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魔剣幼女

 昼食後、俺は散歩がてら街を散策しようと思ったのだが、ここで困った事が発生した。

 誰を連れて行くか? である。


 ミシェリアはいつもの様に食い過ぎてダウンして、今は部屋で寝ている。

 アイシスは全体的に俺に硬いのでダメだ。

 エミリーに関しては、おどおどするのでダメ。


 と、言うことで、


「頼むぞ、ミシェル」


「はい! お任せください!」


 自然的にミシェルにお鉢が回って来るのだ。


 別に戦いに行くわけじゃないので、ミシェルでも俺のお供は務まる。

 力もあるし、ミシェリア、アイシス、エミリーと違って会話力も高い。


 あれ……ミシェル最高じゃね?


「あの、ご主人様……そんなに見つめないでくださいっ。恥ずかしいです」


「あ、あぁ……ごめんごめん。さ、行くか」


 やっぱりミシェルの笑顔は破壊力がある。 

 

 そう思いながら、俺はミシェルと一緒に街に繰り出した。


 街は昼ということもあり活気がある。

 俺が今歩いている場所は商業地区。

 ここは鍛冶屋などの店が建ち並び、商人の多くが倉庫を置いている場所でもある――そう、この街の案内図に書いてあった。


 商人の店もあるために、自然と奴隷商も勿論あるため、奴隷が度々俺達の横を通る。

 その度にミシェルの顔が暗くなるので、俺はできるだけ人通りの多い場所を通って、奴隷をミシェルに見せないようにした。


「ごめんなさい……」


 ミシェルが俺に何故か謝ってくる。


「気にするな」



 俺はとりあえずそう言ったが、ミシェルの顔は晴れない。


 やはり奴隷のミシェルには、同じ奴隷を見ることが辛いのだろうか。

 俺だって奴隷を見るのはあまり慣れない。元々奴隷なんていない時代に生きているしな。


 できれば奴隷全てを買ってあげたいが、俺には無理だ。

 金はある。だけど、全員の面倒を見るとなると不可能に近い。

 全てが全て、金で解決できるわけではないのだ。

 

(空気が重いなぁ……) 


 いつもバカに元気なミシェルが暗くなってしまうと、俺の心も曇ってしまう。

 俺に何か面白いことが言えればいいのだが、残念ながらそれは無理だ。

 元々コミュ障なんだよ俺は。


「ご主人様、その……これからどこに行くんですか?」


 俺が思考に耽っていると、ミシェルから話題を持ち掛けて来た。

 ミシェルに気を使わせてしまって、本当に俺はご主人様失格だな。


「武器を買いに行こうと思ってるんだ」


「武器、ですか? ご主人様は武器を作れますよね?」


 ミシェルが言っているのは、創造の能力についてだろう。


 確かに武器を作ることはできるが、俺が創造の力で作る武器は普通・・なのだ。

 俺が作るのは癖がなく、面白味のない物。


 職人が長い時間を掛けて作る武器と違い、俺のは一瞬でできてしまう。

 本物を知らない初心者が何を言っているのか、と怒られそうだが、やっぱし職人が丹精込めて作ってくれた武器を使いたいと思う俺がいるのだよ。


「確かに作れるよ。でもさ、職人が作った武器を使いたくない?」


「はぁ……そうですかー」


「うん、適当だな」


 この気持ちを言葉にしてミシェルに伝えるには、2時間は掛かる。

 しかしミシェルはあまり興味無さそうなので、武器について語っても意味がないだろう。


 少し元気になったミシェルと会話しながら歩くこと数分。


 やっと剣のマークが描かれた看板が下がる武器屋についた。


「こ、ここに入るんですか? ご主人様……」


「当たり前だろ?」


「でも……ここって――ボロくないですか!?」


 ……うん、確かに。


 俺が来た武器屋は大通りにある巨大な建物の中に構える武器屋と違い、路地裏にひっそりと佇むボロボロの武器屋だ。


 異世界ファンタジーで路地裏にある武器屋には必ずと言っていいほどに、インテリジェンスソードだとか、良く喋る魔剣だとか、錆だらけの聖剣などがあるのが定石。


 だから俺はこのおんぼろ武器屋に来たのだ。


 木製の汚れたドアを開けて、中に入る。

 すると、埃がブワッと宙を舞って少し咳をしてしまった。


「いらっしゃい……」 


 奥のカウンターに座っている店主のおっさんが俺達を出迎えてくれたが、すぐに目を逸らして欠伸をしだした。


「や、やっぱり大通りに行きましょう! こんな所にいい武器があるとは思えませんよ!」


「まぁまぁ、掘り出し物が見つかるかもしれないだろ?」


 俺は叫ぶミシェルをほっといて、埃を被った武器が並んでいる棚を見ていく。

 ほとんどが俺には業物に見えるが、鑑定などの便利な能力がないので価値が良く分からない。

 

