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ギルドマスターからの依頼 下

 俺とミシェリアは、シシリとの待ち合わせ場所でシシリを待っていた。


 街の出入口となる門は、横幅20m高さ40mの巨大な防壁。

 壁の上には大砲にバリスタといった兵器が置いてあり、兵士が上や下から不審者がいないかを、異常がないかを監視している。


 俺はそんな街の出入口前で待っていること数分。

 シシリがさっき俺の屋敷であった時の露出多めの扇情的な服と違って、白を基調として真っ直ぐと赤い刺繍が施されたローブを着て俺達の前に現れた。


「ふふふ、待ったかしら?」


 シシリは口に手を持っていって上品に笑う。

 シシリは俺が毛嫌いする人種だと思ったが、このシシリは正直に言うと好みだ。


 ローブは全身を包み隠せる大きさがあるが、デカイ胸は隠しきれていない。

 プルンと艶っぽく光る唇が俺を惑わしてきて、心を惹かれてしまう。


「い、いや、待ってないですよ」


 いかん。少し早口になってしまった。

 

 シシリはフフッと妖艶に笑い「そう、良かったわ」と言った。

 

「とりあえず、自己紹介でもしますか? これから一緒に依頼に行くんですから、お互いの名前を知っていた方がいいですよね?」


 俺はそう提案した。

 実際の所、シシリさんの名前を知りたいという欲望が7割を占めているが、名前を知っていた方がいいのは正論なので大丈夫なはずだ。


「一理あるわね。私はシシリエラ・ローゼリアよ。よろしくね、勇者君」


 シシリエラ……いい名前だ。

 それにシシリエラは語尾に音符マークが付きそうな感じで、勇者君と言ってくれた。


 ギルドマスターがシシリエラをシシリと呼んでいたということは、シシリは愛称なのだろう。

 俺はまだシシリエラと仲良くなっていないので、シシリエラと呼ぶことにする。


 失礼な人と思われたくないからである。


「シシリエラさんですか、俺の名前は理希人猪岐って言います。呼び方はご自由にどうぞ。で、こっちは俺の相棒のミシェリアです」


「……どうも」


 ミシェリアは小さな声で挨拶をする。

 そんなミシェリアに優しく「恥ずかしがり屋さんなのかな?」と言って、微笑んでくれたシシリエラは女神だろう。


 いかんな……このままではシシリエラ脳になってしまう。でも抗えないから仕方が無い。

 

「それじゃあ2人とも。時間もあまりないわ、だからそろそろ出発しよっか」


「えぇ、そうですね」


 時間的には昼間を過ぎた辺りだ。

 このまま森に行って盗賊団を破滅し、街に帰ってくる頃には夜になっているだろうから、確かに今すぐに出発した方がいいだろう。


 俺達は会話をしながら、盗賊のアジトがあるヤクルトの街付近の森に向かった。



 ■■■


 

