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潜入調査 02

 姉弟の家は、彼らと出会った路地をまっすぐ進んだ先、大通りに位置する大きな商店であった。

 通りの他の店はまだ営業していたのだが、この店だけは何故か店仕舞いをしていたようだ。


 娘が入り口の鍵を開けるのを待って薄暗い店内に入る。重いカーテンが開かれ、あたりを明るく照らした。


「……いい品だ」


 陳列された武器を見ながらシオンが呟くと、娘は鼻をぴくりと動かして揚々と答える。


「そうでしょう。うちの品質はこのあたりで一番よ」

「そのわりに、閉店してるのはどうしてだ」


 ユアンが聞くと、娘は少し残念そうに答えた。


「父さんがここを離れて、店は閉めることにしたのよ」


 すると、少年の方が晴れやかな声を上げた。


「父さんは今、町をつくりに行ってるんだ。すげえだろ!」


 顔を輝かせて父を語る少年に、ユアンは思わず言葉に詰まった。自分が父を誇らしげに語らなくなってから、一体どれくらいの月日が流れただろう。ユアンは少年から目を逸らした。眩しすぎて、正視できなかった。


「まあ、立ち話もなんだから、二階へどうぞ」


 進められ、階段を上る。そこは店舗である一階とは違い、彼女たちの住居として整えられた場所になっていた。


 ダイニングへと案内され、椅子を進められた。


「そういえば、まだ自己紹介していなかったわよね。私はフィオナ。フィオナ・カーソンよ」


 三人がそれぞれ席につくのを見てから、娘はにこりと笑う。


「こっちは弟のノア。よろしくね」


 それぞれが握手を交わしたが、こちらの名前は名乗らなかった。フィオナも聞いてはこなかった。商売上、そういう相手には慣れているのだろうか。


「さっき話したように、父さんが新しい町の開拓へ行ってしまって、鍛冶場と店は閉めたの。でも在庫ならあるから、安く卸すわ。もうすぐ私とノアもあっちへ向かうから、処分しておきたいの。どれくらい必要なの?」

「長剣を三十。防具も同じ数」

「助かるわ、一気に(さば)ける。七五〇万ロスでどう?」

「七〇〇」

「……いいわ。交渉成立ね」


 フィオナはその手をシオンに差し出す。シオンも微笑んでその手を握った。


「十日後に金を届けるから、受取りはそれからで」

「わかったわ。今契約書を作るから、少し待ってて」


 と、立ちあがったフィオナをシオンは呼び止める。


「ギルドに案内してくれないかな。今後のために、どんな人間がいるか知っておきたいんだ。きみがいなくなった後にも、取引が必要になると思うから」


 フィオナはシオンを振り返り、少し困った顔をする。


「うちはもう、ギルドを抜けているのよ。お客を紹介すること自体は、歓迎されると思うけど……」

「今回の取引の件は、黙っておく」


 シオンがそう言うと、フィオナはそれなら、とばかりに頷いた。


「いいわ。あなたたちは父さんの取引相手ってことにしておくわ」


 これで堂々とギルド内に入っていけるというわけだ。

 ユアンは内心でシオンに感心する。虫も殺さないような顔をしながら、なかなかの曲者(くせもの)である。そういうところはラウラに似ているだろうか。


 すぐに契約書を作成したフィオナは、羽ペンとともにそれをシオンの前に差し出す。

 シオンはそれにすらすらとサインを入れた。署名は「シリル・ブロウ」となっている。迷いなく書かれたところを見ると、使いなれた偽名なのだろうか。


「それじゃ、案内するわ。ノアは留守番よ」

「嫌だ! 俺も行く!」

「駄目。ギルド内を、子供がうろうろしたら邪魔になるわ」


 姉の言いつけに口を膨らませたノアに、ルチカが提案した。


「それじゃ、私にこの界隈(かいわい)を案内してくれないかな」


 ノアは顔を輝かせる。


「いいよ! 行こ!」


 ルチカの手をとったノアに、フィオナは申し訳なさそうな顔をする。


「お願いしてもいいの?」

「もちろん」


 そうして出ていく二人を見送って、フィオナは契約書を棚に仕舞うと、改めてシオンとユアンを階下へと促した。


「それじゃあ、行きましょ」

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