その3 大柄な男
そろそろサブタイ考えるのがきつくなってきた
「それじゃあ、大太郎の持ってきた『事件』の内容とやらを聞かせてもらおうか」
足を組みながら椅子に座っているメルは相変わらず偉そうだ。
「事件というほど大層なものでもないんスけど」
大柄な男、大渡さんは用意された大きめの席に座っていたが、それでも少しはみ出していて座りにくそうだった。
「いやいや、ここに来たということはあんたが持ってきたのも大した『事件』なんだよ」
「そうなんスか……」
つまり大渡さんが持ってきた『事件』も『不思議な力』絡みということなのだろう。
なんて僕は教室の端に置かれた椅子に座りながら、ぼーっと話を聞いていた。
なぜ関係のない僕がこの場にいるのかというと、まあ説明するのも大変だし回想しよう。回想するほどのものではないが、文字数稼ぎの為だ。
《回想開始》
「あんたが持ってきたその『事件』、我々が絶対に解決してやろう!」
相変わらず偉そうなメル。
「はいはい、靴を履いたまま机の上に乗らないでくださいね。メイ様」
東雲さんはそんなメルを毎度のようにように持ち上げて下ろす。ただ、今回は机の上だったこともあり、ヒョイっという感じではなかったが。
「なんだ机の上も靴を履いたままじゃだめなのか」
「当たり前です。それに机の上は椅子の上よりも危ないので、たとえ靴を脱いだとしても乗ってはいけませんよ」
「まあ乗ってみたら案外高くて怖かったし、きっともう乗らんぞ」
「ならいいんですけど……」
本当にこの二人は子供と保護者みたいだ。
と、そこまで考えて自分が部屋を出ていこうとしていたことを思い出した。
「じゃあ僕、今度こそ帰りますね。調査の方よろしくお願いします」
「おー、任せとけ」
僕は立ち上がる。体の痛みはだいぶ引いてきていた。
これなら歩けるな。そう思い扉を開けようと一歩踏み出したところで
「おろろ?」
足元がおぼつかず、また倒れそうになる。
なる、と言ったのは、実際には倒れそうになる寸前で大柄の男に支えられたからだ。
「だ、大丈夫スか!?」
「大丈夫だよ……ありがとう」
本当は頭がクラクラしていて、大丈夫ではなかった。
「どうやら先ほど頭を強く打ち付けてしまったようですね。顔色も悪いですし……ここ、たんこぶができてますよ」
東雲さんがそばに来て、僕の顔を覗き込みながら後頭部をさする。
健全な男子高校生としては、美しい女性の顔がこんな間近に有り、さらには頭を撫でてもらっている(わけではないのだけれど)この状況は大変喜ばしくテンションが上がるところなのだが……今はとてもそんな元気はなかった。
というか実は既に東雲さんの顔もおぼろげにしか見えてなかったりもする。
「ミーのせいスよね! ごめんなさいス!」
「いえ、気にしないでください……」
「とりあえず保健室に連れて行きましょうか? 日曜日とはいえ、ご覧のとおり今日も生徒がたくさんいるので、保健の先生もいるはずです」
「そこまでひどくないですから……少し休めば大丈夫です」
「でも、頭を打っているのですし」
「そうスよ! 歩くのがだるいとうのなら、ミーが保健室までおぶっていくスから!」
「大丈夫だから、大丈夫……」
自分でなにを言っているのかわからなくなる。
少し休むのなら保健室の方がいいだろう。だというのに何故か僕はそれを拒否した。ここにとどまりたいと思っていた。
「大智がそう言ってるんだ、そうさせてやれよ」
「いや、でも頭とか打ってるのに大丈夫なんスか!」
「大丈夫なんだろ、本人がそう言ってんだから」
「……メイ様がそういうのでしたら」
僕の心配をして食い下がらない大柄の男とは違い、東雲さんはメルの言葉であっさりとひく。
「大智さん、こちらでしばらくお休みください」
教室の端の方へ行き、椅子を用意する東雲さん。
