女性の名前は
宿についた俺達は、早速自己紹介をした。
最初は召喚した女性の事をミリシアが、俺の嫁だと勘違いしたりだとか。
ミリシアが奴隷だと知ると、女性が俺を軽蔑の目で見たりと……一波乱――いや、二波乱あったものの、何とか俺とミリシアの自己紹介は終了した。
「それで、次はお前だ。名前は?」
俺は最後に残った女性に聞いた。
女性は記憶喪失っぽいので、名前がわからなければ俺が付けてあげようと思っている。
女性は名前を聞かれると、首を傾げてわからないようだ。
「わからないのか?」
「……思い、出せない」
「そうか。じゃ――」
「ステータスを見たらどうですか?」
俺の言葉を遮るようにミリシアが言う。
「ステータスを? 勇者以外が見れるのか?」
「はい、勇者様以外でも見れますよ。ささ、ステータス・オープンって言ってみてください!」
そうなのか。
俺はてっきり、勇者以外見れないものだと思っていた。
いや、そもそも勇者以外見れないってどんな理屈だよ……
女性はミリシアに促されるがまま、ステータス・オープンと呟いた。
「ステータス・オープン……えっと、ミシェリエ・ヴェルーダって名前みたい……」
「ミシェリエか、よろしくな」
「よろしくお願いします! ミシェリエ様!」
「う、うん。よろしくね……」
やはりまだ俺達に慣れていないのか、少し戸惑っていて元気がない。
そんなミシェリエに、ミリシアも心配してか「名前似てますね!」と、言ったりして励ましていた。
「所でミシェリエ。日本って知ってるか?」
「ニッポン? ……知らない」
「そうか……わかった」
ふぅむ。知らないのか。
俺と同じ黒髪黒目で日本人顔だから、日本の事を知っているかと思ったのだが、どうやら知らなかったみたいだ。
まぁ、名前は日本人らしからぬ、だし。
別に俺は同故郷の人に飢えているわけじゃないからな。
「あっ、あと俺さっきも言ったように勇者で、異世界から召喚されたんだ――で、俺死んだ身だから。改めてよろしくな」
危ない危ない。
この事を先に説明しとかないと、後々知られた時に「何でもっと早く教えてくれなかったんですか!」何て、怒られるかもだからな。
言っといて損は無いだろう。
「勇者……?」
「あぁ、そうだ。――と言っても、俺はあんまり勇者らしくないからなぁ〜」
「ご主人様はどちらかというと、大魔法使いですしね!」
「いや、俺は魔法使えないから……」
「えぇ! でも一瞬にして、こうシュン! って袋が消えましたよ!」
ミリシアは体を使って、その時の状況をミシェリエに説明しているが、ミシェリエは良くわかっていないようだ。
俺は苦笑いをしながら、ミリシアに教えてあげる。
「あれはアイテムボックスを使ったんだ」
「アイテムボックス、ですか?」
「そ、これだよ」
俺は背に掛けていたバックパックを前に持ってきて、肩から外す。
そして2人の前に出した。
ミリシアは興味深そうに、バックパックを色々な方向から見たりしている。
一方でミシェリエは、こういうのに興味が無いのか真顔でいた。
「触ってみてもいいですか!?」
「いいよ、ほら」
俺がバックパックを渡すと、ミリシアは「わ〜!」と叫んで楽しんでいるご様子。
そんなミリシアを見て俺は「眼福眼福」と、目の保養にする。
美少女の楽しんでいる姿を見て、俺は素晴らしいものだと今再び確信した。
「ミシェリエ様もどうですか! ハイになりますよ!」
「えっ……う、うん――クンクン……少し臭い、かな?」
おぅふ……臭いって言われた。
いや、多分俺じゃなくてバックパックのニオイが臭いのだろう。うん、絶対そうだ。
俺が軽い現実逃避をしていると、ミシェリエがバックパックのチャックを開けて、中を覗いていた。
すると――ミシェリエの眠たそうな目がカッ! と開かれる。
「凄い……」
「何が凄いんだ?」
俺はミシェリエに近づいて、バックパックの中を覗いてみる。
バックパックの中は、ただ白い空間だった。
俺が入れた袋や衣類が浮いており、まるで青い狸なロボットアニメの四次元ポケットのようだ。
「確かにスゲェな……」
「み、見せてくださいっ! ――わぁ〜……何か凄いですね!」
ミリシアはバックパックに顔を突っ込んで、中を覗いている。
その時――一瞬ミリシアが浮いたかと思うと、バックパックに吸い込まれた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ! ご、ご主人様助けてぇぇー!」
「何やってんだよ!?」