(この店は剣専門店なのか……)


 棚に並ぶ剣から目を離して、チラッと男を見てみると、俺を見返してきてニヤリと笑った。

 伸び腐った髪がその髪と合い、この男は不気味だ。


「ヒヒッ……お客さん、剣は初めてか?」


「あ、あぁ……そうだが」


 この男が言っている言葉の糸は、剣の見方を知っているか? という事だろう。

 俺の直感がそう言っている。


 男は「そうか……」と微かに呟くと、店の奥に行った。


 一体なんだったのだろうか? と、首を傾げていると、男が鞘に入った1本のショートソードを持ってきた。


「それは?」


「これかぁ? 俺ぇの店に長く眠ってる魔剣さァ……ヒヒッ」


「へぇ……それで、いくらだ?」


「フヒヒ……この剣は値段がつかねぇんダヨ」


「どういう意味だ?」


 俺がそう訊くと、男は煙草を吹きながらニヤニヤと笑った。

 

 まさか、持ってきておいて売れないなんて事はないよな?

 もしもそうだったら、この男をぶん殴ってでも魔剣を奪ってやるがな。


 なんて少し危ない事を考えていると、男がまた喋り始めた。

 

「フヒヒ……こらぁなぁ、主人を選ぶのさ」


「選ぶ……ね。で、俺にどうしろと?」


「握れ。そぉすりゃわかるのサ」


 ふむ……即ち、この魔剣に触れれば魔剣が俺は主人に相応しいかを測るという事か。

 定番中の定番なイベントに、俺は面白いと思った。


 男から魔剣を受け取ると、俺は鞘の部分を強く握る。

 そうすると、何やら魔剣から声が聴こえてきた。


《モット 強ク 握レ》


 魔剣からそう言われた俺は、遠慮なく握る。


《ンヒィ! 強スギ! オ主ハバカカ!?》


「ん? お前が強く握れと言っただろ? ほーれほれ」


 俺は更に力を入れる。

 

 俺が力を強くする度に喘ぎ声に近い叫びをあげるので、少し嗜虐心が刺激されてしまった。

 俺は力を弱めて、息を荒くする魔剣に謝る。


「ははは。すまんすまん、少し面白くなったからついな」


《ナニガツイデダ! フザケロ!》


 うん、この魔剣面白いな。


 少し幼女声が気になるが、剣と思えばどうとでもなる。

 俺は鞘から刃を取り出してみた。

 鞘の中から出てきたショートソードの色は、漆黒。

 黒い刃とは……素晴らしい。


「ほぅ……お客さん、声が聴こえるんで?」


「あぁ、聴こえるぞ。それで貰えるのか? 金がいるならいくらでも出すが」


「フヒヒ……いやいやお客さん、魔剣がアンタを選んだんだ。金なんざいらねぇサ」


「そうか、感謝するよ」


 俺は男に頭を下げて感謝した。

 男は「いいやい」と言い、木の椅子にギシッと音を部屋に響かせながら豪快に座って煙草を吸い始めた。


《ワ 妾ハツイニ主人ヲ持ッタノカ フム 確カニ力ハアリソウダナ ウム 我ガ主人ヨ コレカラ頼ムゾ》


「あぁ、頼む。それとさ、その片言な喋りはなんとかならないのか?」


《ム、いやできるが。キャラがあった方がいいだろ?》


「キャ、キャラって……」


 俺はキャラ作りなんてしている魔剣に唖然とする。

 

 確かに、魔剣がギャル顔負けのギャル語で喋っていたら怖いが……キャラなんて言っている時点で、この魔剣は色んな意味でヤバイ気がする。


「あ、あの……何を話しているんですか?」


 俺と魔剣が話していると、不思議そうな顔をしているミシェルが会話に入ってきた。


 あぁ、魔剣の声は俺以外に聴こえないんだった。


 男は魔剣が喋る事を知っていたが、ミシェルからしたら俺が独り事をブツブツ言っている様にしか見えないだろう。

 

《妾が変身しようかの? そうすればこの知性の無さそうな女子おなごにも、お主と妾が喋っている事が伝わるだろう?》


 ミシェルよ、物凄い言われようだな。

 確かにミシェルはアホの子だが……って、俺までミシェルをバカにしてどうする。


 ミシェルは確かにアホだが、それはミシェルのチャームポイントだ。


 それはそうとして、本当に変身なんてできるのか?


