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潜入調査 03

 鍛冶職人組合(ギルド)は、この区画で一番の巨大な三階建ての建物で、一際目を惹く造りをしていた。

 中には職人や商人が大勢いて、その内の幾人もが、フィオナの姿に気がついて声をかける。


 フィオナはシオンとユアンの二人を、「ハイラム・カーソンの客」つまり、フィオナの父の客として紹介してくれた。そのお蔭で、出会う人間に握手を求められることはあっても、疑いの眼差しを向けられることはなかった。


 一通りギルドの案内が終わったところで、シオンがユアンに囁いた。


「彼女を頼む。少し探ってくる」


 フィオナはギルドの人間と話していて、こちらに背中を向けている。


「……わかった」


 シオンの背中を見送って、それからどうやって彼女にシオンの不在を説明しようかとユアンは考える。


 フィオナは話を終え、こちらを振り返ってシオンがいなくなっているのに気がついた。驚いたようにその大きな目を丸める。


「彼、どこに行ったの?」

「さっき会った商人に連れていかれた。髭面(ひげづら)の」


 先程紹介してもらった人物を思い浮かべてそう言った。握手をした大勢の中で、もっともこちらに興味を持っていた人間だ。


「……ああ、あの人ね。さすが、抜け目がないわね」


 得心のいった様子のフィオナ。幸運にも、信じてくれたようだった。


「帰ってくるまで、さっきの書庫にもう一度行きたいんだけど」


 書庫には珍しい蔵書が数多くあった。レガリスについて、何か役に立つ情報も得られるかもしれない。期待は薄いが、何もしないよりはましだと思ってユアンはそう言った。


「いいわよ」


 フィオナは何の疑いも持たずに、そこへと案内してくれる。運の良いことに、書庫には誰一人おらず、ユアンは安堵した。身分を(かた)っているのだから、当然のことながら、あまり人目につかない方が良い。


 書棚をざっと見渡して、目を惹いたものを何冊か取りだす。中央にあったテーブルまで持っていくと、椅子に座って本を開いた。


「ねえ」


 フィオナが真横にきて、何か言いたげにこちらを見ていた。ユアンはそれを無視する。


「ねえってば」

「…………」

「ねえ、ちょっと!」


 しつこいほどに声をかけられ、挙句の果ては腕をつかまれて体をゆすられた。


「……うるさい」


 ユアンはそれでようやく顔をあげ、フィオナを睨む。

 そんなことにはお構いなしに、フィオナは身を乗り出してユアンの顔を覗き込んだ。


「あなた、いくつなの?」

「…………」

「ねえ、いくつ?」


 ユアンは深いため息をつく。


「十八だけど、それが何か関係あるのかよ」

「え、私よりひとつ年下なんだ。信じられない」


 信じられないのはこっちだと、ユアンは心中で言い返した。


「ふうん、そっか。年下かあ」


 言いながらフィオナはしげしげとユアンを見る。


「ねえ、お願いがあるんだけど」


 そこで言葉は切られた。彼女を無視して本に意識を戻していたユアンの視界は、次の瞬間、何かにさっとさえぎられた。

 気がついたときには、フィオナの唇が自分の唇に触れていた。ほんの一瞬で、フィオナは顔を離す。


「しちゃった」


 そう言って、悪びれる様子もなくフィオナは笑う。

 シオンと別れたのは失敗だったかと、ユアンは再びため息をついていた。

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