神はイケメンを愛している
俺とクラスメイトは今、熱い漢のクール・タービスと名乗った、あべこべな名前の騎士に城内の説明をしてもらっている。
「今勇者様方がお歩きになっていますのは! 城内東の1階廊下でございます! えー――」
このような調子でずっと説明をしているのだ。
クラスメイトも皆、うんざり気味に大事な所以外は適当に流している。
「あっ! そうでしたそうでした! 皆様のお部屋へ案内しなくてはいけませんでしたな!」
クールさんは「はははは! これは失敬!」と、何が可笑しいのか大笑いをしながら、階段を上がって2階に上がる。
それに列を成して皆も続く。
「はい! こちらが勇者様方のこれからしばらくの間、寝泊まりをする寮でございます!」
クールさんは、ドアが沢山並ぶ廊下を指さし、説明をした。
因みに、女子の寮は3回で、女性騎士の警備も付くそうだ。
これには女子達は「わ〜!」と安心していた。
まぁ、そうだろう。
知らない場所に突然召喚されて、ここに泊まれというのだ。
警備が居なくてはろくに寝れないだろう。
「うん、うんうん。それでは勇者様方、これにて案内は終了です! あ! あと夕食はあちらの時計台の針が19を指しましたら、食堂に来てください! わからない方は方はお近くのメイド、もしくは兵士まで!」
クールは最後まで、テンションマックスで言い終えると、「ははははは!」とまた笑いながら、俺達に礼をして足早に去っていった。
ここまでくると、変態の領域だ。
あんなに笑っていて、酸素不足で死なないのだろうか?
「ねーねー! 城の中探検しようよ!」
「あ、いいね! さんせーい!」
「私も!」
「俺らはどうする?」
「兵士の訓練でも見に行こうぜー」
と、皆も自由行動をし始める。
なお、城内から出るのはいいが、街に行くのはダメらしい。
クールさんがいうには、お披露目式なるものがあるんだとか。
「さて……俺はどうしよ」
とりあえず、部屋を確認しようと思う。
俺は自分の部屋に向う。
俺の部屋は真ん中辺りで、立地もいい場所だとか。
部屋の前につくと、ドアノブを握り、捻った。
そして、開ける。
(ここが部屋、ね)
中は6畳ほどのワンルーム。
机と椅子、魔石でできたランプに、ベッドがあるくらいの質素な部屋だが、贅沢は言えない。
それに、女子以外は皆同じ部屋らしい。
何故女子が同じじゃないかというと、女の子だからだ。
(暇、だな……)
椅子にもたれかかりながら、これからの事を考える。
俺は脱走をしたいと思っている。
国のために働きたくないのと、折角の異世界なのだから満喫したいって理由。
どうせ、戦っても俺より現段階で強い能力を持った奴らが活躍するだろうし、あまり俺の能力を知られたくない。
「……能力でも試してみるか」
やる事がないし、そうする事にした。
まず、ステータスを開く。
「ステータス・オープン」
名前:猪岐理希人
年齢:16
性別:男
レベル:1
体力:560/560
魔力:800/800
筋力:620
魔法:ガチャ《我は賭けをする》
ユニークスキル1:創造
武器
防具
兵器
兵士
これが俺のステータス。
弱いのか強いのかは、他の人を見ていないのでわからない。
俺は武器を押した。
すると、より詳細に武器の種類が増えた。
剣や槍、弓など、他にもあるが、沢山項目がある。
その中でも、一際目を引いたのが銃だ。
(もしかして現代兵器無双か!?)
踊る気持ちを抑え、震える手で押した――が、どうやらそう甘くなかったらしい。
全ての欄が、???で埋め尽くされている。
スキルレベルを上げろ、という事だろう。
「はぁ……ま、そんな簡単に使えても面白くないよなぁ」
次に、剣を押す。
(短剣と長剣か)
今回は短剣を押すことにした。
やはりというべきか、???でほとんど埋まっている。
でも、1つだけ表情されているのがあった。
ダガーナイフ:10/10《1秒》
ダガーナイフだけが、表示されていた。
10は多分だが、創造できる数の事だろう。
1秒は創造にかかる時間か。
俺はダガーナイフを創造してみた。
「おぉ!」
俺の手のひらの上に、光が集まり、ダガーナイフの形になっていく。
ステータスに書いてあるとおり、ほんの1秒で目則29cmほどの両刃ダガーナイフが形成された。
「へぇ……すげぇな」
ダガーナイフは本物のようだ。
刃に手を当ててみると、切れて血が出てしまった。
「よっ! っと」
木のタンスにダガーナイフを投げる。
だが刺さらなかった。
やはりナイフを扱ったことが全くない初心者には、投げて刺すのは難しいようだ。
「でも、練習すればいけそうだな」
何回かタンスに投擲した。
2回、3回、10回……
そして、68回目に漸く、刺さった。
「よっしゃ!」
自分のセンスの無さには泣けるな。
なんて思いながら、刺さったナイフを引き抜いていると、ドアがノックされた。
コンコンコン。
(や、ヤバイ! ナイフどうする!?)
