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第3章 ライバルは素直じゃないビリーブの持ち主

1


 俺達ピュアビリーブと玲奈達のスパークルが呼び出された。呼んだのは大平藤市のアイドルプロジェクトの会長さん。

 五十歳前後の七三分けで、黒のスーツをビシッと着ている。まじめな雰囲気を出しつつも、挨拶をしたらメガネをクイッと上げて本題に入った。

「単刀直入に言う。ピュアビリーブとスパークルにコラボをしてほしい」

「えっ!」

 俺達みんなが上げた声は重なった。唯一玲奈だけがフンと漏らし、会長さんに向けていた視線に、鋭い光りが生まれた。

 アイドルプロジェクトがスタートしてから約一ヶ月。最初に始めた俺達ピュアビリーブと、少し遅れてライブをしたスパークル以外は、まだ店内でライブをしていなかった。

 それにはいくつかの理由が考えられる。

 まずは毎日の営業をしつつ、慣れないアイドルプロデュースもしなければいけないこと。無知の状態から始めるのは非常に難しく、教科書らしい教科書なんて存在しないため、試行錯誤を繰り返さなければならない。

 お店によっては女の子を集めるので苦労している店舗もある。レストランのバイトならすぐに見つかるかもしれないけど、それをしつつアイドルとしての活動もしなきゃいけない。募集をすればくるってもんでもない。

 ちなみにうちの場合は、俺と結菜は親父の子供で、ひなたは結菜の友達。そういう流れだったので、メンバー集めはスムーズに進んだ。

 メンバーが集まって次の問題は、曲やダンスの振り付けだ。

 知り合いに作曲者がいる人なんて中々いない。さらにダンサーの知り合いがいる人もいない。そういう流れでここで躓くグループもいるようだ。

 もちろん今はネットでそういう人を探せるけど、ネットを使ってないプロデューサーもいる。アイドル側は受け身の娘ばかりだと指示待ちになって、アイドル的な衣装を着たウエイトレスになって、それで少しでも売り上げが上がれば、アイドルの話がうやむやになる。元々経営的なピンチを脱するのが目的だったので、それがクリアできれば大変なことにチャレンジしたくない、新メニューを考える時間にあてたいと思う料理人がいてもおかしくはない。

 なんだかんだで予定通りにいかないものだが、それはそれでしょうがないと思う。アイドルビジネスをメインにしてるわけじゃないため、ノウハウも予算もないし、明らかにモチベーションの低そうな店舗もあった。

 会長さんが文句を言った話は聞いたことがあるけど、こればっかりはどうにもならないんじゃないかなって思う。あくまでレストランが主体だから。会長さんは総合的にアイドルプロイジェクトで盛り上げて、そのうちの数パーセントをもらってるみたいだけど、毎日の営業をこなす大変さがわかってないみたい。そういう人に怒られるとカチンとして、やめたくなる人の気持ちもわかる。

 そこでプロジェクト会長さんは、この二つのグループにコラボを提案した。大平藤市のアイドルプロジェクトが盛り上がれば、他の市から人が来て、レストランだけでなく街全体が潤うって考えみたい。

「どうする?」

 俺は結菜とひなたに話を振った。俺自身は全然オッケーなんだけど、みんなの考えも聞かなきゃ。

「あたしはいいよ」

 笑顔で結菜が答えた。ひなたに視線を向けると、腕を組んで考えている。ひなたは嫌なのかと思ったが、ちょっと違うようだった。

 ひなたが手招きをして、顔を近づけると耳元で囁いた。

「玲奈が苦手なんだよね」

 なるほど。確かに苦手な人は多いタイプだろうな。ツンツンしてて自己チューな面が強い。合わせようとする気持ちもあまりなく、取っつきにくさはかなりある。

 俺はそういう玲奈の強さに惹かれて仲良くしたいけど、ライバル宣言されて仲良くなってくれない悲しさがある。

 俺が視線を玲奈に向けると、スパークルは相談もせずに玲奈の宣言をぶち込んだ。

「すまないが断る」

 その言葉を残して玲奈は歩き出した。

 それを見たひなたが耳打ちを続ける。

「ああいうところが苦手なんだよね」

 わからなくはない。確かに俺が出した意見があんな風に返されたら凹む気がする。

「待て。これは提案というよりも、決定事項なんだ」

 会長さんは一瞬何が起きたかわからずにあっけにとられていたが、このまま玲奈に帰られては困ると思い、玲奈の前まで行き説得する。

「くどい!」

 玲奈にビシッと言われ、会長さんはその場に立ち尽くした。正直年齢なんて関係なく、人間としての強さの違いが浮き彫りになった。この場合の強さっていうのは、戦って勝つかどうかの強さじゃなく、心の強さだ。

 俺の中ではビリーブが非常に高い玲奈は、その辺の大人と会話をしても気持ちで負けることはないと確信している。議論で勝つかって話しじゃなくて、気持ちが負けないってことだ。

