似ているようで、似ていない
なんで俺が落胆するのか?
確かに、新たに創造できる武器の種類が増えるのは嬉しい。
しかしだ。俺が欲しいのは近接戦闘武器ではなく、遠距離攻撃ができる――本音を言ってしまえば自動小銃なのである。
最悪拳銃でもいい。
それなのに、剣に槍? ふざけるな。
ダガーナイフがあれば現時点で何でも倒せるのに、使いにくそうな剣と槍を使うなんて邪道もいいところ。
(あ……でも槍って投げるもんじゃないか?)
実際は突く武器だろうが、槍投げ競技とかあるしいけるかもしれない。
そう思った俺は直様、歩きながらステータスメニューを操作して、素槍を創造する。
因みに素槍とは、全体的にすっきりとした形状の槍で、穂先や柄に余分なものは無い槍のこと。
なので俺は、素槍なら投げやすいと考えた。
素槍は30秒ほどで完成して、最大で5本作れるみたいだ。
「うーむ……いけるか?」
俺は素槍を手に持ち、投げるような仕草をしながら考える。
確かに投げやすそうだが、ダガーナイフの方がまだ投げやすい。
素槍の矛先に魔力を1層重ねて、俺は木に向けて投げてみた。
ヒュン! と風を切る音を立てながら、素槍は木を粉々にして真っ直ぐ森の奥に飛んでいった。
「うん。素槍もいいな」
槍は突く武器なので先端が鋭く尖っている。
そのため、魔力を手に重ねて投げれば余程硬化質のモンスター以外なら簡単に倒せそうだ。
「でもなぁ……遠くにいるモンスターならカノン砲で倒せるからなぁ」
とても悩ましい事物だ。
でも良く考えれば、カノン砲でモンスターを倒している絵ってシュール過ぎないか?
俺がもし、そんな光景を見れば失笑する。
だったらこうしよう。
カノン砲は最終手段で、素槍は普段使う。
カノン砲の威力は確認してはいないものの、破壊力抜群だろうから、倒せる敵なら素槍を使った方がいい。
そうする事にした俺は、素槍を上限まで作ってバックパックに入れた。
さっき投げた1本は回収したいが、どこにあるのかわからないので諦めるしかない。
(次は刀でも作ってみるか)
俺は次に、刀を作ってみることにした。
俺は思う、男なら刀に1度は憧れるはずだと。
刀と刀の打ち合いはとても魅力的で、芸術的。
時に受け流し、時に斬り掛かる。
そんな時代劇を見て、俺は刀を好きになった。
修学旅行で後に絶対無駄になる木刀を買ってしまうのは、修学旅行あるあるだろうな。
刀は素槍と同じく30秒でできるが、作れる数は10本だった。
多分だが、刀は確かに人を殺すことに長けているが、大きいモンスターを殺すことにはあまり向いていないからだろう。
謎の配慮に、俺は笑ってしまう。
「ほ〜……実物カッケー」
鞘から抜いた刀の持ち手を両手で握り、縦に振ってみる。
慣れていないので少し振りにくい。
それに、近接戦闘が苦手な俺には刀はいらないな……
「うわぁ……マジ刀無駄だな」
どうせならミシェリアに使ってもらうか?
バックパックに放置しておくのもいいが、バックパックは無限に入る訳じゃない――それに、刀だって誰かに使ってもらいたいはずだ。
大和撫子のようなミシェリアが、刀を振り回している姿はとてもいい。
ミシェリアに魔力重ねを教えて、ソニックブーム的なのを放てるようにさせてみるか?
即戦力になるし、ミシェリアなら高スペックだからできそうだ。
「いいかもな……」
俺はソニックブームなんてものは使えないので、ミスティニーさんに教えて頂くしかないが。
ミシェリアが刀片手に華憐に戦っているシーンを妄想をしていると、川の流れる音が聴こえてきた。
俺は川辺に出てミシェリアの姿を探すが、どこにもいない。
「おーい! ミシェリア!」
大声で呼んでみるが、返事はなく鳥の鳴き声しか返ってこなかった。
こうなったら、例によって空へと飛び上がるしかない。
俺は持っていた刀をバックパックに入れると、足に力を入れ、地面を蹴った。
一気に高さ100メートルくらい飛び上がった俺は、ミシェリアの姿を探した。
森には開けた箇所があり――そこに人の姿が見え、俺は目を細めてその場所を見てみる。
すると、ミシェリアらしき黒髪の女性と、汚い服を着た男達の姿が見えた。
(やばい! ――あ、いやあれは……)
一瞬早く助けなくてはと思ったが、すぐに考えを改める。
ミシェリアを囲んだ男達の周りには、同じく汚れた――違うといえば血だらけの死体が幾つもあったのだ。
それによく見ると、ミシェリアは男達の連携の取れた攻撃を、猫のような俊敏な動きで避け――逆に男達達を攪乱させていた。
ミシェリアは連携が上手く取れなくなった男達に隙ができると、確実に首を――盗賊から取ったのだろう――剣で斬り裂く。
その姿は俺から見れば、美しく見えた。
死んでいく男達達は多分、ミシェリアを強姦しようとしたのだろう。
美しい花には棘があるように、ミシェリアには力がある。
それを知らないバカな男達は、ミシェリアに返り討ちにされてしまった。
なんとも情けない話だが、それも仕方がない。
ミシェリアの体は細く繊細。
顔も美人だし、どこかの令嬢にも見える。
俺だってミシェリアを知らなかったら、ミシェリアの事をか弱い女性だと思う。
――そして残り1人となった。
最後まで残った男は武器を捨て、間抜けな顔で逃げ出す。
ミシェリアは逃げる男に持っていた剣を放り投げて、見事に背中に突き刺した。
ミシェリアは人を殺したというのに、それが当たり前だと思っているのか、無表情で突っ立っている。
「いっつ……」
ミシェリアに魅入ってしまった俺は、地面が近づいていることを忘れてしまい、少し着地に失敗してしまった。
だが、やはり巻き込まれたとはいえ勇者。
かなりの高さから落ちたのに怪我一つ負わないこの体、ステータス様様だ。
足を動かしてみて走れるかどうかを確認する。
痛みは感じないので、大丈夫だろう。
俺は飛び上がった時にミシェリアを見つけたあの場所に向かって走り出す。
数分走ると、ミシェリアの後ろ姿が見えてきた。
「ミシェリア〜!」
俺はミシェリアの名前を呼んで気づかせる。
ミシェリアは俺の声に反応したのか、こちらを振り返り、子犬のように震え――子供のように泣き出した。
「ど、どうしたんだよ!?」
「う、うぅぅ……」
ミシェリアは座り込んで泣いている。
もしかすると、人を殺めた事に精神が参ってしまったのだろうか?
