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かたばみ  作者: 辰野ぱふ
3/7

3.

「ユウカのお母さんって、三上君のお母さんと仲いいの?」

「ううん・・・・、三上君のお母さん、あれなんて言うんだっけ? お腹にいいやつ。ミルクから作る・・・・乳酸菌の・・・・。あれ、配ってるんだよ。スクーターに乗って。うち、取ってるんだ」

「へええ」

 幼稚園の時に仲が良かったわりには、美久は何も三上君のことについて知らなかった。幼稚園の時、美久の家に三上君は何度か遊びに来たことがあったけど、美久が三上君の家に遊びに行ったことは一度もなかった。なぜだろう。

 幼稚園バスの送り迎えはいつも、三上君のおばあちゃんがしていて、お母さんの姿を見かけたこともなかった。

 ある雨の日、幼稚園バスから降りると、その三上君のおばあちゃんも迎えに来ていなくて、美久がお母さんから受け取った傘に一緒に入れてあげて、三上君のアパートの棟まで送って行ったことはあったのに。三上君はさっと自分の家のドアに走って行って、後ろも振り向かず、「バイバイ」とも言わずに中に入るとバタンとドアを閉めてしまったのだ。

(なんで中に入れてくれなかったのかな)

 今までふしぎにも思わなかったことが、急にふしぎになってきた。

 その日、家に帰ってから、美久はさっそくお母さんに三上君の転校のことを伝えた。

「そう。幼稚園の時にはよく遊びに来たのにね。美久、三上君のこと大好きだったじゃない!」

 美久はびっくりした。自分の顔がまっかになるのがわかった。そうしてもうれつに腹が立った。

「そんなことないよ!」

 すごくくやしいような気持ちになって、ドンとテーブルをたたくと、立ち上がって

「なんでそんなこと言うの!」

 テーブルの上のものをひっくり返しそうないきおいでお母さんに突っかかった。

「あらあら。そんなに怒らなくてもいいじゃないの。いいお友だちと思っていただけよ」

それもしゃくにさわった。

「そんなこと一度も思ったことないよ! 三上君って、学校ではうそつきで、みんなからきらわれているんだよ!」

「そうなの? だったら、美久が仲良くしてあげたらいいじゃないの」

 お母さんはなんでそんなむずかしいことをかんたんに言うのだろう。美久は心がにえくり返るような気持ちをおさえることができなくて、もうれつにくやしくて、悲しくてどうしようもなくなって、

「もういい!」

 と言うと、自分の部屋に走りこんだ。

 お母さんの横で弟の一平が目をまんまるにしているのがチラリと目に入った。一平は幼稚園生だ。きっとなにがなんだかわからないでいるのだろう。

 美久がバタンと部屋のドアを閉めると、一平が泣き出す声が聞こえた。美久にもそれが伝染してきて、涙がどんどんあふれてきた。その日はお母さんの顔を見るのもいやになって、ぶすっとふくれたまま、部屋に閉じこもって過ごした。


友香からうわさを聞いたその次の日、担任の大伴やす江先生が、朝のホームルームの時間に、こほん、と小さいせきをして、みんなの注意をうながした。

「実は、三上良君が三月いっぱいで転校することになりました。三上君は、そっといなくなりたい、って言うの。三上君のお母さんもね。あまり大げさなことはしたくないって」

 大伴先生はここで言葉を切り、ぐるりとみんなを見まわした。

「でも、三年間もいっしょに生活したんだもの。なんだか、それじゃあ、さびしいと思わない? 先生も、あんまり大げさなことや、お金のかかることはしたくないと思います。でも、みんなの手作りの物とか、記念になるようなものをあげたらいいんじゃないかな・・・・。そう思うんだけど、みんなはどう思う?」

「えーっ」

 ジョージたちが、まっさきに不満の声をもらした。

「おれ、ぶきようだからさ、なーんにも作れねーよ。プラモとかさ、金のかかるんだったら、まだ作れるけど」

 手もあげないで、ジョージが大きな声で言った。

「重田君のそれ、意見なの? ちゃんと手をあげてね」

 何度言ったって、このアメリカントリオは手をあげるなんてことはしない。いつもクラスの中心で、笑いもなにも、自分たちから発信する。

「おれも! おれもできません! なんにも作れません!」

 チャーリーがわざとらしく手をあげて、先生から指される前に立ち上がって、さけんだ。

「それに、くだんねえものやっても、あいつ、喜ばないよ。ゴミになっちゃうよ」

 いつものとおり、リッチも一言。この三人は誰かが一回何か言ったら、全員が一回ずつ言わなければ気がすまないのだ。

「何かいい案はありますか? みんなも重田君、倉橋君、横沢君の意見と同じかな?」

 美久の心臓はドキドキ、口から飛び出しそうになっていた。いい考えが浮かんだのだ。美久はえいと心の中でかけ声をかけて、思い切って手をあげた。

「はい、笹岡さん!」

 美久の足はガクガクしていた。

「手紙がいいと思います。それだったら、材料とか、いらないし。だれでも書けるし、どんなに短くたっていいんだから」

 美久は、それだけ言うと、どんとイスに座った。頭のあたりがじいんとしていた。

「それ、いい考えね。どう?」

 大伴先生がみんなを見回した。

「げーっ! それ作文? おれ作文大きらい」

「おれも」

「おれも」

 またジョージに続いてトリオがさわいだ。


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