「……大変」
その後、俺はミシェリエに協力してもらって、何とかミリシアを引っ張り出す事に成功した。
それから数分後に、少女が部屋にやって来て朝ご飯ができたと言ったので、俺はミリシアとミシェリエに買った服に着替えさせて、2人と一緒に1階に隣接するようにある食堂に向かった。
■■■
「それで、今後はどうするんですか? ご主人様」
食堂ついた俺達は、対面するように椅子に座り、お喋りしながら朝食を食べていた。
朝食のメニューは、少し硬いパンとコーンスープ。サラダに林檎のような果物だ。
「そうだなぁ、とりあえずこの街を出たいと考えてる」
「……出る?」
「あぁ。少し事情があってな――それに、旅だってしたいし」
「旅ですか。楽しそうですね!」
ミリシアは乗り気のようだ。
ミシェリエは……相変わらずの真顔で何を考えているのかわからないが、無言は肯定と受け取っていいだろう。
すると、朝食を運んでいる少女が俺達に近づいてきた。
どうかしたのかと、俺は身構える。
「お客さん、旅の足はどうするつもりですか?」
「足? ――それなら、次の街まで歩こうと考えてるけど」
俺は少女を訝しげに見る。
少女は「あぁ、すみません。実はですね――」と言い、
「この国からだと、次の街まで30kmはありますよ。だから、馬車で行くのをオススメします」
と、続けた。
なるほど、警告をしに来たのか。
俺は警戒をするのがアホらしくなり、身構えるのを止めた。
しかし困ったな。
次の街まで30kmもあるのか。
それならば、少女の言う事を聞いて馬車に乗るのが得策か。
(あ、でも馬車ってどこで乗れるんだ?)
少女は困り顔の俺を見て、少し笑うと喋り出す。
「ふふふ。馬車なら乗合馬車をオススメしますよ、街の入口にありますからね。値段は銀貨2枚ほどで、護衛も付きますので安心です。多分そろそろ次の馬車が出発する時間だと思いますよ」
「そうか、ありがとう。教えてくれて」
「いえいえです。それでは私は仕事がありますので、失礼します」
少女は一礼すると、仕事に戻っていった。
俺とミリシア、ミシェリエは目を合わ合って頷くと、朝食を飲み込むように食べ出す。
「い、急いで食べなきゃですね! ご主人様!」
「う、うぐっ。そうだな、早くしないとだ!」
「……ん、食べ終わった……」
『早!?』
ミシェリエがさっきまでそこにあったはずの朝食を、一瞬にして食べ終えた事に、俺とミリシアは驚いた。
ミシェリエはまだ物足りないのか、おかわりをさっきの少女に頼んでいる。
まさかの大食いだったのか。
俺はミシェリエの意外な一面に、笑ってしまった。
「ははは……お金は腐るほどあるからいいけど、食べ過ぎて動けなくなるなよ?」
「ん……わかった」
口を一杯にして、まるでリスのように食べ物を頬張っているミシェリエに、また苦笑いながら、俺も急いで朝食を食べだした。
■■■
「出発進行ー!」
騎手のおじさんがラッパのような笛をピーっと鳴らして、出発の合図を出した。
馬車には俺達に以外にも、子連れの夫婦にお爺さん、俺くらいの歳の人が何人か乗ってる。
そして、馬車を守る護衛の3名は、馬車の横と後ろを並走していた。
「ふぅ〜……何とか間に合ったな」
俺は汗をタオルで吹きながら、溜息を吐いた。
「……ごめんなさい」
「大丈夫ですか? ミシェリエ様」
ミリシアは、食べ過ぎて腹を苦しそうに抱えているミシェリエを心配している。
あの後結局、
ミシェリエがバカみたいに食べ過ぎてしまい、動けなくなってしまったのだ。
だから俺が、勇者パワーを使って何とかミシェリエを担いで走る事により、何とか間に合って馬車に乗れたのである。
俺は紳士だから別に、ミシェリエを怒る事はしない。注意くらいで許してやろう。
だって胸の感触――コホン……役得でしたし。
「ミシェリエ、今度は食べ過ぎないように気をつけろよ? わかったか?」
「……うん」
俺は少ししょげているミシェリエの頭を撫でる。
すると、子供のようにパァっと顔を明るくした気がした。
感情の表現に貧しいミシェリエであるが、このギャップ萌えはなかなかのインパクトだ。
「うん、可愛いは正義」
「何ですか、それ」
「……独り言だ」
危ない、心の声が漏れてしまったか。
ふぅ、と冷や汗を手で拭いていると、ミシェリエの視線を感じミシェリエをチラッと見ると、
「……やらしい……」
ミシェリエは俺をジト目で見て、小さな声でそう言った。
うぅん……俺の扱い酷くないですかね?




