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ミシェリエさんのスペック

(あ、やば!)

 

 手から離れていくダガーナイフに、俺は焦る。

 ダガーナイフは回転しながら、どんどんミシェリエの手に飛んでいく。

 

 本気で投げていないとはいえ、回転するダガーナイフを受け取るなど不可能に近い。

 俺ならばできるかもしれないが、ミシェリエは無理だろう。

 

 俺はダガーナイフを追って走り出そうとするが、盗賊が襲いかかってきて取りに行けない。


「このクソガキィ!」


「ちっ! 邪魔だ!」


 盗賊の剣をダガーナイフで受け流して、反らせる。

 そして、盗賊が体制を崩すと俺は目と腹を刺した。


「ぐァァァァ! イでぇよぉ!」


 盗賊が痛みにのたうち回っている時、ダガーナイフはついにミシェリエの手に……


「収まった?」


 俺は呆然としてしまった。

 まさか、ミシェリエが投げられたダガーナイフを受け取れるなど考えてもいなかった。

 ミシェリエは俺は見て、首を縦に振った。

 ありがとうという意味だろうか。


「うぉっと……」


 盗賊が矢を俺に放ってきたので、俺は後ろに飛んで回避した。

 盗賊の残り数は12。


 俺を囲んでいる盗賊たちは、ジリジリと近づいてくる。


「さぁ、来い!」


 俺の声とともに、盗賊達は一斉に飛びかかってきた。

 俺は上にジャンプして避け、俺がさっきまで立っていた所にぶつかり合っている盗賊達に向かって、魔力を2層重ねたダガーナイフを投げた。 


 ダガーナイフは盗賊の1人に刺さった刹那、爆発して盗賊を一気に8人殺した。


「っと……次はどいつだ?」


 ダガーナイフで抉られた地面に降り立つと、俺は離れて見ていた残りの盗賊達を見た。

 盗賊達はビビって俺に近づけないようだ。


 俺はダガーナイフを構えて投げる準備をする。

 盗賊達は俺の動作を見た瞬間――武器を落として腰を抜かし、祈るポーズをとって助けてくれと懇願しだした。


「助けてくれ……助けてくれ」

「降参だ……頼む、頼むぅ……」

「嫌だぁ、死にたくねぇよぉ……」


 盗賊にもう戦意はないようだ。

 俺はダガーナイフを下ろし、馬車の騎手から貰ったロープで拘束をしていった。


「もう大丈夫なんですか!」


「ん? あぁ、そうだな」


 ミリシアが馬車から降りて、俺にトコトコ近づいてきた。

 俺が大丈夫だというと、ミリシア「そうですか」と安心したように言った。

 一方でミシェリエはというと、つまらなそうにさっき俺からダガーナイフを受け取った時に見せた凛とした顔から一転、いつものやる気のない真顔に戻っていた。


 もしかして戦いたかったのか? と俺は思ってしまうが、首を横に振ってその考えを捨てた。

 ミシェリエが黒髪を風になびかせながら戦う姿は、確かにいいかもしれないが、戦闘狂になりそうで怖い。


 「ははは……」と気のない声で笑いながら、俺は盗賊を全て縛り終えた。


「ふぅ〜……終わった――あれ、なんか聴こえる……」


 汗を手で拭っていると、ヒューと音が聴こえてきた。 

 俺は音のする方を見てみると、矢が飛んできていた。

 その狙いは――ミシェリエ。


「クソッ!」


 俺は下に置いていたダガーナイフを取り、すぐに魔力を手に重ねようとするが、1歩間に合わなかった。

 ミシェリエの脳天に迫る矢は、そのままミシェリエに飛んでいき――



 キーンと甲高い音を出した。


 俺は目を開けて見てみる。


 そこにいたのは、生きたミシェリエ。

 俺はミシェリエが五体満足で安心して、次にミシェリエが見ている所を見た。


 そこに落ちていたのは切り落とされた矢。


(もしかしてミシェリエが……?)


 俺はミシェリエに近づいて聞いてみた。


「これは、これはミシェリエがやったのか?」


「? ……ダメ?」


「い、いや。ミシェリエが生きていて良かった」


 俺はミシェリエのスペックの高さに驚いた。

 まさか矢を切り落としてしまうとは、思いもしなかった。


 ミリシアはミシェリエに「すごいです!」と、言いながらぴょんぴょん飛び跳ねている。

 

(まぁ、俺が召喚したしな)


 勇者の俺が召喚したんだから、ミシェリエも高スペックになったのだろうと、そう結論づけて俺は考えるのを止めた。

 

(やっぱりまだいたのか……)


 森からこの馬車の位置まで50mはあるというのに、確実に狙えるなんて地味にチートだろ。


 俺は矢が飛んできた方を睨みつけ、ダガーナイフに10層の魔力を重ねて、手に1層覆わせて放った。

 

 高速で飛んでいくダガーナイフはやがて森に到達し、森の一部を吹き飛ばした。

 

 これで死んだかはわからない――いや、寧ろ既に逃げたと考えるのが妥当だ。


 俺は馬車に乗せられていく盗賊を見ながら、思考に耽る。

 

 盗賊がここまで強いとは、異世界ファンタジーを正直舐めていた。


 確かに、俺はこの戦いに勝ったが盗賊の数が少なかったという事と、盗賊の連携がなっていなかったというのも、実際かなり大きい。


 もしも、盗賊が連続で囲むようにして弓を放っていたら多分俺は――いや、考えるのを止めよう。

 

 まだ俺は成長途中。

 レベル1で、なおかつ戦闘経験なんて皆無の俺に、勇者スペック任せとはいえここまでできたのだから、上出来ともいえる。


(本格的にレベル上げないとだな……)


 モンスターを狩ればレベルアップするだろう。

 冒険者になってみるのもいいかもしれない。

 地位はいらないが、美少女は欲しい。

 エロい受付嬢を俺のハーレムにいれたい、っと言っても2人が俺に恋愛感情があるかはわからないが。


 そんな事を考えていると、魔法使いの男が俺に近づいてくるのを感じて、後ろを振り返る。


「やぁ、それにしても凄かったね。まさか簡単に習得するとはね……」


「どうも。たまたまですよ」


「謙遜は良くないよ。君には魔法の才能があるかもしれない。良ければ僕の弟子にならないかい? 僕はこれでも有名な魔法使いなんだ。――まぁ、仲間を守れなかったけどね……」


「……お断りします。俺は誰かの下にいるのは嫌なんで」


「ははは。そうか、ならわかったよ。確かに君は素晴らしい才能の持ち主だ。僕なんかの弟子にならなくても、己自身で道を切り開けるはずだ。もしも、魔法を習いたければ僕の所においでよ。君が今から行く街に何年か滞在する予定だから、ね」


「ありがとうございます。そうさせてもらいます」

 

 魔法使いの男は「あぁ」と頷くと、俺と一緒に馬車に乗ってフルプレートの仲間の方へと行った。

 

(いい人だな……でも、少し俺を見る視線が熱く感じるのは気の所為だろうか?)


 いやいやと首を横に振って、俺はミリシアと話しをして癒された。

 


 盗賊に襲われるというハプニングがあったが、数時間後馬車は無事に街についた。


 


 

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