 ゴーストに精神エネルギーを吸収されて、それを奪い返すなんて、真似しようと思ってもできる人間は中々いない。

 若葉とあかりは玲奈を追いかけた。外に出たところで玲奈と何か話しているが、二人は俯きながら戻ってきた。

 雰囲気から説得に失敗したのがわかった。

 若葉とあかりはやりたいようだったが、玲奈は自分の考えをちょっとやそっとじゃ変えないタイプだ。

「すいません。玲奈ちゃんは自分の考えを貫く人で、言い方が悪くて」

 若葉は玲奈の態度を会長さんに謝ると、会長さんは玲奈にできなかった態度を若葉にする。

「まったくだ。あんな態度はアイドルとして失格だ。これは決定事項だ。彼女がやりたくなくても、やらなきゃいけないんだ」

 やっぱりこの人嫌いだ。

 基本的に自分の思い通りにならなきゃ気が済まない性格。だけどビビりな部分があって、玲奈には強く言えない。結果的に気を遣った若葉にガンガン怒る。

「玲奈ちゃんはああいう態度をとっちゃうけど、悪い娘じゃないんです」

 玲奈の性格はみんな知っている。良いかどうかは置いといて、玲奈のことで若葉が必要以上に謝ったり、サポートする必要はないと思う。

「謝らなくて良いよ。でもどうすればいいかな? 二人はやりたいんだろ?」

 俺は明るく話しかけた。雰囲気から若葉とあかりはやりたいという印象を受けた。若葉は頷きあかりは顔を明るくさせた。

「玲奈をどうするかだな」

 俺の呟きにひなたが反応する。

「やりたくないなら無理にやってもしょうがないんじゃない? 玲奈がいない状態でやれば良いでしょ」

「でも玲奈ちゃんってすごい人気あるんじゃない?」

 結菜の言うとおり玲奈の人気はすごい。特に女の子の人気があって、アイドルっていうよりも、カリスマ性のあるアーティスト。憧れの対象っていう気持ちだと思う。

 俺もそうだけど、不器用な人はたくさんいる。すごいスキルを持っている人に憧れる気持ちはわかる。さらに信念を強く持っているのも魅力的だ。嫌なことは嫌とはっきり言えない人は、今の玲奈を見たらさらに憧れが強くなるかもしれない。

「うん。カリスマ性があるから、アイドル的な人気っていうよりも、憧れ的な感じでね。あたしも玲奈ちゃんの強いところに憧れてるよ」

 結菜がそういう風に玲奈を見ていたのはちょっと意外だった。

「きっと玲奈ちゃんがいないとコラボしても不満の声が出るんじゃないかな」

 あかりの言葉にみんながうーんと思考を巡らすと、会長さんは渋い顔をする。

「他のメンバーが合意したから、多数決で決まってるし、玲奈にもやってもらおう」

「玲奈の性格わかってますか?」

 俺は思わず会長さんに尋ねた。会長さんは驚き何かを言いかけたが、ひなたが先に話し出す。

「玲奈は自分を強く持ってるから、決まったからとか、みんながやってるからって言葉で納得しないですよ。納得しなきゃてこでも動かないです」

「やりたくなくてもやらなきゃいけないことをやるのが大人なんだよ」

 大人じゃない人間に大人の理屈を使われても困る。

「俺じゃなくて玲奈に言ってくださいよ」

 たぶんここに玲奈がいても、会長さんは玲奈には何も言えない。さっきの態度を見てたらそう思う。逆に玲奈以外の人間にはがつんと言える。言いたいことは本人に言ってよ。

「たぶんそんな言葉を言われたら本気で怒ると思いますよ」

 会長さんはビクッとなったが、それを誤魔化すように、咳払いをする。

「玲奈はラーメン武装が可能になってモンスターを倒していってるから、人気はかなり高いですよ」

 玲奈の人気はアイドルとしての人気だけじゃなく、ラーメン武装をするようになって、何度かモンスターを倒している。それを動画サイトにアップされ、思いがけない入り口で玲奈のファンは増えている。ちなみに俺のファンも同じ形で増えている。

「ファンはコラボは見たくても、無理矢理やらそうとしたってバレたら、玲奈の味方になると思いますよ」

 実際にファンの人と交流していない会長さんはわからないと思うけど、ファンの人は俺達のことを応援してくれてる。無理矢理やらそうとしているなんて知ったら、怒る人が多いと思う。

「バレなきゃいいんだ。バレなきゃ」

 この人本当に信頼できないと思った。バレなきゃ何をしてもいいって考えてるのかな。そういうのは法律違反する政治家や会社と同じでダメでしょ。

 ひなたはため息をついた。諭すような口調で話し始めた。

「玲奈の性格知らないで進めたら失敗しますって。感情をむき出しで怒りをぶつける玲奈は、隠そうとしないですから」

 怒ったときの玲奈の顔を思い出したのか、会長さんはのけぞった。

 だけど俺とひなたの肩をぽんと叩き、親父は会長の前まで来る。今まで様子を見ていたけど、親父も言いたいことがあるのか。

「思うようにならないのはしょうがないですよ。各店舗アイドルのプロデュースは初めての経験ですから。うちみたいにできると思ってやったら失敗した例を見たら、しっかり練習させてからやろうと思うのは当然です」