焦っていると、ナイフが消えた。
え? と思い、ステータスを見てみると、創造して10/9になっていたのに、10/10に戻っていた。
(なるほど、戻す事もできるのか)
結構な高性能に、なんだか可笑しくなりながら俺は、ドアを少しだけ開けて訪ねてきた奴を覗く。
そこに居たのは、鬼木とその愉快な仲間達。
「なんか用か?」
「……あぁ、入れろ――」
「だが断る!」
「なんでや!?」
おぉ、此奴結構面白いかも。
おっと、いけないいけない。ゲス顔になりかけていた。
「で、用件は?」
俺は鬼木を部屋に入れずに、ドアの隙間から話す。
鬼木も俺の気持ちをわかってくれたのだろうな、話し始めた。
「いいか? もし、こっから元の世界に戻っても妹はやらねえからな!」
ホワッツ?
何を言ってるんだ此奴は……
あ、確か此奴の妹は俺に惚れてたっけ。
でも、別に俺は好きじゃないんだよな。
強面の鬼木と違って、美少女と呼べるほどに可愛いけど、タイプじゃない。
「えぇ、勿論。いりませんとも」
「んだとテメェ! ぶっ殺すぞコラ!」
鬼木は急に怒り出す。
何故だ。俺は鬼木がやらないっていうから遠慮なくいらないっていったのに。
情緒不安定なのか?
「お、おい! 鬼木もう止めとけって!」
「そ、そうだぜ! な、争いは止めようぜ!」
鬼木と一緒にやって来た2人が、今にも俺に飛びかかって来そうな鬼木を止める。
そんな2人に止められてか、鬼木も理性を取り戻してきたようだ。
「ちっ! 絶対にやらねぇからな!」
「うん、いらないから」
「テメ――」
バタン。
俺はドアを閉めた。
ドアの前では今も尚わーわー叫んでいる。
暫くすると、静かになってきた。
鬼木達がどこかへ行ってくれたのだろう。
「はぁ……一体なんだったんだよ」
彼奴はいつも、俺にああやって突っかかってくる。
ここに来る前も、鬼木の妹が俺に告白をしてきた時からずっと言いがかりをつけてくるのだ。
こちらの身にもなってほしい。
俺が椅子に座ろうとすると、またドアがノックされた。
俺はまた鬼木か? と考えながら、ドアをゆっくりと少しだけ開けた。
隙間から覗いた先にいたのは、クラスの白王子君だ。
「よぉ、何の用だ?」
「あぁ、すまないね。入ってもいいか――」
「だが断る!」
「……そ、そうかい。わかったよ」
うんうん。情緒不安定鬼木もこのイケメンを見習って欲しいね。
白王子君は少し苦笑いすると、喋り出した。
「コホン。じゃあ話すね、君に聞きたいんだ猪岐君。単刀直入にいうね、――君の能力はなんだい?」
「1つだけ聞こう。なんでそれを知りたい?」
「うーん、そうだね。強いていうなら、皆の能力を知っていた方が、もしもの時に役立つだろう?」
ふむ、なるほど。
流石は委員長よりまとめる力がある、白王子君らしいというか。
確かに理にかなってはいる。
でも、
「拒否する」
「な、なんでだい?」
まさか断られると思いもしなかったのだろう。
白王子君は愕然としている。
ここで適当な言い訳を言っても、無駄だろうな。
俺は言ってやる事にした。
「それはなんでかって? 俺は秘密主義だからだ。いいか? あの姫様はどう見ても怪しい、あれは何かを企んでいる顔だ。もしかしたら、何かを仕出かすかもしれない。――ほら、クールが言ってただろ? この世界の人は皆何かしらの能力を持ってるってな。
ここからの話はもしもの話だぞ? もし、能力強奪系の能力を待ってる奴がいるとする。そいつが、俺達の強い能力だけを盗っていったらどうするよ? 後に残るは生身の人間だ。モンスターと戦っている最中だったら? 死んでしまうな。
そして、もしその能力を姫様が持っていたら? 女は欲深いって言うだろ? 俺は死にたくないんでね、だから誰にも教えない。親しい人だろうとな。――ま、そういう事だ」
俺の話を聞いた白王子君は、少しだけ納得のいっていない表情をしていた。
そりゃそうだろうな。
白王子君は姫様の事を信じているんだろう。
「……そうか、わかったよ……僕だって無理には聞かないからね、じゃあまたね……」
白王子君は何やら考えている顔をしながら、そう言い残して去っていく。
再び訪れる静かな空間。
「ま、本当の事を言っただけだ」
能力強奪系は、恐ろしい力だ。
俺はよく、ライトノベルを読んだりしているからわかる。
最初は底辺に過ぎなくても、それはあとから化けるんだ。
最弱から最強になる。
もしもそれが、敵だと考えたら冷や汗が止まらない。
「ま、考えすぎかもしれないけどな」
姫様が本当に企んでいるかは、俺は神様じゃないからわからない。
あの演技のような演説をもし、本心でやっているのなら女優の道をオススメするレベルだ。
「プププ……思い出してら笑えてくるな」
コンコンコンコン!
