潜入調査 05
後日の商品の受け渡しの流れをもう一度確認し、フィオナとノアと別れた。
「武器の運ばれているルートがわかりそうだ。行って、調べてくる」
ユアンと別れている間に掴んだのだろうか。三人になったところで、シオンはそう言った。
「一人でか?」
ユアンが聞くと、シオンは頷く。
「一人の方が、いいと思う。三人だとどうしても目立つ」
「じゃあ、私たちは城に行く」
ルチカの言葉に、シオンは少し心配そうな顔をする。ルチカは少々ばつが悪そうに苦笑いする。
「大丈夫、同じ失敗は二度しない」
「……ユアンも、いいか?」
「ああ」
「それじゃあ、頼む。深夜までには必ず屋敷に戻ってくれ」
それでシオンと別れ、ルチカと二人でフォワ公の城へと向かうことにした。
既に太陽は沈み始めている。途中の店でフード付きのローブを買い、完全に日が落ちるのを待って、行動を開始した。
ルチカに案内され、二人は城の中へと忍び入る。
うまく侵入し、建物の西翼、二階中央バルコニーにて息を潜めていた。やけに月の明るい夜だった。動きはとりやすいが、逆をいえば見つかりやすい。
下の方でばたばたと慌しく足音が響いている。先ほど昏倒させた兵士たちが、早くも発見されたのだろうか。
「やっぱり、多いな……」
うんざりした顔で、ルチカが呟いた。
「これだけ兵士がいるのはおかしい。領地の規模に対して、多すぎる」
ルチカの言葉に、周辺の気配を探りながら、ユアンは思い起こす。
「街の中は、そうでもなかったな」
ユアンの言葉に、ルチカも頷く。
「城の西に、兵士の詰所があるはず。アデルはその方面に向かっていた」
「前回は、その途中で見つかったのか?」
「……そう。アデルを追いかけるのに必死で、慎重さに欠けてしまった」
ルチカは悔しそうな表情をする。
階下の気配がなくなった。ユアンはバルコニーに手をかける。
「行くぞ」
声と同時に、そこを乗り越え、飛び降りる。音もなく地面に降り立った。ルチカも続く。
走り出し、最西端を目指す。詰所の明りはすぐに見えてきた。木々の影に隠れながら、少しずつ建物に近づく。
詰所の大きな二枚扉は開け放たれていた。少し離れた植え込みにその身を潜め、中を伺う。
城内にあれほど兵が出ているにも関わらず、中には相当な数の人間がいた。ざっと見て、三百はいるだろうか。城の中に散らばった兵士とあわせれば、五百はいるかもしれない。たしかにこの都市の人口から考えても、多すぎる。
注意深く観察するところ、彼らは皆年齢も風貌もばらばらであった。また、アスファリアの騎士団員のような、軍人としての緊張感が見られない。中には、堂々と酒を飲んでいるものもいる。
「正規の軍人には見えない」
ユアンが小声で呟くと、ルチカも小さく頷く。
「前のときもそうだった。動きが洗練されていない。そのかわり野蛮で、容赦がなかった」
「……傭兵を集めているわけか。時がくれば、単独で攻め込む気だな」
親和派のレガリス大公を無視して、フォワ公は動くつもりだ。その計画が、フォワ公自身のものか、それともアデルに唆されてのことなのか、図りかねたが。
「一旦、戻るぞ」
ユアンは言い、二人は再び闇に紛れて動き出す。
高台にある城からうまく抜け出し、街へ続く跳ね橋に差し掛かったところだった。
「いたぞ!」
叫び声。ユアンは舌打ちをして、走る速度をあげた。だが間に合わず、橋の中ほどで、正面に回り込んだ兵たちに行く手を阻まれてしまう。
月明かりの下、二人を阻む長剣が光る。背後からも、大勢の足音が近づいてくる。
「ユアン、先に逃げろ」
ルチカが腰にある二本の短剣をその両手に取り、一歩前に進み出た。ユアンも抜刀し、兵士たちを見据えながら答える。
「守ってもらう必要はないと言わなかったか」
「それでも守ると言った」
じり、と兵たちが一歩距離を縮める。
「悪いが、女に守ってもらうのは趣味じゃない。突破する。来い!」
言ってユアンは地を蹴り、駆け抜けながら次々と剣を薙いだ。悲鳴と怒号が飛び交う。
ルチカもまたユアンに続き、鮮やかな手捌きで兵を倒していく。時々はその足で、迫りくる兵を昏倒させていた。
傭兵たちは、訓練もまだ十分でないのだろう。烏合の衆だ。数が多いだけで、相手にならない。
最後に立ちはだかった男を、ユアンは袈裟懸けに斬り下ろす。ひきつれた叫びが響きわたり、ユアンの頬に赤い染みをつくった。
道が開く。二人は一気に駆け抜けていた。