 親父は優しい語り口で、会長さんに微笑んだ。

「焦っても失敗を招くだけです。ゆっくりやっていきましょう」

 親父は丸く収めた。さすがは親父と思った。俺もひなたも敬意は払いつつも、少しとげのある部分があった。

 会長さんが帰り、親父は俺とひなたに注意する。

「お前達の悪い癖だ。目上の人にも思ったことをストレートに言って」

「だけど玲奈に無理矢理やらせたら絶対に怒って失敗すると思ったから」

 注意されてることは十分に理解している。だけど明らかに失敗を招く行動はしたくない。それに思いやりのない発言も、反論したくなった。

「俺が言ってるのはストレートに言うなって言ってるんだよ。内容は同じでも相手が受け入れやすいように言えばいいんだよ」

 なるほどと思った。会長は親父の言葉で、憤慨していた気持ちを抑え帰った。俺達だけだったら、言い負かしたくなってた。

「立場が違えば考え方も変わってくる。プロジェクトが思うように進まなきゃ、うまくいくように進める方法を考える。うちはともかく全体的に見たら、頑張ってほしいところが頑張れない状況だからな。そのぶんうちとスパークルに頑張ってもらおうと思ったんだろ」

「でもそれってうちじゃなくて、その店舗に言わなきゃ」

 できない店舗のしわ寄せが、できる店舗にくるのは変じゃないかと思う。

「その考えも間違ってないし、会長さんの考えも間違ってないと思う。全体を見て考えると、できないところのできない理由も見てるもんなんだよ。どっちが正しいかは、そう簡単に答えられないけどな」

「面倒くさいな」

「春馬はその面倒くさいのを、身につけつつあるから大丈夫だよ」

 親父の言ってることがよくわからなかったけど、お店の準備を始めたので突っ込んで聞けなかった。



 俺達は若葉とあかりを見送るため外に出ると、モンスターが現れた。今までのように大勢のモンスターではなく、ビルよりも大きな巨人鬼が、金棒を持って現れた。それを指揮する剣を持った、魔族が一人肩に乗っていた。

 俺は急いで巨人鬼の方へ向かった。

「君か。変な武器で戦う勇者とは?」

 巨人鬼からスッと降りた魔族は、俺の顔を確認して訪ねた。

「ちくしょう。否定したいのにできないはねえ」

 もっと格好良い武器で戦いたいぜ。

「俺は魔族のピッケルだ。お前を倒しに来た。やれ巨人鬼」

 ピッケルは巨人鬼から前転をしながら降りて、片膝立ちで着地。スマートな身のこなしと余裕の表情から、強さを感じ取る。

 俺の様子をうかがうような視線を向けて、腕組みをしている。こっちの出方を見ているのか。

 俺はみんなを店内に逃がし、お店から離れながらバーガー武装をした。ポテトソードを出して構えると、ピッケルは気にしてることを口にする。

「武器も鎧も変だな」

「うるせえ。気にしてることを言うな!」

 巨人鬼に向かうが簡単に蹴られてしまった。

「俺はサッカーボールじゃねえ」

 ビルよりも高い身長の巨人鬼は、足首まででバスよりも高い。それに蹴られたら遠くへ吹っ飛んじまう。俺には飛行系のアイテムはない。かなりの衝撃を受けながらビルに背中をぶつけて俺は倒れた。

「でかすぎるだろ!」

 俺は痛みを耐えながら立ち上がり、スープマグナムを構えた。近づくと危険すぎる。離れたところから撃ったが、巨人鬼には水鉄砲があたった程度にしか見えなかった。

「春馬。そいつは強いから気をつけて」

 ユーレはいつの間にかいると思ったら、今回は戦う気がないみたい。応援に徹してる。しかも強いって体格差を考えたら見りゃわかるよ。

 巨人鬼は金棒を振り下ろした。俺が跳んでよけたら、コンクリートを砕き、空中を舞う俺にすぐに金棒を叩きつけた。

 速い!

 大きいだけじゃなくて、俊敏さもある。痛みに耐えて吹っ飛びながら思考を巡らす。回転と同時にコンビニの壁を蹴りポテトソードを向けて突き刺そうとしたが、巨人鬼は一歩下がって、俺は着地せざるおえなかった。

 一歩動くだけで進む距離が圧倒的に違う。

 パワーとスピード、全てにおいて今までのモンスターとは桁違いだった。

 近距離戦は危険と判断し、スープマグナムで戦うが、命中してもほぼノーダメージ。どうしろって言うんだよ。

 落ち着け、落ち着くんだ。

 俺は勝てる。勝利をこの手につかむんだ。

 ビリーブを高めながら、巨人鬼の攻撃をよけるのに徹した。焦っても良い作戦は浮かばない。ピンチなときこそ冷静な思考力が必要だ。今はよけながら敵の隙を見つけるんだ。

 俺がよけながら戦っていると、ピッケルが話しかけてきた。

「この世界ミスリーの征服に来て、勇者がいると聞いたがそんなに強いわけじゃないようだな」

 明らかな挑発だとわかっててのってやる。俺はまだまだ大人にはなれないから、怒りを武器に戦ってやる。

「へ、なめんじゃねえよ。俺はこんな巨人鬼に負けないぜ。自分を信じてるからな」

 顎をさすりながらピッケルは興味深そうに俺を見る。

「まだまだ戦えるのか。その力を見せてもらおうか。本気を出せ、巨人鬼」

 そんな命令するな!