「うぉっと!」


「あら、危ないわよ? 気をつけなさい、ここは盗賊団が根城にしている森。罠もあるかもだから、下を見なきゃダメよ? 勿論上や横もね」


 俺は転びそうになり、シシリエラに注意されてしまった。

 顔が熱くなるのを感じながら、俺は頷いた。


 鬱蒼と生い茂る木や雑草を描き分けながら、俺達は盗賊団のアジトがあると思われる森の奥に向かっている。

 途中、俺がドジを踏んでしまって罠に引っかかりそうになったが、シシリエラとミシェリアが守ってくれて、なんとか五体満足でここまで来れた。


 そう、俺はイイトコなしなのだ。

 このままでは俺はドジっ子という不名誉なレッテルをシシリエラから貼られてしまう。

 でも、気をつけようが何しようが、この道無き道を歩いているのだから、転ばない2人の方がおかしいとも俺は思った。


「止まって」


「え?」


 突然シシリエラが止まるように言ってくる。

 俺はなんだろうと思っていると、シシリエラが近くに落ちていた木の枝を拾って前に投げた。

 すると、地に落ちた枝はトラバサミに挟まれて粉々に砕け散った。


「わ、罠?」


「えぇ、そうよ。流石盗賊団が住んでいる森ね、卑怯な罠が沢山あるわ」


 シシリエラは心底ウザそうに言うと、トラバサミを避けて前に進み出した。

 それに合わせて俺とミシェリアもトラバサミを避けてついて行く。


 シシリエラが言うように、これまでにも罠が沢山あったが、その度にシシリエラが見つけて回避していた。

 シシリエラさんは一体何者なのだろう。

 ギルドマスターの娘さんという事はわかっているが、それ以上の事を知らない。


 だけど、俺が今ここで訊いても失礼なだけだろうと判断し、無言で俺は前に進む。


 薄暗い森の中をしばらく進み続けると、アジトらしき洞窟が見えてきた。


「あれは?」


 俺がシシリエラに確認するように訊いてみる。

 シシリエラは頷いたので、あれは盗賊団のアジトだと思っていいだろう。


 洞窟の前には門番が2名いて、槍を持って立っていた。

 装備らしい装備は衣服と粗末な槍以外ないので、盗賊団の中でも下の奴らなのだろうと予測できる。

 

 俺達が今いる場所と盗賊団アジトの洞窟の距離は大体100mくらい。

 周りは草木で囲まれているので、俺達の姿を門番に見つかる事はないだろう。


 俺は早速、例の物をバックアップから取り出した。


「な、なに……これ?」


「これですか? カノン砲です。大砲とも言えますね」


 シシリエラはキョトン顔でカノン砲を見ている。

 それもしょうがない。急にゴツイ兵器が何もない場所から現れたら、誰でも驚くものだ。


 俺は盗賊団のアジトにカノン砲を向けて、その時を待つ。

 作戦はこうだ。

 まず、門番2人の丁度真ん中に1発ぶち込んで吹き飛ばす。

 そして音に驚いて中から出てきた盗賊達にもバンバンぶち込んでいく。

 無論、これは俺の実力を測るための、言わば依頼なので、俺は最後の敵――できれば盗賊のボスが出てきたら俺は前線に飛び出し、戦いに行く。

 

 さすれば俺の強さは証明されて、シシリエラが俺に惚れ――コホン……いい感じの感情を抱いてくれるかもしれない。


「2人とも、耳を塞げ!」


 2人に俺はそう言った。

 ミシェリアすぐに耳を塞ぎ、シシリエラは訝しげに俺を見ながらも耳を塞いでくれた。


 俺は2人が耳を塞いだのを確認すると、張り裂けんばかりに叫んだ。 


「時は来た! 俺の計画のために、餌食となれぃ! 放てぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 合図とともに、カノン砲から爆音が上がる。

 あまりの轟音に俺は顔を歪めながらも、なんとか耐えた。


 カノン砲の砲撃は一瞬にして盗賊2名にたどり着き、辺りを吹き飛ばした。


「いいネ! 最っ高だネ!」


 テンションを鰻登りにさせながら、新たな盗賊がアジト内から出てくるとほぼ同時にカノン砲再発射可能になったので、俺は再び砲撃した。


「撃てぃ!」


 ドゴーンッ!!


「撃ててぃ!」


 ドゴーンッ!!


「撃て!」


 ドゴーンッ!!


「撃て」


 ドゴーンッ!!


「撃てー」


 ドゴーンッ!!


 何発も何発も撃ち続けていると、飽きは来るもの。

 鼓膜が破れて何も聴こえなくなり、俺は一旦砲撃を止める。


 横で耳を塞いでいたシシリエラは俺に向かって何かを言っているが、鼓膜が破れてキーンと甲高い音しか今の俺は聴こえないので、とりあえず頭を下げてお詫びをしたが、シシリエラはなにやらガミガミと言い続けてきた。


 だがやはり、何にも聴こえないのでシシリエラを無視し、出入口がカノン砲の砲撃によって完膚なきまでに破壊された、何が何だがわからなくなった盗賊団アジトに俺は走っていった。


(うわぁ……カノン砲の威力ヤバッ!)


 たったの6発でここまで破壊できるとは、やはり兵器は恐ろしい。

 俺はまだ息のある盗賊を、魔剣で首を斬って確実に殺していきながら、立てる奴を探す。


《むむむ……我が主人よ、これは何があったのだ?》


 盗賊を根絶やしにしていると、リリが訊いてくる。

 リリは鞘に入れていると何も聴こえなければ何も見えない状態なのだ。

 だから、起きたらこの惨劇だったので驚いだのだろう。


「これかぁ! これはだなぁ、砲撃があったんだ!」


 耳がイカれて少し大声になりながらも、リリに説明をした。

 

