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冒険者ギルドは争いの起こる場所

 馬車は街につき、俺と2人は馬車から降りて街に入ろうとしていた。


「凄い大きな街ですね! 美味しいものはあるんですかね〜」


「ミリシアは美味しいものが食いたいのか?」


「はい! も、勿論奴隷の立場なので、歯止めはありますよ!」


 ミリシアはフンと鼻息を鳴らしながら、涎を口から垂らしている。

 もうすっかり美味しいものしか頭にないようだ。


 確かに、この街に来るまで何時間もかかり、盗賊にも襲われては腹も空くだろう。

 俺だって早く何か食いたい。


「……肉」


 ミシェリエがボソッと小さく呟いた。

 俺はミシェリエの視線を辿っていくと、そこは屋台だった。串焼肉の。


「た、食べたいのか?」


 ミシェリエは勢い良く首を振る。

 1人だけ朝食を沢山食べたのに、まだ食いたりないのかと内心でツッコミながら俺は、ミシェリエに大銀貨を10枚渡す。


「いいぞ、行ってこい。ミリシアもな」


「わ、私もいいんですか!?」


「……涎」


「はっ!? 私の口からおぞましい水が!」


 ミシェリエにツッコミを入れられたミリシアは、口を服の袖で拭っている。

 この2人はある意味、いいコンビなのかもしれない。


 俺はそんな2人を笑いながら、街に送り出した。


「では行ってきますねー!」


「おう。行ってこい。冒険者ギルドで待ち合わせだからなぁー!」


「は〜い!」


 ミリシアは元気良く返事を返すと、ミシェリエの手を握って街に繰り出していく。


 2人が食べ過ぎて動けなくならないといいが……

 まぁ、そこまで金を渡してないから大丈夫だろう。


 俺も街を散策しようと思い歩き出そうとすると、誰かが俺を呼び止めた。

 俺は後ろを振り向いてその人物を確認する。

 そこにいたのは、盗賊を街の兵士に渡していた魔法使いの護衛だった。


「どうかしましたか?」


「呼び止めてしまってすまないね。少し話をしたいと思ったんだよ」


「話? 弟子の件なら――」


「その事じゃないよ。さ、立ち話もなんだし冒険者ギルドで話さないかい? 僕は結構な地位でね、個室を借りられるしね。あ、あと僕の名前はミスティニーだよ」


 うぅん……一応魔法を教えてくれた人だし、ついて行った方がいいのかな。

 それにもしも俺が冒険者になるなら、先輩との付き合いも大事だしな。

 

(といっても。俺は従う気はないけどね)


 俺は少し考えると、ついて行く事にした。

 

 冒険者についてや、この街についても聞けると思ったからだ。


「わかりました」


「ありがとう! じゃあ行こうか! ――おーい、アスデール! 行くよ」


「おう、わかった」


 魔法使い――ミスティニーさんにアスデールと呼ばれたのは、フルプレートの大剣使いだ。

 大きな大剣を背に担ぎながら、俺とミスティニーさんに近づいてくる。


「ど、どうも……」


 俺はアスデールさんの大きさに、後退りしそうになった。


 2mはあるだろう大きさは、鉄製のフルプレートに包まれていて、顔は良くわからないけど多分強面だと思う。


「ガハハ! よぉ少年! ガハハ」


 アスデールさんは俺の背中をバシバシと、遠慮なく叩いてくる。


 俺は何故か、勇者召喚された国で出会った騎士のクールに近い何かを、アスデールさんから感じてしまった。

 多分、どちらも熱い漢だからだろう。


「おいアスデール。嫌がってるじゃないか」


「んぉ? む、すまんな」


「い、いえ……」


「すまないね。アスデールは誰彼構わない正確でね。前なんて幼児を叩いていたし」


「ほ、本当ですか?」


 それって幼児虐待だろ……


 その幼児生きてるのか? アスデールさんの手は丸太のように太いから、相当破壊力あるんだけどな。



 俺とミスティニーさん達は、その後も雑談をしながら、ギルドに向かっていった。


 話によると、この街はヤクルトというらしい。

 決して誰もが知る有名な飲み物や、スポーツチームの名前じゃない。


 ヤクルトには冒険者ギルド本部があり、総勢8000人もの冒険者が日々切磋琢磨しているんだとか。

 

