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探偵とヒーロー  作者: はち
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地球の重力と彗星の引力――5.子供の涙と、大人の涙

 大人が泣いている姿を、僕は見たことがなかった。大人の涙はテレビや小説や漫画の中の物でしかなくて、それらはフィクションの作り物で、虚構の物だと思っている。だから、泣かなくなれたとき、僕は大人になれるんだと思っている。

 そんな持論を、なんとなく会話の流れで、夕飯時に僕は夫妻に話した。


「そんなことないわよ。大人だって泣くわ」


 夕飯の席で价子さんはそう言った。僕は驚いて箸を止めてしまった。


「大人も泣くんですか?」

「人によるけどね。私なんかしょっちゅう泣いてるわよ」价子さんは頬に手を添えて恥ずかしそうに言った。


「そうなんですか……。でもそれって子供の涙とどう違うんでしょうね」

「違いなんてない」いつも通り和服で食事をしている京司さんが断言した。「悲しければ泣くし、嬉しければ泣くし、怒れば泣く。ただ大人は、そうやって感情を表に出すことを忘れてしまうんだな」


 どうして忘れてしまうのか。僕は考えてみたけれど分からなかった。大人になれば分かるんだろうか?


「まあ、そこの誰かみたいに忘れないで生きている人もいるがね」じっとりとした視線を、京司さんは价子さんに向けた。价子さんは気にせず夕飯を食べている。


「でも中には、子供のくせに感情を表に出してくれない子もいるから困ってしまう」


 その言葉は僕に向けられているものだった。僕は反応に困ってしまって黙り込んだ。


「ところでどうしてそんな話を?」僕は京司さんの質問を受けて、少し悩んでから正直に話すことにした。ヒーローでない僕に仮面を被る資格がないと思ってしまったからだろう。

「今日、事故の夢を見たんです。両親が死んだ事故の夢を。そして泣いてしっまったんです」僕がそう言うと夫妻は心配そうな顔になった。僕は心配をかけたくなくて慌てて言った。

「いや、違うんです。悲しくて泣いたんじゃなくて、嬉しくて泣いてしまったんです」


 目を閉じて、あの無重力を思い出すとまた嬉しくなった。


「でも、どうして嬉しいのか分からなくて……」


 涙の理由をずっと探している。その思考がこんな会話をさせた。

 夫妻は顔を合わせ、一瞬見つめ合った後、にっこりと微笑んだ。


「何か知っているんですか?」僕は餌に食いつく魚のように飛びついた。

「それは誰かに教えて貰うんじゃなくて、自分で思い出すべきことだよ」


 僕は「はい」と戸惑いながら答えた。


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