよ。俺の童心は母親の腹に置いてきたんだ」
僕は手を払い、ズボンについた砂埃も払って立ち上がった。
「で、なんだよ用って。休日に呼び出すんだから相当な用事なんだろうな?」脅しを孕んだ口調と表情で仮町は聞いた。僕は少し怯えながら答えた。
「分かったんだよ。思い出したんだ。両親との最後の思い出を――全部」
そう言うと仮町は嬉しそうに笑って「そうか」とだけ言った。
「ただちょっとね」
「なんだよ」
「僕はこの思い出した記憶を九十九パーセント信じている。実際に見て体験したことを思い出したわけだからね」僕はもう一度目を閉じて、思い出した光景を頭の中で再生してみた。そして一つの疑問に突き当たった。
「一パーセントの疑念が残っているんだ」
「どんな?」
「こんなことが、本当に可能なのかな――って、思ってしまうんだ。この推理なら僕の嬉しいという気持ちを証明できるし、無傷だったことにも説明がつく。でもぶつかってしまったんだ。一パーセントの疑念に」
そこまで言うと、仮町はなぜ自分が呼び出されたのか理解したようで、にやりと口角を上げた。
「それで、俺に確認したいわけだ。その一パーセントを払拭するために」
「そういうことだ」僕は少し離れた場所にあるベンチを指さして「座って話をしよう」と言った。
「でもなんで公園なんだよ。喫茶店とかファミレスで良かったんじゃねえか?」
不思議そうに聞かれ、僕は返答に困った。しかし、僕は正直に答えた。
「星の涙を久しぶりに見て見たくなったんだ」
「あんなもんただのごみじゃねえか」
至極真っ当な意見だった。