 クソ。ただあんなこと言われて我慢なんてしてられない。俺には俺のやり方がある。自分を信じればきっと勝てる。

 巨人鬼が突進してくる。俺は素早い金棒の動きに合わせ、かわしながらマフィンシールドを出す。

 攻撃を受けたら終わりだ。だが相手の攻撃パターンを知る必要がある。しかし何度も振り回される金棒に、規則性はなかった。振り下ろすことが多いと思ったら、俺が跳んだときは振り上げたり、横に振ったりしていた。

「ビリーブブレイク」

 ポテトソードを光らせて腹部を斬ったが、浅い傷をつけた程度だった。息を切らしながら確認した瞬間に、巨人鬼の金棒があたった。

 再び吹っ飛ばされた。ピッケルの命令通り、さっきよりも力を込めている。マフィンシールドで防いでも、圧倒的な体格差からくる攻撃力はすさまいかった。

 俺はまた建物に背中があたると思ったら、誰かが受け止めてくれた。

「春馬。お前はでかいだけの敵にやられるのか?」

 支えてくれた玲奈に振り返り、油断するなと伝える。

「こいつは今までの敵とは比べものにならない強さだ」

 玲奈はラーメン武装をして、巨人鬼に向かって走り出す。

「倒しがいがあるってことね」

 玲奈はナルト手裏剣を巨人鬼の右手にあて、痛みで金棒を落とした。玲奈はそこから高く跳び、顔に向けて必殺技を放つ。

「ラーメンスパークルフィニッシュ」

 チャーシュー、味付け卵、ナルト、メンマなどがあたっていき、ラーメン鞭が輝き巨人鬼の顔面に叩きつけられた。

「体はタフでも顔なら皮膚はそんなに厚くないはず」

 玲奈はそう考えたが、巨人鬼の目が光っていた。俺は慌ててマフィンシールドを投げて、玲奈の体勢を崩した。玲菜の必殺技は巨人鬼から外れた。

「何するのよ!」

 文句を言う玲奈だったが、ピッケルは俺を褒めてくれた。

「春馬と言ったな。中々やるな。巨人鬼の特殊能力は相手の攻撃を跳ね返す能力だ」

 落下する玲奈を受け止めつつ、チャーシュー、味付け卵、ナルト、メンマ、ラーメン鞭がさっきまで玲奈がいた場所に、攻撃されていた。

 玲奈は俺のとっさの判断を理解した。

「助かった。だけど次は自分で防ぐから邪魔しないで!」

 格好良いんだけど、こういう敵には協力して戦わないと勝てないだろ。ただそれを言っても、突っぱねるだろうな。

「お前達の特殊能力の弱点はすでに見抜いてる。目が光ったときに、目を見て魔法を発動させているんだろ?」

 俺の言葉にピッケルは顎をさすり、頷きながら答える。

「見抜いていたか。強くはなくても、分析力はあるようだな。ただそれだけじゃ勝てないぞ」

 目の前にいるのが強い敵だろうが関係ない。俺は俺の強さを信じる。

「だったらこの巨人の目を見ないで戦えば良いだけだ」

 この特殊魔法は相手の目を見ないで戦う。それで防げる。今までのモンスターとの戦いで、それは実証済みだ。だがピッケルは笑う。

「お前達には巨人鬼を倒すだけの攻撃があるようには思えないが?」

「バカか。諦めないで勝利を信じて戦えば必ず勝てるんだよ」

 俺達の強さはビリーブだ。諦めた瞬間動きは遅くなり、攻撃も甘くなる。勝てると信じて動く限り、希望に満ちた動きと攻撃で、どんなピンチも切り抜けられるんだ。

 俺は戦い出すが、金棒を拾った巨人鬼の攻撃をよけるのに精一杯で、反撃のチャンスがない。俺はよけながらどうするか考えていると、ビルからひなたが飛び降り、巨人鬼の頭にしがみついた。

「ひなた。お前何してんだよ!」

 ひなたはそのまま両手で角をつかみ、着ていたカーディガンを脱いで、左手で角をつかみつつ、カーディガンで目をふさぐ。

「フハハハハ。封印されている、我が魔族グラージュの力があればこんな巨人鬼など、赤子の手を捻るようなものだ」

 ひなたはカーディガンを角に引っかけて、目を見えなくさせた。

 巨人鬼が振り払おうと頭を振る。

「ヒャ。ちょっと。マジで危ないから、やめて」

 設定で話す余裕がなくなって、素で怖がってるぞ。

 だけど隙だらけになった巨人鬼に向かって、俺はバーガーバズーカを構えた。こいつを使えば巨人鬼にだって対抗できるはずだ!

