表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かたばみ  作者: 辰野ぱふ
2/7

2.

「あとね、種もさわってもだいじょうぶなんだ。今度、種ができていたら、実験しよう」

 「実験」なんて、なんとなくはわかったけれど、そうかんたんに使える言葉ではなかった。それを三上君はさらりと言うのだ。美久はあこがれのまなざしで三上君を見つめたものだった。

 三上君はちゃんと覚えていて、種ができるころにまた二人はカタバミを見つけに行った。カタバミのかたまりをのぞきこむと、花の形からは想像できない、ツンとした小人のバナナみたいな形の種が空に向かってつっ立っていた。

 三上君はよくよく種を見分けて、

「ほら見てて」

 パンパンにふくらんだ種を親指と人差し指でそっとはさんだ。種は三上君の手の中で、まるで生きているように、ぱっとはじけた。マジックを見ているようなかんじだった。

「すごーい!」

 美久はやっぱりドキドキしてちょっとこわかった。

「やってごらんよ」

 三上君が言っても

「ううん…、やっぱり、やめておく」

 美久の頭の中にはその道ばたで、こんこんと眠り続ける自分の姿が浮かんでいた。こんな道ばたで眠ってしまったら、いったいどうなるのだろう。白雪姫みたいに、白馬の王子様がやってきて、やさしくキスをしてくれれば目が覚めるのだろうか。だけど、日本では王子様というのはいったいどこにいるのだろう。

「それじゃ、この棒でやってみたら?」

 三上君は落ちていた木の切れはしを美久にわたした。それで、やっとおそるおそる美久は種を爆発させた。

「ね、もしこの花のことを知らない人がまちがってさわったら、どうなるの?」

 美久は真剣に聞いた。

「そりゃあ。そのまま眠っちゃうんだ。永遠にね」

 「永遠」という言葉も美久にとっては、大人の人が使う言葉に思えて、とにかくすごくかっこいい、と思った。

「でも、眠っている人は見たことがないなあ」

「だって、こんな花をわざわざさわらないだろ。でも、ときどき道で眠っている人がいるんだよ。今度見つけたら教えてあげる」

 そういえば、テレビのニュースで道に眠っている人を見たような気もした。

 そうやって、小学校の一学生までは一緒に学校にも通い、ときどきぼそっと話す三上君の物知り話しが美久は大好きだった。

 だけど、二年生になり、三年生になり、いろいろなことがわかってくると、どうも三上君の言うことのせんぶがぜんぶ正しいことではない・・・・ということがはっきりしてきた。

 三上君が教えてくれた星はたしかに木星だったし、教えてくれた草花の名前はぜんぶ本当の名前だったし、かみの毛の伸びる人形の話を学年誌のこわい話特集で読んだこともあった。

 でも、死んだ人がその人のえとの骨になるというのは、変だったし、人間の身体から水が噴き出すという話をお父さんに話した時には大笑いされた。きっと、かみの毛をからだのどこにでも植えられるというのも、うそにちがいなかった。

 理科の授業で指された三上君がまちがったこたえを言って、がっかりさせられたこともある。幼稚園時代、光かがやくように思えた三上君の話が、みるみるくもって、もやもやと美久の心の底にたまっていった。

 そもそも、三上君がなぜジョージたちにからかわれているかといえば、やっぱり、そのうそっぽい話しのせいだった。

「おーい! こいつ、小さいとき、空飛んだことあんだってよ!」

 ある日、ジョージが教室でさわいでいて、

「じゃあ、飛んでみろよ!」

「そうだよ、見せてくれよ!」

 リッチとチャーリーがたたみかけるように言って、三上君は真っ赤になってしまった。

「だから、小さい頃、飛べるってことが信じられるうちは、本当に飛べることがあるんで・・・・、今はできないけど・・・・」

 三上君は口の中で小さく小さく、ぶつぶつと念仏のような言葉をとなえていた。美久はなぜかジョージたちにではなく、三上君に対してすごく腹が立った。

(なんで、そんな、証明できないようなこと、言うんだろう。ばかみたい。かっこわるい)と、美久は思った。

 三上君とは縁があって、ずうっと一緒のクラスだったが、今はもう話しかけることも、話しかけられることもなかった。

 クラスで、一人ぽつんとしている三上君の姿が目に入ると、美久は、ただそれだけで腹が立つことがあった。今まで、友香と楽しくおしゃべりして、はしゃいでいた気分が、いっぺんにしぼんで、すごくつまらない気分になってしまう。

 もし、三上君が、そこに座っていなかったら・・・・、そのすがたが美久の目に入らなければ、ずっと楽しい気分でいられただろうに。

(三上君ってわざとらしー)と、美久は思うようになったのだ。

 それまでも休みがちだった三上君は、三学期になってからは一日も学校には来ていなかった。その空っぽの席を見るだけで、美久はつまらない気持ちになり、怒りたくなってしまうのだった。

「三上君って、なんで転校するんだろ? 友だちができないからかな?」

 ふっと、美久がつぶやいた。

「まさかあ。なんか、三上君のお父さんの勤め先が長野の方になるって、うちのお母さんが言ってたよ」

 思いがけず、友香が答えたので、美久はびっくりした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