《うむ、できるぞっ》


「うわぁ! いきなり俺の心を読むな! 俺は怖がりなんだぞ!」


《む……すまない》


「はぁー……いや、俺も悪るかったよ。――で、本当に変身できるのか?」

 

《できると言ってるだろうに。では――》


 魔剣はそこで言葉を止めると、何やら唸り出す。

 そして、光ったと思うと俺の手から離れて――幼女になった。


「うわ! なんですかこの、急に現れましたよ!?」


 ミシェルは急に現れたと思ったのか、魔剣……幼女に驚いている。

 刃が漆黒色だったからか、幼女の髪はミシェリアと同じく黒色で、目も黒い。

 肌は茶色で健康的。

 

 幼女は目をパチリと開けると、「ふむ……久しぶりのこの姿だな」と言いながら体を動かしている。


「こいつが俺と話していた魔剣だ――名前は?」


「妾か? 妾はイクリシア・リリ・アービヤン。好きに呼べ、我が主人よ」


 リリはそう言うと、俺にトコトコと近づいて来て抱きついた。

 クンクンとニオイを嗅いだりする姿は、何故かギルドマスターを思わせる。

 もしかしてリリは匂いフェチなのだろうか?


 ギルドマスターのようなお年を召している方ではなく、幼女なら俺も嬉し――コホン……まだ気を許せる。


「わー、私にも抱きついてください!」


「嫌だ。妾は主人と認めた者以外に体は許さぬ!」


「えっ!? そ、そんなぁ……羨ましいですご主人様!」


 ミシェルはなんとか触れようとリリに近づくが、すばしっこいリリにミシェルは苦戦しているみたいだ。


 俺は店の中を走り回る2人を避けて、男に近づいて頭を下げた。


「すまん、騒がしくて」


「フヒヒ……イイってもんよ。あぁ、そぉだ。俺っちから助言してやる――あの魔剣には気をつけなァ……それだけだ。ヒヒッ……」


 俺は男の言った言葉の意味がわからなかった。

 

 リリは魔の剣と書いて魔剣。

 呪いかなにかがあるのだろうか?

 

 俺にはそうは思えない。リリはミシェルと楽しそうに追いかけっこ――とは言えリリは嫌な顔をして逃げているが――をしていて、とてもじゃないが悪い子には見えないのだ。


(ま、もしも何かあってもその時だ)


 俺は仮にも巻き込まれた勇者。

 闇が降りかかろうとも払ってやる。

 仲間を――守ってやる。

 

「リリごとな……さ、2人とも! 遊んでないで早く帰るぞ。あとミシェル、あんまりリリに抱きこうとするな」


「こ、これが遊んでいるように見えるのか!? お主の目は節穴なのか!?」


「むぅ〜……はい、わかりました」


 リリは俺にパンチをして来たが、鞘で受け止めるとなんと! 魔剣に変わってしまった。

 どうやら鞘をリリに当てると剣に戻す事ができるようだ。


 ミシェルは剣状態になったリリに驚きの目をしている。


「ほ、本当に剣だったんですね……」


「? さっきそう言っただろ?」


「は、ハハハ……」


 ミシェルは力なく笑った。

 どうもミシェルは疲れているみたいだ。


 俺はフラフラしているミシェルの体を受け止めて、背中に手を回し、足を持った。


「よっと!」


「――へ!? な、何しているんですかご主人様!?」


「何って、お姫様抱っこだけど?」


「は、はわわわわわわわ……」


 おぉ……赤面ミシェル可愛いな。


 ミシェルは頭全体を真っ赤にして、まるでアニメのように顔から煙を上げている。

 俺が見過ぎたのか両手で顔を隠して、「み、見ないでくだちゃい!」と噛んだ。


《ふん。何をイチャイチャしているんだ! 妾も混ぜ――……》


 少しリリが喚き始めたので、鞘にしっかりと入れた。

 リリは鞘にちゃんと入れておけば喋れないのか……覚えておこう。


 俺はリリを背中に背負って、ミシェルをお姫様抱っこのまま店を出て大通りに出た。

 案の定道行く人々の目が俺達に向いて、奥様方が「キャー」と黄色い声を上げている。

 

 ミシェルは注目の的にされて放心状態。

 俺はSなので、そのまま自宅に帰っていった。

 

 

 

 


 

 




 

 

 

 



 

 

 

 

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