その5 可ヶ丘高校の探偵
あとで読み返すのに体力を使うほど、伝えたいことがまとまっていない第1章もこれでラストだ。
よく耐えたな(既に誰目線かわからない)
僕には妹がいる。中学三年生で名前を千歳という。
平均身長より少し低いくらいで、スリーサイズもきっと中学生の平均くらい。僕と同じ茶髪で、肩の位置より少し長めの髪をポニーテールにしている。兄としては実の妹がどれくらい可愛いのかを判断することはできないが、そこそこモテているらしい。
性格は明るく、元気で優しい。近所でも困っている人がいたら手助けしてあげているらしく、評判がとてもよかった。それは学校でも同じようで、噂ではファンクラブがあるそうだ。以前妹にどうして人助けをしているのか聞いたとき、あいつは「体が勝手に動いてしまう」とそう言っていた。
そんな誰にでも愛されていたヒーローのような頼もしい妹が。宿題でわからないところがあったら僕に頼ってきたり、落ち込むようなことがあれば僕に慰めて欲しいと言ってきた、家では可愛らしい妹が。意外と流行りものに乗っかりやすく、流行りものを集めている女の子な妹が。そんな僕にいたはずの妹が。
昨日の朝、僕が目を覚ますといなくなっていた。いや、『消えて』いた。
家出とかそういう話ではない。文字通り『消えて』いた。それは場所からという意味ではなく【氷崎千歳】という存在そのものがという意味。見方を変えれば最初からいなかった、そういうことになっていたのだ。
「僕の妹は最初からいなかったんでしょうか……」
そんなはずはない。消えた日の前日、つまり一昨日の夜。確かに僕は妹と寝るその直前まで会話をしていたはずだ。
「全部、僕の妄想だったんでしょうか……」
でも朝起きて、妹がいなくなったことに気がついて、家族からあいつの記憶がなくなっていて家のどこにもあいつが生活していた痕跡が残ってなくて……。
そんな僕の中以外から妹の存在が消えてしまっていても、それでも僕は絶対にあいつがいたと、いると信じていた。だからこそわざわざ【幽霊探偵事務所】に足を運び、妹が『消えて』しまった『事件』を解決して欲しくてきたのだが……
「氷崎千歳なんて人間は最初から存在してなかった……んですかね」
メルと東雲さんに妹のことを説明すればするほど、あまりにも僕があいつとの思い出を鮮明に覚えていすぎて、あいつを知りすぎていて。
それは僕が作った妄想なのだから当たり前だ。とそう言われれば納得してしまうくらいには既に【氷崎千歳】の存在は僕の中で自信を失っていた。
「大智の中にしか存在が残っていない妹、ねぇ……」
メルが先ほど僕が書いた契約書を見ながら呟く。
東雲さんは僕の話を聞いてからどこか上の空だった。知り合ってまださほど時間は立っていないけど、らしくないというか、イメージと違うというか……。
「で、大智はどう思ってるわけ?」
こんな状況でも相変わらず考え事をしていた僕に対して、契約書から目を離さずにメルが聞いてきた。
「どう思ってるって」
「その千歳って妹のこと、今もいると思ってるのかって聞いてるの。なんかだんだん大智自身が否定し始めてるから」
「そりゃいると思ってますよ。でも、なんか説明しているうちに全部僕の妄想だったという考えも強くなってきて……こうして依頼しに来といてアレですけど」
存在していた。から存在していたはずだ。そして存在していたらいいな、存在して欲しい。と徐々に気持ちは願望になりつつある。
「兄であるあんたが信じてやらないでどうするんかねぇ」
「でも……」
「ま、その気持ちはわからないでもないけど」
そういうメルの表情はどこか切なさがあるような気がした。
いやまあ、実際は契約書で隠れているわけだから見えないのだけれど。声のトーンから勝手に想像しただけだけれど。なぜがそんな気がした。
「とりあえず安心してその妹の存在を信じていいぞ。てか信じろ」
「ぇ」
いきなりそう言われて変な声が出た。
「だから、その妹は確かに存在するから安心しろって言ってるの」
一体何故そう言い切れるのか、その問を口にするより先にメイは手に持っていた契約書を机の上に置き
「ここ、見てみろ」
契約書のどこかを指差す。
「……見えないんですけど」
メイと僕は向かい合ってそれぞれの席に座っている。お互いの距離は決してそこまで離れてはいないが、机の上に置かれた紙の内容が見えるほど近くもない。
「じゃあこっちにこいよ」
メイに手招きされる。僕は席を立ちメイの方へと近づき、覗き込む。
「ここ、見てみろ」
先ほどと同じ台詞を繰り返し、先ほどのように契約書のある場所を指差す。
そこは『家族構成』の欄で、僕が書いたのだから当然なのだが、僕の家族構成が書かれていた。
「これがなにか? 妹の存在が確かなものということに関係あるんですか」
家族構成の欄、厳密に言えばそこに書かれていた名前。僕が書いた妹・千歳の名前を指差していた。
「私が言ったこと覚えてるか? これに記入してもらう時に言ったこと」
メルはたしかこういっていた。『嘘の情報を書く事は不可能』と。少し言い方は違ったような気もするがそう言っていたはずだ。
「あ――」
そうして思い出した。僕がこの契約書を記入していたときのことを。
詳しいことは長くなるので省くが、僕はこの契約書に記入する際、記入欄の中にあった馬鹿げた質問に対していい加減に記入した。しかし記入できなかった。
どういうわけなのか、この契約書は本当のこと以外は書き込めないようで、嘘やいい加減な情報は書き込んでもすぐに消えてしまうのだ。効果音で表すと、スーっと。
「私も詳しいことはわからないんだけど、この契約書に嘘は絶対につけない。つまりこの契約書に書かれていることは真実のみ」
「!」
メルは僕の反応を見てニヤリと笑う。
真実のみが書かれた契約書。そこには僕の妹、千歳の名前がはっきりと書かれていた。消えずにしっかりと記されたままである。
「やっぱりいたんだ。妹は存在したんだ……!」
【氷崎千歳】は存在した、存在している。
妹は存在していて、妹と過ごした記憶は確かに僕が体験した記憶で、僕が知っていた妹の情報は確かにあった情報で。
今じゃもう、どうして自分が妹の存在を疑っていたのかがわからないくらい【氷崎千歳】の存在は僕の中で明確なものとなっていた。
「私はね、暗い感情や表情が明るく、希望に満ちる瞬間が好きなんだよねぇ」
メルは笑顔だった。純粋で子供のような、無邪気な笑顔。
どんな事件も必ず解決する自称探偵の少女。最初は疑っていたが、この短時間でその疑いは消えた。むしろ今は――
「改めて『事件』の解決を依頼します。引き受けてくれますか」
僕は姿勢を正し、メルをしっかりと見つめいった。
「何を言っている。話を聞くときに引き受けるといっただろう。それに最初にもいったはずだ」
メルは立ち上がり、椅子の上に立ち、腕を組んで、やっぱり偉そうに言い放つ。
「貴様の持ってきた『事件』、この凄腕探偵のメルが解決してやろう!」
――今は、この少女なら絶対に本当に解決してくれるだろうと、そう思えた。
最後の部分がよくわからない締めになってますけど、これで第1章もおしまいです。
そして次回からは第2章に入ります。
第2章は新キャラがでたり、第1章よりは話が進んでいると思いたいです(願望)
話が進んでいく事にキャラの個性を出していけるように書いていますが、そのせいか第1章よりも雑になってます。主に地の文が。
そこのところは、まだ私慣れてないので許してください。
という予防線を張っておきます