(ん? また誰か来たのかよ……)
渋々椅子から立ち上がり、ドアを開ける。
ドアを開けた瞬間――そいつは俺に抱きついてきた。
「リキ君!」
「陽?」
次に訪ねて来たのは、幼馴染みの春風陽だった。
付き合いは長く、6歳からの付き合いだから、10年間ずっと一緒って事だ。
因みにだが、リキ君とは陽が付けたあだ名である。
「よう。まぁ、入れよって――もう入ってるか」
「えへへ……良かった……」
「ん? 何がだ?」
「えっと、ね。私ね、今日リキ君遅刻したでしよ? だから、こっちに来てないかと思って……でも、友達に聞いたらリキ君がいるって聞いたからさ! 急いできちゃったよ!」
「あぁ、そうだったのか」
うーん、心配かけてしまったか。
確かにあの日――つか今日俺は遅刻してしまって、巻き込まれた形だが、異世界に召喚された。
陽は相当俺が来ていないのかもと、思ったのだろう。
その目は少しだけ赤くなっている。
俺は無言で陽を抱きしめた。
「――ふぇ!?」
「すまんな」
「え、う、ううん! もう大丈夫だから! ね! とりあえず、離れよ?」
「む、そうだな。本当に大丈夫か?」
「うん! 大丈夫だよっ」
陽は大丈夫と言うが、顔が少し赤くなっている。
もしかして風邪か!? いや、でも抱きついた時に熱さは感じなかったしな。
大丈夫なはずだ。多分。
「それで、何のようだ?」
「用? あ、リキ君を確認するのが用だよ!」
そう言って陽は二パァと笑った。
うん、可愛い。
あ、因みにだけど、俺と陽は付き合っていない。
いわゆる恋人未満友達以上だ。
まぁ、幼馴染みで兄妹みたいな感じだろうがな。
陽も俺の事なんか好きじゃないだろうし。
フツメン最強田中よりかはマシだと思うが、俺は容姿成績共に普通だ。
でも、陽は違う。
140と小柄ながらに、可愛い系の美少女で、成績もいい方だ。
友達も俺より断然多く、告白をされる事も少なくないとか。
「な、なに? そんなに見つめないでよ、恥ずかしい……」
「すまん。可愛いなぁって思ってさ」
「え!? い、今なんて!」
「えっ、だから可愛いって言ったんだけど……」
もしかして難聴?
いや、ちゃんと会話できてるしな。
なんか陽の顔がさっきより凄い赤くなってるし。
今日の陽は可笑しいな。
「大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫だよ! えへへ……」
「そうか……あ、そういや陽のステータスってどれくらいだ?」
「ステータス?」
「そ、ステータス。俺は誰かと比べてないからさ、強いのか弱いのかがわからなんだよ」
「そうなんだ、ちょっと待っててね! ステータス・オープン!」
陽はステータスを出したようだ。
ステータスは他人には可視できないようになっているみたいで、凄い便利だと思う。
ま、鑑定とかそういうのには見られるんだろうけどな。
「えーとね、何を比べるの?」
「んじゃとりあえず、魔力でどうだ?」
「わかった! 私の魔力は960だよ!」
なるほど。俺が800だからあんま変わんないな。
と言っても、160も違いがあるけど……
「なぁ、陽。陽の友達はどれくらいなんだ?」
「私の友達? えっと確か私と同じくらいだったと思うよ! ――あ、でも1人だけ4桁の人がいたよ!」
4桁!? つまり1000って事だよな。
エグイな、てかそいつマジ勇者じゃねぇか。
「な、なぁ、陽。そいつの名前は?」
「白王子君だよ!」
(お前かいっ!)
まさかの白王子だった。
俺が驚いている事を不思議に思ったのか、陽が「大丈夫」と心配してくる。
俺は「あぁ、大丈夫だ」と返すと、思考する。
確かに彼奴は思いやりがあり、優しい奴だ。
天は2物を与えないって言うが、白王子君には3つほどあげている。
最強の勇者ステータスも入れて、四つ目という事。
拝啓、神様。彼奴狡くないですかね?