 バーガーバズーカを撃つと、巨人鬼のお腹に燃えるハンバーガーが命中した。巨人鬼が倒れてしまった。

「このタイミングで使わないでよ」

 ひなたは角にしがみつき、地面に数センチの部分で叩きつけられずにすんだ。

 倒してはいないものの、数秒たっても起き上がるのも困難な状態だ。かなりのダメージなのは間違いない。

 俺はまずひなたを助けに行った。するとひなたは俺の頭をどついた。

「あたしが死んじゃうでしょ!」

「生きてるだろ」

「運が良かっただけよ。あの高さで落ちたら死ぬでしょ」

 何度も何度も殴られまくる。だけどひなたの目には涙がたまっていて、叩く力がだんだん弱くなっていった。

「もう。あたしのこと、心配してよ。バカ!」

 いつものひなたとは違って、元気なく怒った。空から落ちるのと同じようなもんだもんな。相当怖い思いをさせたことを反省した。

 ひなたは俺に抱きついてきた。

 何が起きたんだ?

 怖がらせたのは申し訳ないけど、何が、どうして、抱きつかれてるんだ?

 訳がわからないまま、俺はひなたの背中に手を伸ばそうとしたら、足音が聞こえた。

「この世界の魔族グラージュか。少々なめていたかもしれないな」

 ピッケルが俺達の前にやってきた。

 すっごい気まずい。流れでこうなったけど、敵の魔族に女の子を抱きしめる瞬間を見られるなんて!

 俺とひなたは慌てて離れた。しかしピッケルは俺達がしていることの意味がわからないようだった。

「何をしているのだ?」

「フフフ。我が内に秘めた魔族グラージュの力を、春馬に与えていたところよ!」

 立ち上がったひなたは真っ赤な顔で、ピッケルに人差し指を突きつけて言い放った。もはや中二病ではなく、格好つけて恥ずかしさを誤魔化しているようにしか見えない。

「なるほど。一旦退却し、作戦を練り直し、次こそ勝利はいただく」

 ピッケルは顎をさすりながら、考えてからそう告げた。

「恐れをなして逃げたか」

「ひなたのせいでめっちゃ恥ずかしかったじゃねえか」

「あたしのせいじゃないわよ。春馬がしっかりしないからでしょ」

 俺達はしばらく言い合いをしたが、そんなのはいつものことだ。ガチの喧嘩じゃない。ただし、ひなたが抱きついてきた意味は未だにわからなかった。

 お互いに言いたいことを言い合い、一息ついてから話題を変えた。

「それにしても、こんなときまで魔族が封印されてる設定をするなんてアホか。でも助かったぜ」

 親指を立ててひなたに笑顔を向けた。

「攻撃するチャンスが中々なくて助かったよ」

「この借りは高いわよ」

「おう。今度飯おごるから」

「で、できれば、オシャレなお店のディナーが良いんだけど」

 ひなたは急にしどろもどろな話し方になったんだが、どうしたんだ?

「お小遣いあんまりないから、高いお店は無理だけど、できる範囲で良いお店を探すよ。今回は本当に助かったからな」

 まだ顔が赤いひなたは、胸を張って宣言する。

「ピンチのときは、あたしが助けてあげるから、安心してね」

「アホ。無理するな」

 俺はひなたのおでこをツンとついて歩き出す。

 いつもなら上から目線で話してくる声が聞こえないことに、すごい違和感を感じた。玲奈はピッケルと戦っていた。ピッケルの剣裁きは素早く、玲菜もかなり苦戦をして倒れていた。

 ひなたは玲奈の方を見て言う。

「力を持ってても協力できない奴よりは、ずっといいでしょ」

「ウチに皮肉を言ったつもり?」

 玲奈は力なくそう呟いたが、玲奈のビリーブはこんなに弱いのか疑問が生まれた。

 俺への対抗心の強さはすごい。精神エネルギーを奪ったゴーストから、精神エネルギーを奪い返した玲奈が、このくらいのことで戦闘不能になるのか?