俺は勘違いをしていた。
ミシェリアは普段無表情だが、感情が無いわけじゃないのだ。
俺みたいな異常者ではないんだ。
「ミシェリア、大丈夫か……?」
俺はミシェリアに近づいて、肩を抱き締めた。
できるだけ優しく抱き締め、背を揺する。
「あいつらはミシェリアを犯そうとしていたんだ。だからミシェリアは正当防衛だよ。誰だって力があれば、襲われれば殺していた。な? もう安心しろ……」
そう言い聞かせるように言って、またミシェリアの背中を揺すり落ち着かせようとする。
ミシェリアは落ち着きを取り戻したのか、小さな声で喋り出した。
「……お……」
「お?」
「――おなか、空いた……」
「…………」
うん。俺はもう一つ忘れていることがあったわ。
ミシェリアはある意味俺が作った人間。
俺は人を殺してどう思う? 何にも感じない。
だったらミシェリアはどうだろう? ミシェリアは俺が作ったのだから、ミシェリアも殺しても何も感じないだろう。
つまるところ、ミシェリアはお腹が好き過ぎて泣いてしまった――という事だ。
よくよく考えれば、俺達は朝食を食べていなかった。
ミシェリアは暴食魔人。
毎日3食食べないと精神がおかしくなってしまうのか、心に刻んでおこう。
「えーとっ……帰るぞ! 街に帰ったらいくらでも食わせてやる!」
「……ほんとに!?」
ミシェリアはガバッと顔を上げて、キラキラした目で俺を見た。
俺は頷く。
やはりミシェリアは食べ物に目がないようだ。
さっきまで泣いていたのに、今はもうすっかり元気になっている。
「はぁ……俺の心配を返せ」
早歩きで来た道を戻っているミシェリアを睨みながら、俺は愚痴を吐いた。
まあミシェリアがあんな奴らのせいで精神を病むくらいなら、これくらい軽いもんだけど。
俺は溜息を一つ吐いて、ミシェリアと街に帰っていった。
■■■
俺とミシェリアが屋敷に帰ってくる頃には、昼食の時間になっていた。
「……モグモグ…………んぐっ……ゴクリ……」
ミシェリアはテーブルに沢山並べられた料理を、どこぞの海賊王になる! と言っている船長のように口の中に掻き込む。
そんなミシェリアの姿を見て、アイシス&エミリー姉妹は軽く顔を引き攣らせて引いていた。
「うわー。流石ミシェリア様ですね! 食べっぷりが違います!」
ミシェルが褒めるせいか、ミシェリアはどんどん食べるスピードを上げて大きなテーブルに並べなれていた料理は、次々に彼女の腹の中に消えていった。
その細い体のどこに入るのか、とても不思議だ。
「おいおい……あんま無茶するなよ?」
「……大、丈夫……んぐ!?」
「大丈夫じゃないじゃねぇかよ! あ、アイシス早く水を持ってこい!!」
「か、かしこまりました!」
一気に食べ物を飲み込もうとしたミシェリアは、喉に詰まらせて苦しそうに喉を手で押さえている。
ミシェルとエミリーはミシェリアの背中を叩いて吐き出すように促すが――ミシェリアは全く吐く気配がない。
「お待たせしました!」
「ミシェリア早く飲め!」
「ん〜〜!!」
ミシェリアは木のマグカップ一杯に入った水を飲んで、ゴギュリと聞いたことがないような音を出して、喉に詰まった食べ物を流し込むことに成功したようだ。
ミシェリア以外の皆が溜息を吐き、再び食べ出したミシェリアを見て呆れた目をしていた。
全く……ミシェリアの暴食には困ったものだ。
俺は少食だというのに、一体誰に似たのだろうか?