地球の重力と彗星の引力――7.少女は泣かない
涙の謎について考え始めた次の日の朝、僕は泣いていなかった。最近連続して思い出したせなのか、感動が薄れてしまったみたいだ。
事故が謎を解くカギであることは間違いなかった。しかし、あの時の光景は朧気で、どうにも思い出しにくいものだった。
だから授業中新しい謎についてずっと考えていた。霞ががった映像をなんとか見ようと必死だった。
無重力を感じるほど体が浮き上がり、前方に飛んだ。確かあの時僕は怪我一つしていなかった。それはなんとも奇妙だと思った。
考えても分からなかった。僕の頭の中には自動車会社の衝撃テストの映像が流れていた。肌色のダミー人形が衝撃で大きく前のめりになり、エアバックに顔を埋めるあのスローモーションが流れていた。どう考えてもあんなことになって怪我一つ負わない方法が思いつかなかった。
解けない謎に僕の思考は停止し、煙が出るんじゃないかと思うくらい茹で上がってしまった。
「今日は泣かなかったんだね」休み時間、頭を休めている僕に梨花がそう言った。
「よく分かったね」僕は彼女の才能を称賛しながら目を擦った。彼女は誇らしそうに胸を張った。
「でもひーくんは泣いたみたい」
「そうなの?」
「うん、たぶんいっぱいね」悲しげな顔でそう言う彼女は、母親のようだった。母親をよく知らない僕がそう思ったんだから、相当彼女は母親にぴったりな人柄なのだろう。
「彼はどうして泣くんだ?」
「ひーくんはあなたになんて言ったの?」
「家族のことが関係しているってさ」
梨花はまた悲しそうな顔をする。僕はその顔にどう反応していいか分からない。
「ひーくんがそれしか話していないなら、私もそれ以上は話せないよ」
僕はそれ以上仮町について何も聞けなかった。自分が聞けるような人間でないことを再確認してしまった。
「君は、泣いたりしないの?」それはふと頭に浮かんだ疑問だった。最近人の涙のことばかり考えているからそんな言葉が浮かんだんだろう。
「泣けないよ。だってひーくんが泣いてるんだもの。私が泣くわけにはいかないよ」
彼女は笑っていた。泣きそうな顔で、微笑んでいた。