 その疑問が解消されないまま、玲奈を励ましお店に向かって歩き出した。

「一人で強くなったなんて、思ってちゃダメよ。この前だって春馬のサポートがあって勝てたんだから」

 玲奈の弱った目が、急にいつもの強気な目に戻って反論する。

「フン。群れるのは弱い証拠だ。ウチは一人でも勝てるだけの強さを手に入れる」

 力なく猫背気味だった姿勢は、俺とひなたの方に向いた瞬間胸を張り、闘志に満ちた瞳で宣言された。

「勘の鋭さには負けたけど、純粋な強さはウチの方が上だからね!」

 いつもの玲奈に戻って俺は安心した。弱気な玲奈なんて玲奈じゃない。

「そういうのを負け惜しみって言うのよ」

「ウチはまだ本気を出してないだけよ」

「まだそんなこと言ってるの? あたし達は協力しなきゃ勝てないって言ってるでしょ」

 ひなたはその場を立ち去ろうとする玲奈に、後ろから跳び蹴りをする。さすがに予想外だった玲奈は前に倒れた。

 うつぶせの状態のまま、顔をひなたに向けて睨みつける。

 ひなたは玲奈にため込んでいた気持ちを爆発させた。

「さっきのコラボの話しもそう。あたし達のファンは一緒の人が多いのよ。コラボしたらきっと喜んでくれる。だったら対立せずにコラボをするのは良いことじゃない。あたしたちはファンのために頑張る。それがアイドルなんだからね」

 まくし立てるひなたに、玲奈は立ち上がって強い眼差しを向けたまま聞き続ける。

「何でも一人で解決しようとしないでよ」

 ひなたは睨みつける玲奈に、平手打ちをする。

「フン。ひなたは春馬よりも強いな。言いたいことがあったらいつでも言いに来て。叩かれても考えは変わらないけど、本気で生きてる人間には魅力があるから、話を聞きたい」

 ひなたはもう一回叩きそうになったが、俺は慌てて止めに入った。するとひなたを推してるファンが見ていた。

 普段は可愛いキャラに徹しているひなただが、そのギャップにビックリして荷物を落としてしまった。

「てへぺろ。にっこにこにー」

 無理矢理誤魔化した。

「そんなんじゃ誤魔化せないだろ」

 俺は思わず呟いていた。

 ファンの前のためひなたはぶりっこモードで、玲奈に話しかける。

「玲奈ちゃん。今日も可愛いね。一緒に帰ろう」

 一連の流れを見ていると、寒気すら感じるんだけど、それを当たり前のようにやってのけるひなた。だが玲奈はそれを強く否定した。

「ひなたもそういう生き方なのね。ウチは一人でいいの」

 近くにいたファンが悲しそうになるが、玲奈はさらに強い口調になった。

「ウチのそばにいると、みんな不幸になる。ウチは誤魔化さない。常に本気の言葉を言って生きていくから、傷つけるかもしれない」

 本当のことかどうかはさておき、玲奈にはそう感じているんだろう。

 お店の前でみんなが待っていた。親父が玲奈に向かって怒った。

「若葉の悲しそうな顔を見ろ。玲奈を心配して、いつもひなたに相談しているんだぞ。若葉がどんな気持ちか考えろ」

 親父は思わず相談していたことを話してしまった。若葉は悲しい表情から、気付かれていたのを恥ずかしがる顔に変化した。

 ひなたは慌ててぶりっ子キャラで雰囲気を和まそうとする。

「ワガママばっかり言ってるとおこだよ。プンプン」

 玲奈の頭を軽く叩いた。玲奈のテンションは変わらない。

「ウチは一人でいいの」

 玲奈は走り去ろうとしたが、玲奈を推してるファンが悲しそうな顔になる。

「ウチのそばにいるとみんな不幸になる」

 玲奈の腕をつかんだひなたは、もうぶりっ子キャラを捨て本気の言葉で話す。

「不幸になるって悲劇のヒロインしなくていいから。若葉からいろいろ聞いてるよ。自分達の何倍も練習してるとか。睡眠時間がかなり少ないとか」

 予想はしてたけど、玲奈も天才じゃない。人一倍練習しているだけ。だから最高のパフォーマンスができる。

「ファンを癒やして、楽しいライブをするのがアイドルでしょ。怒りっぽくて、悲劇なんてダメなんだからね」

「ひなたにはわからないのよ」

「うん。あたしにはわかんない。自分勝手な考えをする玲奈がわかんない」

「うるさい」

 お店に入らずにひなたの手を払って走って行く玲奈だが、再びモンスターが現れた。

 ピッケルが再び現れて、巨人鬼を暴れさせる。

「巨人鬼。好きなだけ暴れろ!」

 ピッケルは作戦らしい作戦を巨人鬼に与えていなかった。どういうことかわからなかったが、俺はとにかく止めなきゃと思って、バーガー武装をする。

 俺が巨人鬼の方へ向かうと、結菜の悲鳴が聞こえた。

「キャー!」

「チッ! 俺達を人質にする気か」

 振り返るとピッケルは剣を抜き、結菜、親父、若葉、あかりのそばにいた。。

「人間は人質を止れば勝てる。簡単な勝利の方程式だ」

 ピッケルは魔法でロープを作り、四人を動けないようにする。ピッケルは俺の方を向き、予想した言葉を吐いた。

「動くな。こいつらの命が惜しければな」

 俺はバーガー武装をしたものの動けずにいる。

 ピッケルが魔法弾を放ち、反射的によけてしまった。

「動くなと言ったのが聞こえなかったのか?」

 ピッケルは結菜のふくらはぎに軽く剣を指す。結菜はあまりの激痛に、悲鳴もあげられずに、苦痛の表情を浮かべた。それを見たピッケルは楽しそうに、ムカつく笑い声を上げた。