 人口は10万に登り、国々の街の中では上位の人口に入るという。


 だがまぁ、やはり異種族がいない。

 俺は街を行き交う人々を見るが、尖ったエルフ耳も、ぴょこんと頭に生えたケモミミ獣人も、小さな体で幼女なドワーフも……


「なんで異種族いねぇんだよぉ!?」


「む、どうかしたのか少年よ」


 おっといけない。

 つい声に出して叫んでしまった。


 街の人々と2人の視線が俺に突き刺さる。

 だが、数秒すれば俺に興味が薄れたのか、人々の視線は逸れていった。


「い、いえ。えっと、その……神のお告げがですね」


「ほぅ……君は神の声が聴こえるのかい?」


「え? あ、いえ、その……」


 しどろもどろになる俺を見て、ガハハとアスデールさんは豪快に笑った。

 ミスティニーさんも口に手を持っていって、クスクスと笑う。


 どうやらからかわれたらしい。


 俺は顔を赤くしてしまった。


(ヤベェ……テンションおかしくなる)


 2人と話していると、なんだか自分がおかしくなりそうな気分になる。

 不思議だ。


「おや、もうそろそろつきますね」


「えっ? ――おぉ……デケェ!」


 俺は目の前の豪華で大きな建物を見た。

 大理石で作られたと思われる柱と大きな門は、圧倒的で――ハリウッド映画で出てきそうな感じだ。

 

 しかし、これは現実。

 俺はゴクリと唾を押し流し、先行するミスティニーさん達の後をついて行く。


「ぅわぉ……」


 冒険者ギルドは外観だけではなく、中も豪華だった。

 床は外と同じ全面大理石。

 受け付けカウンターも、テーブルも椅子も。

 全て大理石である。


「ガハハ! どうだ凄いだろ!」


 俺はアスデールさんの言葉に頷いた。

 全てが凄すぎる。


「アスデール。あなたの所有物ではないのに誇るのは止めなさい」


 2人の会話を右から左に通しながら、俺は冒険者ギルドの中を見回す。

 冒険者ギルドには、物々しい武装をした冒険者が何人かいて、皆強そうだ。

 

 依頼を受けている者や、仲間と楽しそうに会話をしている者達もいる。


 俺が想像していた、荒々しい男共が所狭しとおり、新人イビリをしているような冒険者ギルドじゃないようだ。

 ある意味良かったと思い、残念との思った。


 何故かというと、新人イビリイベントは美少女との接近チャンスだからである。

 

 俺が考え事をしている間に、ミスティニーさんが受付嬢に話をして、どうやら個室を借りられたようだ。

 ミスティニーさんが俺に手を振って、来るように言っている。


 俺はミスティニーさんとアスデールさんと一緒に、冒険者ギルド2階にある個室に入った。


 

 個室は6畳ほどあり、ソファーとテーブルがある。

 

 俺は2人の反対側にあるソファーに座る。

 俺が座ったのを確認すると、ミスティニーさんから話を始めた。


「それじゃあ改めて、僕の名前はミスティニー・ティニー。魔法使いをやっている、Bランク冒険者だよ。そして――」


「同じくBランク冒険者のアスデール・リアスだ。よろしくな!」


 まさかの2人はBランクだった。

 確かに、地位はあると言っていたから、それくらいが妥当か。

 この世界でのBランクはどれくらい凄いのだろう。

 上級冒険者くらいかな?


