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かたばみ  作者: 辰野ぱふ
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4.

 友香が「はい」と手をあげて、立ち上がり、

「じゃあ、そう書けばいいじゃない! おれ作文きらいですって! 一行にしておけば? 恥ずかしくないんならね」

 とどめの一撃を刺した。

 美久は友香に笑いかけた。顔に上っていた血がすーっとひくような、胸がすかっとするようないい感じだった。

「そうね。みんなの手紙を、まとめて文集みたいにすれば、みんなにも配れるね。みんなの三年生の記念にもなるしね。笹岡さんの意見のほかになにかいい案がある人」

「手紙でいいと思いまーす」

 だれか、女の子が言って、

「いいでーす」

「思いまーす」

 続けて、みんなが声を出した。

「それじゃあ、多数決を取ろうか。いいと思う人!」

 トリオと、あと二、三人が手をあげなかったくらいで、そのほかのみんなは賛成して、意見がまとまった。

「それじゃあ、まとめるのに同じ大きさの紙を使った方がいいから、用紙はあとで先生が用意します。どんなに短くてもいいのよ。大切なのはなかみでしょ。長さで決まるわけじゃあないんだから。あと二週間しかないから、早くしないと・・・・。明日までにみんなだいたい、なにを書くか考えておいて下さいね」


 帰り道、友香がふくれっつらをしていた。みんなの前では助け船を出してくれたのに、

「あーあ、あたしも作文なんか好きじゃあないのに。それに三上君に言いたいことなんかなーんにもないのに、ミクがやっつけられるのくやしくて、味方しちゃったわ。どうしようか」

 と、ぶつぶつと文句を言った。

「いいじゃない。何でもいいって、ユウカが言ったんじゃない。何でもいいのよ」

「だけど、なんで、あんなこと張り切って言ったの?」

 友香がふしぎそうに美久を見た。

「わかんない」

 美久がぽつんと答え、

「そうなんだ」

 友香がびっくりしたように言った。

 美久には本当にわからなかった。なんであんなところで、ドキドキしながらわざわざ手をあげたのか。

 でも、いつも目のはしにさびしそうな、つまらなそうな三上君がうつるたびに、美久は自分がゆううつな気分になって、「三上君がいなかったら・・・・」と思うことがあったから、その気持ちが本当になってしまったようで、どこか後ろめたい感じがしていたのだ。自分が思ったから、その願いがかなってしまったような・・・・。

 それは、普通の願いごととは、ちょっと違っていて、かなっても、すなおに喜べないものだった。

「おーい! おまえ、三上のファンだったのかよ!」

 美久と友香がそろって歩いていると、ジョージたちが追いつきながらからんできた。

「そうだよ! どうしてくれるんだよ! おれたち、賛成もしてないのに書かなきゃなんないんだぜ」

「そうだよ! どうしてくれるんだよ!」

 三人の大合唱が始まった。

 友香が、さっと間に入って、

「どうぞ。白紙で出したら? 名前だけ大きく書けば目立つわよ」

 と、つんとすました。

「三上くーん、好きよー」

 倉橋君が、女の子みたいな声でふざけると、また三人そろって、まねして、ふざけた。

「ばっかみたい」

 友香は冷たく言い捨てて、さっさと歩き出した。美久は、内心びくびくしていたけれど、それを顔には出さずに、せいいっぱい胸をはって平気な顔をした。友香がいてくれたことが、どんなにか心強かった。

「ったく・・・・、あんたの味方したから、とんだとばっちりだわ」

 友香は、美久にも怒っているふうだった。

 美久はさっき、意見を出したことを急に後悔しだしていて、しゅんとしてしまった。

「でも、『乗りかかった船』って、この間習ったよね。もう、言い出したんだからさ、乗り切ろうぜ!」

 友香は、どんと美久の背中をたたいた。

 三上君は、それからもずっとお休みだった。大伴先生が、

「からだの調子が悪いということです」

 と、みんなに伝えた。

 ホームルームの時間に、美久の提案した手紙の用紙が配られて、また意見を出し合った。そして、それぞれが一ページを好きなように使っていいことになった。作文が苦手なら、絵を描いてもいい。マンガでもいい。そんなことを、みんなで少しずつ話し合いながら、文集はどんどんできあがっていった。

 こういう相談は本人がいない方がまとまりやすいものだ。二週間の間、みんなちょっと高ぶった気分になっていて、次から次へと作業は進んで行った。でもなんだか、美久はさびしいような気もしていた。

 もう、三上君が転校する日まで、あと三日というとき、友香が言った。

「なんだかさ、三上君って図書館には行っているみたいだよ。うちのお母さんがね、このあいだ三上君のお母さんと電話で話しているの聞いちゃった」

「そうなの・・・・」

「やっぱりからだの調子が悪いわけじゃないんだね。学校に来たくないんだね」

 美久はなぜとはなしに、そんな感じがしていた。

「三上君のお父さんって、実は本当のお父さんじゃあないみたいだよ。どうしてだか知らないけれど…。だってね『新しい場所で、新しいお父さん、お姉さんと一緒に暮らせば良くなるわよ』とか、うちのお母さんが三上君のお母さんに電話でそんなこと言ってたもん」

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