「次よけたら顔にしようか」

 恐怖に怯える結菜の顔が、俺の心を引き裂くような気持ちにさせる。

 大切な妹を護れなくて何が兄貴だ。

 俺はピッケルよりも強い。何度も心の中で自分に言い聞かせて、ビリーブを高める。だが心の底からわき上がるような強い気持ちにはなれなかった。

 ピッケルが魔法弾を放つと俺は吹っ飛び、腹に激痛を感じた。立ち上がりピッケルを睨みつけるのが精一杯だった。

 結菜を怪我させておいて、自分を信じられるかよ。俺は結菜を護らなきゃと思ってるのに、護れなかった。今更自分の強さを信じるって、どうやって信じればいいんだよ。

 俺の脳内はマイナス思考が止まらなくなってきた。

 きっと俺自身が攻撃を受けたのなら、いくらでも立ち向かっていくだろう。ただ大切な妹を傷つけられて、護ったなんていえないだろ。もう戦う意味がないように思えてきた。どっちにしろ俺は動いちゃダメなんだ。だったら勝利を信じたって、勝ち目なんてないじゃないか。

「良いね、良いね。その絶望に満ちた瞳。俺達魔族はそういう目がたまらなく好きなんだよ。戦って勝つのも良いけど、こうやって心の底から絶望させて、ぶっ倒すのも、最高の気分だぜ」

 ピッケルは俺に魔法弾を放ち続ける。これ以上動いて結菜を傷つけられないため、俺は素直に傷ついていく。

「何言ってるのよ。お兄ちゃんは何があっても諦めないんだから!」

「何?」

 振り返るピッケルに、結菜は痛みをこらえてさらに続ける。

「お兄ちゃんはどんな状況でも自分の強さを信じてるのよ。だからアンタみたいな最低な奴に負けるわけがないのよ!」

 俺は自分がバカ野郎だとわかった。大切な妹を護れなかったと思い、自分の強さを信じれなくなったけど、その妹が俺の強さを信じてくれていた。

 怪我をさせたのは俺のせいだと、自分自身に精神攻撃をしてたけど、結菜はそんな風に思わず、俺がピッケルを倒すのを信じている。

 結菜が俺を信じているのに、俺が諦めてどうするんだ。俺は結菜を助けられる。理屈なんてない。心の底から高まってきたビリーブで、何とかしてみせる!

 俺が希望を見いだして、攻撃を受けながら耐えていると、ひなたがみんなのロープをナイフで切り始めた。それを見て俺の心の中にあった漠然とした希望は、勝利の確信に変わった。

「何度だって立ってやるよ」

 気が付いたら何度も受けている攻撃で、バーガー武装は解除されていた。次に攻撃を受けたら怪我は免れない。ヘタをしたら死ぬかもしれない。だが俺はまだガキだ。言いたいことはストレートに言ってやる。