「えーと、あの……」
そこまで行くために、大柄の男に肩を貸してもらおうと思ったのだが、なんと呼べばいいのか。
僕のそんな疑問に気がついたのか、大柄の男は名乗る。
「あ、ミーは大太郎ス。大渡大太郎」
「では大渡さん、あの椅子のところまで行きたいので手伝ってくれませんか……」
「任せるス!」
「おわっ!」
肩を貸してください、と言ったほうが良かったのだろうか。いや、普通は肩を貸すものだと思うだろう。
大渡さんは僕を持ち上げ……詳しく言うなら『お姫様抱っこ』をして椅子のもとまで運ぶ。
「座ってくださいス」
「あ、ありがとう……」
いろいろとツッコみたいこともあったけど、そんな元気はなかったので素直に感謝の言葉を述べた。
それにせっかく運んで貰っておいてとやかく言うのも筋違いだろう。いや、その原因を作ったのはこの人なのだけれども。
「これで冷やしてください。何もしないよりはマシでしょう」
東雲さんから濡らしたタオルを渡される。
僕はそのタオルを後頭部の膨れているらしい部分にあてた。髪の毛越しでもちゃんと冷やされるのだろうかというどうでもいいことを考えながら。
《回想終了》
後は僕の時と同じように、大渡さんは席に座るように促され、お茶を出され、自己紹介及び契約書の記入をすまし
「それじゃあ、大太郎の持ってきた『事件』の内容とやらを聞かせてもらおうか」
「事件というほど大層なものでもないんスけど」
「いやいや、ここに来たということはあんたが持ってきたのも大した『事件』なんだよ」
「そうなんスか……」
そうして冒頭へと至る。
こうやって思い返してみると、僕は本当によくわからないことを言っていたな。こんなおかしな言動を晒すくらいなら回想なんてしなければと少し後悔した。
「ミーはハナコを探していたんス」
「ハナコ……それはここに書いてある“ペット”の犬のことでいいのか?」
メルが手に持っていた契約書の、おそらく家族構成の欄を指差す。
「ハナコはペットじゃないス! ミーの大事な家族……娘なんス!」
ドン!っと大渡さんが机を叩く。
一体どれだけ力が強いのか、ベキッっと木が割れるような音が聞こえた。
「あ、ああ。すまんな、ハナコは娘だったのか」
メルが引いている。
「何故か娘と書いても文字が消えるスから、仕方なくペットと書いただけス」
「契約書の家族構成の欄とは別にペットの欄があるので、本来家族構成にペットは書き込めないはずなんですけど……強く想うことで本当の家族の一員にしてしまったということですかね」
机を叩いた時の衝撃で倒れ、中身がこぼれてしまったお茶の後片付けをしながら東雲さんがいう。
「まあいいや。それで、このハナコがいなくなったんだな?」
「そうス」
「そうか……ふむ、なるほど」
メルは顎に手を当てて何かを考えている。
「なにかわかったんスか!」
「いや、まったく。ただなるほどって言ってみただけだ」
考えているように見えただけだった。
その言葉に大渡さんはあからさまにがっかりする。
「いなくなっただけじゃわかるわけねぇよ」
「だから、そのハナコがいなくなった時の状況を詳しく話してよ」
そういうメルはまるで探偵みたいだった。
この話のあとがきを書こうと思ったのですが、この話を書いたのがもう1週間は前のことなので、どんな風に書いてたか思い出せません。
どこに注目して欲しいとか、力を入れただとか。
なので全く関係のないことを言いましょう。
いや、この話には関係ないだけで、この作品のことなんですが……
現在第3章第2話を書いていますが、未だに探偵感はありません。
というか、実は私は探偵がどういう仕事をしているのかさっぱり分かってません。
ですから、こんな題名ですけど、あんまり期待しないでください(第9部目にしていう)