表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/32

邂逅 06

「むかつくガキだわ」


 舌打ちをしながら、アデルはうっすらと血の流れる首を押さえた。

 倒れこんだユアンは、ブラックが受け止めてくれている。


「解毒剤を」


 ラウラは剣を突きつけたまま、低い声で言った。

 アデルは忌々しげに眉間の皺を深くしながら、懐から小瓶を取りだす。


「ここにあるわ。渡すわよ、ちゃんとね」


 と、アデルはその小瓶を放り投げた。光を反射させながら、翡翠色の湖へと放物線を描く。一瞬、全員の気がそれた。その瞬間、アデルは逃げ出していた。

 間髪置かず、シオンが湖に飛び込む。すぐに浮き上がってきたとき、その手には小瓶がしっかりと握られていた。


 それを見て、ほっとしたのも束の間、今度はルチカが、首に掛けられた銀色の笛を取っていた。何の音も出ない。しかしその瞬間、横たわっていたドライグたちが首を上げた。その翼が、大きく広げられ、ルチカはその背中に飛び乗る。


 ラウラははっとし、それからすぐにブラックを振り返った。


「ユアンを頼む」


 頷くブラックにユアンを預け、ラウラは剣を収めてアデルの後を追う。


 足場の悪い洞窟を走り抜け、再び日の下に出たとき、立ちすくむアデルの姿があった。

 アデルの行く手を阻んでいたのは、ドライグに乗った、ルチカだった。


「……取引したはずよ。そこを退()きなさい」

「それはアスファリアとの取引だ。私には関係ない」


 ルチカはドライグから降りる。ブーツの中に隠してあった短剣を取りだすと、少しずつアデルに近づく。

 ラウラは己の存在を気づかせるために、アデルの横に進み出た。


「この女には、法に基づいて裁きを受けさせる。ルチカ、武器を下ろすんだ」


 ルチカは首を横に振った。


「……できない」

「ルチカ」

「できない!」


 ラウラの胸に、憐憫の情が深くなる。ルチカをこれ以上、苦しめたくはない。復讐を遂げて、幸せになるとは思えない。返って傷は、深くルチカに刻まれてしまうだけだ。ラウラはその一心で、ルチカに訴えた。


一時(いっとき)の激情に、身を任せては駄目だ、ルチカ」

「…………」


 体の底から溢れ出る感情を、必死で噛みしめ、最後にはルチカは腕を下ろした。その場で力なく項垂(うなだ)れる。


 ラウラは安堵の息をついて、アデルに縄をかけた。


「約束が違うじゃない」

「……いいや。確かに一度は見逃したはずだ。二度はない」


 言いながら、縄をきつく締めあげる。アデルは息巻いて、こちらを殺さんばかりの眼光である。それを無視して、ラウラはルチカの側に寄る。


「わかってくれて、ありがとう」


 そう言うと、目を瞑ってルチカは、ナイフを収めた。ラウラはルチカの背中に手をあてて、いたわるようにそこを撫でた。


 少し待っていると、残りの三人も外に出てきた。


「ラウラ様」


 シオンがユアンの腕を自分の肩に回し、半身で支えながら共にこちらに歩いてくる。


「解毒剤は飲ませてあります。一度意識が戻りました」

「ユアン、大丈夫か」

「…………」


 まだ意識が朦朧としているようで、ユアンはうっすらと目を開きかけたが、再び眉をきつく寄せぐったりとする。

 隣でブラックが肩をすくめた。


「俺が抱えてやっても良かったんだが、それでも自分で歩くって聞かねえ。意識も殆どないくせによ」


 とにかく、終わったのだ。ラウラは後始末をつけるために、全員に指示する。


「ブラック、お前はアデルを連れていってくれ」

「わかった」

「ルチカ、ドライグたちを任せる」

「……まだ、ラグーンまで飛ぶのは無理だと思う。しばらく、ここで休ませる」

「ユアンを休ませてから、もう一度戻る。それまで、大丈夫か」


 ルチカはこくりと頷いた。ラウラはユアンの側に寄る。


「シオン、私が代わろう。きみはルチカと一緒に、ここに」

「わかりました」


 アデルを連れ、既に歩き出しているブラックに続いて、ラウラはユアンと歩き出す。

 すぐ側で感じる微かな息遣い。その温もりに胸が熱くなる。

 良かった。失うことにならなくて、本当に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