「俺の名前は猪岐理希人です。猪岐が家名で、理希人が名前です。よろしくお願いします」


「リキト君ですか。珍しい名前ですね」


「まぁ、異世界から来たんでね――あっ」


 俺はつい、異世界から来たと言ってしまった。

 2人は気にしないだろうと、そう思ったがどうやら違うかったらしい。


 ミスティニーさんは口を開けて呆然としており、アスデールさんは良くわかってないようだ。


「い、今……異世界から来たと言ったかい!?」


 ミスティニーさんは俺に急接近してきて、俺の肩を激しく押したり引いたりする。 

 俺は首を揺らされて、少し気持ち悪くなりながら「や、やめて」と言う。


 すると、ミスティニーさんは「す、すまない」と言って引き下がってくれた。


「うぇぇ……一体どうしたんですか?」


 俺は吐き気を手で口を押えて何とか抑える。


 一体ミスティニーさんはどうしたのだろうか。

 強く異世界に反応していたので、何かあるのだろう――そう思いながら、ミスティニーさんの回答を待った。 

 

「実はね、僕は異世界人を研究しているんだよ」


「異世界人?」


「あぁ……異世界から時々来るという特殊能力を持った、この世界にはない技術を知っている者達を、ね」


(それ、俺の事じゃないですかやだー) 


 異世界から俺とクラスメイトは、この世界に召喚されてやって来たのだ。

 勿論技術だって知っている――勿論、細部まで詳しくはないけど。


「僕は人生を賭けてきたんだ……異世界に行く方法を調べ尽くした。異世界人に会うために世界中旅をした。でも、会えなかったよ」


 ミスティニーさんはそこで喋るのを止めて、俺を見た。

 それはもう熱い目で。

 ギラギラと光るミスティニーさんの目が、俺を遠慮なしに舐め回す。


 やだこの人怖い。


「ふ、ふふふふ……ねぇリキト君。良ければ体を調べ――」


「お断りします!」


「何故だい!? 僕の人生は君の為にあるようなものだよ!? 少しでもいいから頼むよ! お金ならいくらでもある! だからっ!」


 ミスティニーさんのあまりの気迫に、俺は慄いてしまった。

 

 だが、金はいくらでもあるし、自分の体を弄られるのはお断りしたい。

 俺は物凄い勢いでまくし立てるミスティニーさんに、顔をひきつらせながらどう断ろうかと考える。


 ダメと言ってもミスティニーさんは、引き下がらない。

 もはやミスティニーさんの思いは執念に近い。


 だが、いいと言ってしまえば俺はどうなる事か――


(どうすればいいんだ……?)


 ふと、アスデールさんを見てみると、まぁまぁとミスティニーさんを宥めている。


 俺はアスデールさんを使えるかも。そう思った。


「アスデールさん! 助けてくださいっ!」


「む、そうだな。ほら、ミスティニー。怖がってるだろリキトが」


 良しっ! 援護してくれた!


 俺はミスティニーさんから何とか逃れて、アスデールさんの背後に隠れた。

 ミスティニーさんは、アスデールさんに止められても止まることを知らない。

 今のミスティニーさんは、まるで暴走機関車だ。


「話せアスデール! 僕の夢を知っているだろう!?」


「ミスティニー! 節度というものがあるだろうが! リキトがお前を怖がっているぞッ!」


「黙れミスティニー! 僕はリキト君を調べ尽くしたいんだよ! もしかしたら僕の夢が――」


「黙れッ! お前は自分の事しか考えていない! リキトの事を思え! ミスティニー、お前は急に自分を調べたいと言われて、気軽にいいと言えるのか!」


「あぁ言えるね! 僕は研究が大好きなんだ! 何よりもね! 脳筋で筋肉を愛している君だって分かるだろう!? 好きなものら好きなんだ! 諦めたら夢は叶わないんだよ!」


(うわぁ……やばいな)


 俺は一歩も下がらないミスティニーさんを見て、完全に好感度は0になった。


 訳のわからない事を叫んで、

2人は喧嘩をしている。


 あれ、これって俺のせいじゃないか?


 俺がそんな事を考えていると、部屋に騒ぎを聞きつけたギルドの制服を着ている人が駆けつけてきた。


「な、何をしているんですか!」


「あ、どうも」


 俺は入ってきたギルド職員に呑気に挨拶をする。

 ギルド職員は殴り合っている2人を見て、顔を真っ青にし、


「Bランク冒険者同士の喧嘩が起ったぞ! 皆来てくれぇー!」


 下にいる冒険者とギルド職員を呼び寄せた。

 

 

 この後結局、冒険者数名とギルド職員数名が協力して、アスデールさんとミスティニーさんを止めた。



 


 



 

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