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探偵とヒーロー  作者: はち
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姉弟と事件――5.幸福な王子とツバメ

 放課後、帰ろうと思ったら仮町が入って来た。こうなるのも二度目だったので特に抵抗もなく会話を始めた。


「そのオスカー・ワイルドって誰だ?」火災報知器を眺めていたときの話をしたら仮町はそう聞いてきた。


「僕も詳しいことは知らないけど、外国の作家だよ。ほら「幸福な王子」とか書いた人だよ」他にも作品を知っているみたいな感じで言ってしまったが、他の作品は知らなかった。仮町がよく知らないのをいいことに変な見栄を張ってしまった。


「ああ、あの残酷な話しな」

「なんでだよ。いい話じゃないか……」僕は力なく訴えた。

「いや、オチが悲しすぎるだろ。ツバメは死に、王子は鉛の心臓だけになるなんてさ」


 それだけを聞くと確かに悲しい話だった。


「でも、二人は、幸福を感じながら最後を迎えたんだ。題名通りじゃないか」


自己犠牲の果てに二人は死に絶えた。それは二人の望む結末とは違ったのかもしれない。でも、それでも幸福だったのだと、僕は信じていた。


「自己犠牲はあんまし好きじゃないんだがな」仮町らしからぬ発言だった。

「君はそういうの好きだと思っていたよ。ヒーローみたいだから」

「いや、自己犠牲なんて誰だって嫌いだろ」


 僕がどうして、と聞く前に彼は言った。まるで僕が何を聞きたいのか分かっているみたいだった。


「自己犠牲するやつなんてのは、その犠牲の見返りを無意識に求めてんのよ。誰かに認められたい、褒められたい、っていう感じにな。なのにヒーロー面してやがる。質が悪いと思わねえか?」


 僕は答えなかった。だって僕は見ていたから。四月、彼は自己を犠牲にして僕の為に行動してくれた。そのことを僕は不快に思わなかった。彼はただ天邪鬼になっているだけなのだ。それを知っているから、答えなかった。


「そういえば、お前気になること言ってたな」答えない僕に気を悪くしたのか、少し不機嫌そうに言った。

「ボタンを押した理由のこと?」

「そうだ」

「いや、ちょっと考えただけだよ。ただの悪戯心で押したとは思えなかったから」

「でも良い線いってんじゃねえか?」


 校舎を空にしたかった。その推理が合っているのなら、空っぽになった校舎の中で何か良からぬことをやった人間がいたということになる。


「もし合っているなら、犯人はすぐ分かるんじゃねえか?」

「どうやって?」

「校庭に集まったとき、誰か人数確認をしたはずだろ避難なんだから。だったらどのクラスに誰がいないのか把握している人間がいるはずだ。多分教師の誰かに聞けば分かるさ」


 僕は納得した。納得した後考えて「いや、それはないと思う」と否定した。

「もし教師陣が人数を確認していたら、その後の犯人捜しの時間の意味がない」


そもそもあの時生徒の人数を確認している様子はなかった。


「つまりあの時既に誤報だと教師陣は分かっていたんだ。そのせいで人数確認をしなかった」だから校庭に集まってすぐお叱りを受けた。


「じゃあお手上げだな」仮町は軽々しく言って、軽々と両手を上げた。

「そうだね。まあ今のところ何か起こっている訳じゃないから」


 現段階ではただの悪戯としか言えなかった。何も起こっていないのにあれこれと考えても意味がないだろう。


「そういえば、昨日はなんで休んでたの?」僕は立ち上がり、カバンを肩に下げて帰る準備を始めた。仮町も立ち上がり、伸びをして高い身長をより高くした。


「ただのお見舞いだよ」なぜか低い声色で抑揚なく言った。まるで感情のこもっていない言い方に、僕はどこか恐怖を感じた。


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