地球の重力と彗星の引力――4.ヒーローは仮面の下で泣く
新たな謎は解けないまま、僕は仮町と共に帰宅していた。並んで歩くと彼との身長差があらわとなって嫌だった。けれど彼は僕の右側、つまり車道側を歩くことを譲らなかった。女の子だったら惚れているところだろう。
「そういえば、君はよく泣いていると梨花が言ってた」休み時間に梨花が言っていたことを思い出した。
「なんだよそれ。俺はあいつに泣き顔なんて見せたことねえよ」完全犯罪を主張するように、迷いない笑みで彼は言った。
「でも分かるんだってさ。彼女はそういう才能もあるらしい。実際僕も見破られた」
「あいつそれだけで食っていけんじゃねえの?」からかうように言う仮町だったが、その表情からは動揺が見て取れた。今までの嘘が全てばれていると分かったのだから無理もない。
「君はなんで泣いたの?」
「なんでもないさ。お前と同じで愛ゆえに泣いたんだよ」
格好つけているから、今のは何かの引用なのだろうけれど、僕には何の引用なのか分からなかった。こういうことは稀にある。
そして、仮町の悲しそうな顔を見て、僕はそれ以上そのことについては何も聞けなかった。
「君は誰よりも正直な男だと思ってた。そんな君でも嘘をつくんだね」
「嘘なんかついてねえよ。涙を隠すのは当たり前だろ」
僕は彼の気持ちに納得した。僕も今日の朝涙をしっかり拭いてからリビングに行ったからだ。
「お前はなんだか嘘をつくことに抵抗があるみたいだな。だから俺が噓つきだということに抵抗を覚えているみたいだ」
「嘘をつくことに抵抗がない人間なんているの?」嘘だった。僕は嘘をつくことに抵抗がない。僕は仮面を付け替えるように軽やかに、速やかに本心を隠せる。昔から、そういう才能だけはあった。それがなければ生きてこられなかっただろう。
でも、潟元夫妻に嘘をつくことが、建前で誤魔化していることが、僕に罪悪感を覚えさせた。だから仮町みたいになれたらと思っていただけだった。
「そうだな。だからきっと、ヒーローは仮面を着けるんだろうな」
ああ、これは、彼の言葉だ。何の引用でもない。何かの贋作ではない。彼の言葉だ。僕にはすぐ分かった。
「泣いてないって嘘をついて、嘘を隠すために、仮面を着けるんだろうな」
子供の頃見た特撮を思い出した。仮面の下で、敵を殴りながら泣いていた、テレビのヒーローを思い出した。