焼けゆく魂 05
「きみのラグーン行きを許可する」
呼び出されてそう告げられて、ユアンは思わず眉をひそめた。
「次の出発は一月後だ。準備は万端にしておくように」
ユアンはいぶかしげに、その深い群青色の双眸をじっと見る。しかし、その眼差しはあくまで穏やかで、真意など探れそうになかった。
仕方がなく、ユアンは口を開く。
「何故ですか。つい先日、あなたから、戦歴だけでは不十分だと言われたばかりですが」
「生活を改めたようだからね」
にこりとするラウラに、ユアンは驚きと同時に苛立ちを覚えた。確かに、ラウラに指摘された関係はすべて清算した。だが、これでは話が早すぎる。
「まさか、監視を?」
不愉快だという気持ちを前面に押し出したユアンに、ラウラは困ったように苦笑いする。
「誤解だ。さすがにそこまで悪趣味ではないよ。今回は、たまたま耳に入っただけだ」
「…………」
不可解には思ったが、まあいい、とユアンは思いなおした。何にせよ、ラウラがそういう気持ちになったのは、こちらにとっては都合の良いことだ。
「今回の編成は、第一師団と第四師団が中心となっている。第四師団のきみを、初めて参加させるにはちょうど良いと思っている」
「アルバート師団長には」
「私が話をつけている。快諾してくれたよ。今回の駐屯には―」
瞬間、激しく扉を叩く音が響いた。反射的に振り返れば、音と同時に開け放たれた扉の向こうから、二名の騎士団員が血相を変えて駆け込んでくるところだった。
「失礼します。ラウラ様、トゥーレの娘がたった今」
「大怪我をして、こちらに!」
二人の息の荒さから、切迫した状況は十分に伝わった。言葉を返す前に、ラウラは走り出す。ユアンも後ろに続いていた。
騎士団本部の入口へと急ぐ。中央大広間までくると、その人物を確かめることができた。
数名の騎士団員が、彼女の介抱をはじめている。意識がないのか、横たえられたその顔色は悪く、瞳は固く閉じられている。外套の下の衣装はすでに赤黒く変色し、彼女が辿ってきたであろう正面扉から、鮮血が点々と跡をつくっている。
ラウラは彼女の側にひざまずく。彼女を支える団員たちが頷いて、ラウラに彼女の命の無事を知らせる。
「ルチカ」
知り合いなのか、ラウラは彼女のものと思われる名を呼んだ。
その声が聞こえたのか、彼女はゆっくりと目を開く。うつろな瞳でラウラを捉えると、乾いた血のこびりついた唇を、わずかに動かした。
「ラウラ……」
「大丈夫か? どういうことか、説明できるか?」
「……レガリスに、あの女が、いた」
途切れ途切れに、聞こえるか聞こえないかの声を発すると、彼女はきつく眉を寄せて、再び気を失ってしまった。
ラウラは即座に顔を上げる。
「直ちに医師を呼べ」
団員たちは素早く動き、彼女を連れていく。ラウラの表情は、かつて見たことがないほどに厳しくなっていた。
「ラグーンからの連絡は」
「鳥は一羽も戻ってきておりません。国境からもです」
「では直ぐに送れ。各師団長に私の部屋に集まるように伝えてくれ。皆は持場に戻れ」
慌ただしくその場を収め、去り際にラウラはようやくユアンを見た。
「悪いが、先ほどの話は保留だ。状況がわかるまで、待つように」
この状況で、反論などできるはずはなかった。無論、するつもりもなかったが。
ラウラが去り、あたりには動揺だけが残っていた。ただならない事態。そうであることは、騎士団に入って僅か半年のユアンでも感じることができた。恐らく、これから良くないことが起きる。
そしてその予感は、あたった。