聖夜に一度の甘い日を
12月25日、クリスマス。理子は仕事仲間と飲みに来ていた。
その中には理子の憧れの先輩、玲子さんがいた。
仕事も出来て、頭も良くて、怒られることの多い私と違って、上司にも頼られている女性。
私とは正反対の人だ。だから、憧れる。
あんな風になりたいと、もっと近づきたいと。
飲み終わると、玲子は私を家まで送ってくれた。
「玲子さん。良かったら部屋で少し飲みませんか?」
電車から降りて改札を出た後、玲子にそう提案した。
「えぇ、良いわよ。お酒はある?」
「あー。ビールが少し。おつまみがないですね」
なら、と二人はコンビニに寄ってから理子の住むアパートの一室へ向かう。
「おじゃまします」
玲子は礼儀正しく挨拶して部屋に入る。
2人で乾杯し直すと、飲み始める。
「玲子さんって、愚痴とか言うんですか?」
「人前じゃ言わないわよ。私にとって愚痴は、一人で静かに漏らすものなのよ」
「そうですか・・・」
部屋をちょっとした静寂が包む。
自分に何が出来るかと考えた結果、愚痴を聞くという答えが出たのだが、だめだったようだ。
なら。
「なら。私、ベッドに隠れます。一人なら言えますか?」
「どうしたの理子?酔ってる?」
理子は話を聞かずに、ベッドの中に隠れる。
その後、理子は何も言わずにじっとしている。
「はぁ。ならしかたないわね」
と玲子はベッドに背を預け、愚痴をこぼし始めた。
「私、嫌われてるのかしら。男性には引かれるし、女性にもどこかよそよそしくされるし」
その言葉に、理子は飛び出したくなった。
そんなことはないと、近くにいるのだから簡単に出来るはずなのに、出てはいけないと、遠くに感じる。
「ごめんなさい、理子。やっぱり出て来てくれるかしら」
理子はゆっくりとベッドから出てくると、玲子の横に座った。
どうしたものかと悩んでいると、玲子はどこかを見つめて話し始めた。
「真面目すぎるのがいけないのかしらね。少しくらい余裕や遊びを持っている人の方が好まれるのは、わかるのだけれどね」
理子はただ話を聞いていた。
「私も、寂しくなる日くらい・・・、あるのよ」
玲子は理子の方を見てそう言った。
なんだかその目が色っぽくて、思わず見つめてしまった。
「あ・・・、あの・・・。せっかくのクリスマスですから・・・。今日くらい、甘えてもいいんですよ。私でよければ・・・」
理子は少し恥ずかしそうに言った。
玲子は先輩だ。真面目だからこそ、期待に応えてしまう。気苦労も多いだろう。
そんな玲子の力に、なれなくとも、少しくらい癒せれば。
「なら、甘えちゃおうかな」
玲子はビールをテーブルにおいて、こちらに這うようにして近づく。
玲子の顔は赤くなっている。酔いか、はたまた。
唇を近付けて、キスを・・・。
「してみる?」
その玲子の問いに、こう返した。
「けっこう強引なのね」
玲子はシャツを羽織り、余っていたビールを飲み干す。
「玲子さんが魅力的過ぎるんです」
理子は下着姿のままシーツにくるまっている。
「明日、遅いクリスマスプレゼントでも贈ろうと思うんだけど、何が良い?」
「え?いいですよ。これだけでも・・・うれしいです」
理子は本音と嘘を混ぜてそう言った。
「そう。でも、そうね。なら・・・、また一緒に飲んでくれないかしら?それくらいならいいでしょう?」
「はい」
また、玲子さんを、癒せるなら。
きっと、二人はどこかの男性と結婚して、それぞれの生活を送るのだろう。
でも、どこかでつながっていられるなら。
それでもいい。
私はこのクリスマスを忘れないだろう。