ギルドマスターからの依頼 下 ~続き~
超爆発でできたクレーターの中に佇む満身創痍の俺と、鉄仮面の盗賊。
息を切らしながらも、お互いに武器を構えていた。
「畜生が……お前チートかよ、いやマジで。あれを至近距離で喰らって死なねぇっておかしすぎだろ……」
まだ立っている鉄仮面の盗賊を見ながら、俺は不満を吐き捨てるように言った。
とは言え、俺も生きているのだから相手の事を言えない。
「ケホッ……ぐはは! 俺様を嘗めんな!」
鉄仮面の盗賊は血を吐きながら斧を持ち上げる。
全身傷だらけの体で、何故そこまで動けるのだろうか。
俺は今にも倒れそうだが、魔剣を地に突き刺し、なんとか魔剣を杖にして立っている状態。
鉄仮面の盗賊はと言うと、頭に被っている鉄仮面が半分カパっと割れていて、少しだけ顔が見れるのだが……ニヤリと口元を吊り上げて俺に戦闘意欲を見せてきた。
「ぐはは! ぶっ殺すぞ小僧! 俺様の手下を散々殺してくれたんだからなァ!」
「やってみろ!」
鉄仮面の盗賊――いや、盗賊のボスは俺の返答に笑うと、斧を振り回してそのまま斧の遠心力に任せてこっちに飛んできた。
台風のように風を辺りに吹き荒らしながら向かって来る盗賊のボスに、俺は魔剣を握り構える。
《主人、これは不味くないか?》
「あぁ……やばいな」
《ふむ……なにやら策があるようだな。妾は主人に操られるがままよ。好きに扱え》
リリは吹っ切れたように言い、喋らなくなった。
俺の心を読むんじゃない、と思ったりもしたがわざわざ説明をする手間が省けたのだ。
今だけはリリに感謝するべきだろう。
(……やるしかない)
俺が思考を巡らせている間にも、盗賊のボスは接近してきているのだ。
早く行動をしなくては、俺は木っ端微塵にされてしまう。
「ぐははははは! ゲホッ……ぐはは!」
(来た!)
盗賊のボスが後5mにまで近づいてきた刹那、俺はバックパックから時限爆弾を取り出した。
タイマーは勿論3秒にセットしてある。
一分一秒を争うこの戦いで、一々タイマーをセットしていたら俺は死んでいただろうから、本当に数時間前の俺GJだ。
「オラァ!!」
盗賊のボスが雄叫びを上げながら迫って来る――俺は時限爆弾を片手に、盗賊のボスに立ちはだかる。
気分は最悪で最高。
嫌な汗が吹き出て背中が蒸れるが、今は気にすることじゃない。
「はぁぁぁぁぁ!」
俺は時限爆弾を投げた。
時限爆弾は盗賊のボスのように回転しながら宙を飛ぶ。
そして、風と一体化した斧に触れて――爆ぜた。
爆炎が盗賊のボスを包む。
渦巻いていた風に炎が加わり、まるで台風の目となっている盗賊のボスを焼いているのだろう「ぐァァァァァァァ゛ァ゛ァ゛!」と、盗賊のボスは絶叫する。
「や、やばい!」
相当な熱を感じているだろうに、もはや盗賊のボス意地になっているのか、止まることなく近づいてくる。
俺は、迫り来る炎の渦に恐怖で足が竦み、動けなくなった。
(クッ……)
挙句の果てに俺は目をつぶってしまい、刻刻とその時を待つだけとなってしまう。
逃げようにも外も中も体がボロボロで力が出ず、俺は動けない。
そして俺は悟ってしまった。
これが、死の恐怖なのかと。
先天的な防御本能で俺は顔を腕で隠し、ただ死を待つだけのモノとなり、ある種のゾーンに入った。
いつもより時が遅く感じる。
今の俺は音が、匂いが、全ての感覚が冴えて何でもできそうな錯覚を覚えた。
(やってみるか?)
リリは俺に全てを任せると言ってくれた。
つまり、信じてくれた。
俺の力はなんだ。
俺の力は、誰かを守るためにあるのか?
(いや、違う。願望を叶えるためにあるんだッ!)
戦おう。そう俺は思い、体に鞭を打って立ち上がる。
ゆっくりと瞼を開けてみると、周りが全てスローに感じた。
俺は魔剣を片手で握り、横に真っ直ぐ持ち上げた。
ミスティニーさんのありがたいお言葉を思い出せ。
ミスティニーさんは魔力とは心と言っていた。心強き者、魔力を完璧に操れ、我が物にできる――と。
イメージはかの有名なエクスカリバー。
漆黒の闇が魔剣リリを包んでいく。
ドス黒い魔力が俺の全身を包む。
(嗚呼……最高の気分だ)
気分が高揚して意識を失いそうになるが、なんとか抑えて黒いオーラを放っている魔剣を炎の渦に向けた。
全身を包んでいた魔力を魔剣に持っていき、より強力な魔力を重ねる。
「消えろ……邪魔だ」
俺自身も驚くほどに冷えた声質でそう言って、魔剣を上に掲げ――振り下ろした。
魔剣から黒い波動が数回放射されると、さっきまでそこで燃え盛っていた炎の渦は最初からそこに無かったかのようにどこにも無かった。
盗賊のボスを包んでいた炎の渦も、その後ろに広がっていた森も、全て消し飛ばしたのだ。
「ふぅ……雑魚が」
口が勝手に喋ってしまう。
まるで誰かに体の主導権を握られたようで、俺は気持ち悪くなる。
【安心しろ。お前の体を握っているのはオレだ】
(お前は、誰なんだ?)
【オレはお前でお前はオレだ】
何を言っているのだろうと思った瞬間、体の主導権を再び俺に移り、やっと自分で喋れるようになった。
あれはなんだったのか……脳内で聴こえた声は、いつもの直感の声と同じだった。
もしかしたら、俺は二重人格なのかもしれない。
「リキト君!」
「シシリエラ、さん……」
気がつけばシシリエラが俺の近くにやって来ていて、万感の思いを抱いているような複雑そうな顔をしていた。
俺の意識は朦朧として、シシリエラの方に歩きだそうとすると足がフラついて転んでしまった。
地面が迫ったすぐそこに迫るが、何故か俺の体を宙で止まった。
ふと見上げてみると、シシリエラが魔法陣を展開して俺を魔法で止めてくれたみたいだ。
「大丈夫……? すぐに回復魔法を掛けてあげるわ」
「ありがとう、ございます……」
シシリエラの柔らかい膝の感触を感じながら、俺は温かい薄緑色のオーラに包まれる。
温かみを感じた俺は、何故か涙を流してしまった。
「……泣いて、いるの?」
横で辺りを警戒しているミシェリアが訊いてくるが、俺は答えることができない。
色々と胸のうちから込み上げてきて声が出せないんだ。
「すみません……少し、寝ます」
シシリエラの回復魔法で傷口はある程度塞げたが、血液が足らないのか意識が途切れ途切れになり、今にも気を失いそうになった俺は、微々たる静音で2人に伝えると、目を瞑った。
この戦いは俺に教えてくれた。
俺は自分の力を過信していたのだと、まだ未熟な癖に調子に乗っていたのだと。
もしも、あの時アレが来なかったら俺は間違いなく死んでいた。
(強くなりたい……)
明日からモンスターを沢山倒そう。
そうだ、冒険者にでもなってみようかな――強くなるために。
俺は情けない自身の弱さに悔しくて震えながら、永遠と続く暗闇に落ちていった。




