初戦闘とアイテムボックス
「へへ、嬢ちゃん俺達と遊ぼうぜぇ?」
どうしてこうなった。
イクシオさんの洋服店から、大量の衣類が入った袋を受け取り、俺とミリシアを分けて持ち宿まで帰っている途中。
ミリシアの可愛さにだろう、魅了された――いわゆる雑魚が絡んできた。
やっぱり、ミリシアの可愛さは凄まじいレベルの様だ。
「行くぞミリシア」
「は、はい!」
俺は空いた手の方でミリシアの手を握って、歩き出す。
構うだけ無駄という事だ。
そんな俺達の前に、絡んできた男2人が立ち塞がった。
「ちょ待てよ! 逃げてんじゃねぇよ!」
「そうだそうだ!」
ふぅむ、アニキと舎弟って所か。
それにしても面倒くさいな。
俺は普段から鬼木に睨まれていた為、こんな奴らは怖くないのだ。
2人の男は、俺が立ち止まったのを怖がったと思ったのだろう。
ニヤニヤと気持ち悪い余裕の笑みを見せる。
「ヘヘっ。どうしてもって言うんなら、そこの女置いてけよ。そしたら半殺し程度で済ましてやるぜぇ!」
「そうだそうだ!」
「――断る。残念だがミリシアは俺が買った奴隷だ。お前らには触らせないし、あげるなんて言語道断」
「んだと!?」
「アニキ! ぶっ殺してやりましょうよ!」
男2人は辺りに誰もいない事をいい事に、調子に乗っている。
一応俺は勇者なので、ステータスも強いし、多分こいつら如きには負けない自信がある。
すると、ミリシアが俺の服の袖を強く握った。
ミリシアの方を見てみると、俺を心配そうな目で見ていた。
「大丈夫だ。俺、勇者だから」
そう言って、ミリシアの頭を撫でてあげる。
ミリシアの髪はさらさらしていて、絹糸で作られた服より触り心地がいい。
ミリシアは少し照れたように微笑むと、「はい、ご主人様」と言った。
「おいお前! イチャついてんじゃねぇよ!」
「そうだぞ! アニキは昨日フラれたばかりなんだぞ!」
「何言ってんだかコラ!?」
「す、すいません!」
俺はミリシアから、漫才をしている2人に目を向けた。
武器らしき物は持っていない。
アニキと呼ばれた男は、筋肉隆々で強そうだ。
一方、舎弟の方はヒョロヒョロとしていて、簡単に倒せそうである。
俺はミリシアから少し離れると、未だに仲良く口喧嘩をしている2人に、地面を蹴るように走り出して接近した。
一瞬にして5mほどの距離を詰め、ヒョロヒョロの方に右ストレート。
ヒョロヒョロの方はこちらに意識が向いてない為、簡単に攻撃が当たり、バウンドしながら10mほど飛んだ。
「おぉう……力加減難しいな」
予想以上に威力が出てしまい、気絶して倒れているヒョロヒョロの頬を見てみると、赤く腫れて口から血を流していた。
歯でも数本折れたのだろう。
「お、おま、いつの間に!?」
一瞬にして現れた俺に、筋肉は驚いている。
俺はそんな筋肉を無視して、腕に力を溜めて正拳突きの如く腕を真っ直ぐ振った。
俺の拳は男の溝に入り、ちょっとした暴風を出しながら男は吹き飛んでいく。
「うん、余裕」
やはりただの筋肉ダルマだったか、と思いながらミリシアの方を見てみると、呆然と立っていた。
まさか本当に、俺が勝つとは思わなかったのだろうな。
ミリシアに近づいて、顔の前で手を振ると俺をキラキラした目で見て、
「凄いですご主人様! 最初の動きが全く見えませんでしたよ!? どうやってあんなに速く動いたんですか! あのカッコイイパンチは何なんですか!?」
と、猛烈な勢いで質問攻めしてくる。
俺はさっき言ったはずなんだけどな。勇者だって。
まさか信じてもらえてないのか。
「う、うん。とりあえずそれは宿に帰ってから話すから」
「わかりました!」
俺とミリシアは再び宿に歩き出す。
初戦闘とは言えないものだったが、結構いい感じだったと思う。
ミリシアにもいい所見せれたしな。
なんて思ってると、俺の頭の中に人工的に作られたような中性的な声が響いた。
【初戦闘おめでとうございます。ボーナスの確認をよろしくお願いします】
ん? と思ってると、勝手にステータスが開いてプレゼントボックスのようなマークがある事に気がついた。
ミリシアが俺を訝しげに見ているが、今はそれどころじゃないので、俺はステータスに意識を全て回す。
手を震わせながら、俺はプレゼントボックスをタッチした。
すると、パ〜ン! とクラッカーが鳴らされた音のような乾いた音が鳴り、【アイテムボックスを入手しました】と出た。
そして、ステータスにアイテムボックスが追加された。
俺はアイテムボックスを触って詳細を見てみた。
アイテムボックス:容量――大きさ関係なく――50個
【詳細説明】
・勇者のみに与えられる異次元のバックパック。
・欲しい物を思い浮かべると、入っている物なら出てくる。
・入れたいものを強く願ったら入れる事が可能。
・同じ物ならいくらでも入る。
「――勇者マジ最高」
俺はつい、そう言ってしまった。
アイテムボックス。これで服を持たずに済むじゃないかと。
「ミリシア」
「はい、どうかしましたか?」
「袋をくれ」
「え、でも……」
「いいものを見せてやるからさ、早く」
「わかりました……」
ミリシアは戸惑いながらも、俺に袋を渡してくれた。
俺はアイテムボックスに袋が入るイメージを頭の中で強く想像する。
すると、大きな袋が一瞬にして消えた。
「わぁ! どうなってるんですか!?」
「うん、成功」
「ご、ご主人様は大魔法使い様なのですか……?」
「大魔法使い? いや、だから勇者だって」
その後俺は、全ての荷物をアイテムボックスに入れて、手ぶらになってミリシアと仲良く帰った。
小さなバックパックを背負うだけで沢山物が運べるなんて、やっぱり異世界って最高だな。
でも、デザインが少しダサいかも。茶色でチャックで開けるタイプだ。
持ち運びに便利だから文句は無いけど。
あと、全く俺が勇者だって聞かずに、ミリシアの中では大魔法使いとして定着したようだ。
なんというか……ま、別にいいけどさ。