《むむ、砲撃か……そのような言葉は妾は知らんな》


「まぁ、そうだろうな! ん? 誰かいるのか!」


 目の前に何かの動く影を見つけた俺は、叫んで呼びかける。

 すると、直径50センチほどの炎の塊が飛んできた。


「うわっ!」


 俺はなんとかバックステップで炎の塊を避けて、炎の塊――魔法を放ってきた奴を凝視した。


 そいつ(・・・)は3mもある、巨漢。

 右手に1mはある血が付着した斧を持っていて、左手には魔法陣を展開していた。

 顔は鉄仮面で覆われていて良くわからないが、ニヤリと笑っている――そう、俺の直感が言ってきた。


「お前――」


《避けるのだ!!》


「え?」

 

 リリが焦るように俺に言ってくるが、俺は何が何だがわからずに呆然と硬直してしまった。

 しかし、すぐにリリの言葉の意味がわかった。


 俺の直感が頭の中に警告音を響かせ、避けろ避けろと言ってきたのだ。


 俺がその場から飛び退くと当時に――俺が立っていた場所に鉄仮面の巨漢が持っていた斧が突き刺さっていた。


「あ、あれは?」


「ぐはは! これを避けたか!」


 鉄仮面の巨漢の掠れた声が嫌に聴こえる。

 ステータスの影響か、鼓膜の修復が早いのだろう。

 だんだん良く耳が聴こえてきた。


 鉄仮面の巨漢は丸太のように大きな腕を上に振り上げて、鉄の鎖で繋がれた斧を力強く引っ張り回収した。

 そしてまた俺に斧をぶん投げてきた。


「こん畜生!」


 魔剣でなんとか斧から身を守ったが、あまり衝撃で腕が悲鳴をあげる。


 俺はバックパックに入れていたダガーナイフを取り出すと、すぐに魔力を3層手に重ねて、投擲。

 ダガーナイフは刹那的に鉄仮面の盗賊まで接近した――が、鉄仮面の盗賊はひらりと身を傾けてダガーナイフを避けてみせた。


「ぐはは! なんだそれは! 面白いなぁ、俺様もやってやる!」

 

 俺は首を傾げるも、いつでも攻撃を避けれるように鉄仮面の盗賊を視界に入れておく。

 鉄仮面の盗賊は斧を回収すると、なんと、俺がやった様に魔力を手に重ねて斧を投げてきた。


「ふざけ――ぐぅぅ!!」


 斧は悲鳴に近い叫びを上げる前に魔剣に直撃し、俺の体は地面から離れて吹き飛び、木に体を打ち付けた。


「クハッ……」


 木に衝突した事により、肺から空気が全て抜けて苦しくなり俺はもがく。

 なんとか息ができるようになると、鉄仮面の盗賊を殺すために走り出した。


 体を動かす度に体中が悲鳴を上げることから、どこか骨が折れてしまったのだろう。

 だけど、それでも俺は止めることはできないし、アドレナリンがドバドバと出て痛みはあまり感じない。


 今の俺は戦闘狂となんら変わらない。


「ハァ!」


「ぐはは! 死ねやッ!!」


 巨大な斧が俺の顔目掛けて迫ってくる。


 俺は魔剣に魔力を大量に重ね、斧を受け止めた。

 斧と魔剣がぶつかり合うと衝撃波が発生して、辺りにある物全てを吹き飛ばした。


「死に晒せ小僧ッ!」


 鉄仮面の盗賊が叫んで斧に魔力を重ねた。

 魔力は多く重ねれば重ねるほど、色が出るとミスティニーさんが言っていた。

 20層重ねれば、赤色になると言っていた――この鉄仮面の盗賊の斧は、赤色のオーラに包まれている。


 即ち、鉄仮面の盗賊は20層魔力を重ねたという事だ。


(あぁ……死ぬかも)


 そう思った次の瞬間、鉄仮面の盗賊が俺を切断しようと巨大な斧を振り下ろしてきた。

 俺は魔剣でなんとか防ごうとし、魔力を今の俺の限界である10層重ねて、守りの体勢に入る。

 

 ミスティニーさんはこうも言っていた。

 魔力を重ねた武器同士での戦いでは、大きな魔力と魔力が衝突すると、大きな爆発を生み出す――と。

 

 ミスティニーさんに感謝を伝えないと、と心の中で思った時――ついに斧が魔剣に当たり、キラリと閃光が俺の視界を、辺りを埋め尽くした。


 

 


 

 


 


 

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