「お前の攻撃なんて、何発食らっても死なねえんだよ」

 挑発っていうのはときに有効だ。俺の言葉で頭に血が上ったピッケルは、冷静さがなくなって、すぐ後ろの結菜のロープを、ひなたが切っているのに気付いていない。

「望み通り殺してやるよ。食らえ、食らえ、食らいまくれ」

 今までは片手で魔法弾を撃っていたが、ピッケルは両手で、さっきよりも強力な魔法弾を撃ってきた。俺はサッとかわした。

 魔法弾をマフィンシールドで防ぎながら耐え抜いた。

「こいつらがどうなってもいいのか!」

 魔法弾を生み出した手を後ろへ回したが、ピッケルは振り向いてやっと現状を理解した。

「貴様!」

 俺は素早くピッケルの元へ行き、ポテトソードで魔法弾を生み出した右手を攻撃した。振り向くまでのほんの一瞬で、最初の攻撃は決まった。

「クッ!」

 しかしピッケルの剣が俺の顔面を襲い、俺はのけぞってかわすと、回し蹴りを脚にお見舞いされた。

「なめやがって!」

 倒れた俺は剣で突き刺そうとする攻撃を、地面を回転しながらよけていく。

「これならどうだ」

 ピッケルは一度離れて、剣を地面に刺すと、両手で巨大な魔法弾を作り出して放った。コンビニくらいの大きさの魔力を一秒もかからずに作りだし、俺に向けて撃ったのだ。

 さすがにこの速さには驚いたが、作戦を練る暇なんてないし、よけたら街がどんだけ破壊されるかわからないため、すぐに立ち上がって、マフィンシールドで受け止めた。

 ものすごい圧力がぶつかってきた。まるで車を受け止める気分だ。

 俺はこの魔法弾を押し返せると自分に言い聞かす。ビリーブによって力が、体中にみなぎってきた。

 俺はその魔法弾をグッとこらえ、マフィンシールドを上に向けつつ、力を入れていき押し返す。

「な、なんだと!」

「見たか。これが俺のビリーブだぜ!」

 俺はすぐにピッケルに、ポテチソードで斬りかかる。さすがに防がれたが、余裕がなくなってきているのがわかる。

 剣術は俺より数段上なのは認める。ただし、明らかに顔色が悪くなってきて、俺の攻撃を防ぐので精一杯になっている。

 自分の自信のある攻撃を防がれて、自信喪失をしたのだ。戦いは強さだけじゃない。自分を信じることができなきゃ、強い方が負けることもある。

 逆に弱くても、自分を信じてくれる仲間がいれば、その気持ちに応えようと思って、弱さを乗り越えるんだ。

 俺はポテトソードで責め続け、隙を突いてスープマグナムを撃った。フェイクの振り上げたポテトソードを防ぐため、剣を上げたピッケルの胸に、スープマグナムが命中した。さすがに少し後退した程度だったが、怒濤の連続攻撃が決まっていく。ポテトソードも一撃必殺にはならないが、何度も決まり最後に必殺技をぶち込む。

「ビリーブクラッシュ」

 斜めに傷跡がついて吹っ飛ぶピッケル。バーガーバズーカを構えたが、次の瞬間巨人鬼が俺を踏みつぶそうした。

「あと少しだったのに」

 俺は巨人鬼の足をよけ、みんなの場所まで一旦退却する。すると玲奈が巨人鬼と戦っていた。なるほど。通りでピッケルとの戦いに集中できた訳か。今の俺は周りに視線を向ける余裕がなかった。

 玲奈は高く跳んで、ラーメン鞭で攻撃しつつ、離れたところに着地すると、ナルト手裏剣で対応し、臨機応変に戦った。

「春馬はその魔族を倒して!」

「ああ」

「こっちよ」

 巨人鬼は玲奈の攻撃をはじきながら、逃げる玲奈を追いかけていく。

 俺はそれを確認して、ピッケルに今度こそバーガーバズーカを放つ。ビリーブを高めてピッケルも倒せるほどの精神エネルギーをためていく。

「させん!」

 精神エネルギーがまだたまりきっていない段階で、ピッケルが俺を剣で攻撃してきた。しゃがんでかわし、回し蹴りを放つ。かわされた瞬間剣がまっすぐ向かってきて、体を右に翻しスレスレでよける。

「このままじゃ精神エネルギーがチャージできない」

「したければすればいい。ほんの一瞬でも隙がうまれれば、それがお前の最後だ!」

 精神エネルギーをチャージするには、集中しなきゃいけない。ほんの数秒でかまわないが、意識をバーガーバズーカに向けることができない今は、ポテトソードに戻すか考えた。

 俺が攻撃をよけていると、歌が聴こえてきた。若葉の歌声だった。スパークルの曲を一人で歌っている。サビの部分だ。


 自分の力を信じて

 君ならできるよ

 諦めないでどんなときも

 夢をつかむために

 壁を乗り越えるのは君の気持ち次第だから


 俺は若葉の歌を聴きながら、ピッケルの攻撃をよけていると、ビリーブが自然に高まっていく。体中に力がみなぎり、動きがスムーズになっていく。

「なんだこの力は?」

 ピッケルは俺の動きの変化に気付いた。さっきまではギリギリでかわしていたのが、動き自体に余裕が生まれ、蹴りを放つようになっていく。三回目のキックが胸に命中して、倒れたピッケルは、起き上がりながら驚きを言葉にする。

「一体何が起きたんだ?」

「お前にはわかんねえだろうな。仲間に信頼されることで、高まってくるビリーブを感じられないならな!」

 俺はバーガーバズーカに精神エネルギーを注ぎ込もうと思ったら、すでに充電されていた。おそらくは若葉の歌で俺のビリーブが高まった結果、溢れ出るビリーブが、自然にバーガーバズーカにチャージされたんだろう。

 俺はピッケルにバーガーバズーカを構えて撃つ。ピッケルは魔法弾を放ったが、燃える巨大なハンバーガーは、そんなものを蹴散らして突き進み、ピッケルに命中した。

「うぎゃあああ」

「ビリーブだぜ!」

 若葉が俺の方に走ってきて、息を切らして頼んだ。

「お願い。玲奈ちゃんを助けて」

「言われなくても、すぐに行くぜ」

 俺は若葉の頭をなでてから駆けだした。玲奈が戦っていたが、苦戦を強いられていた。状況的には、玲奈の攻撃はほぼノーダメージ。だが玲奈は巨人鬼の攻撃をよけるのが精一杯。攻撃を受ければ即刻死を覚悟するレベルのダメージを受けるからな。

「食らえ」

 俺は玲奈が狙われていたため、精神エネルギーのチャージをして、バーガーバズーカを撃った。

「背中ががら空きだぜ!」

「春馬。こいつはウチガ倒すから」

「ちょっとだけ休んでろ」

 息を切らした玲奈は歯を食いしばり否定する。

「ウチはウチだけの力で倒すんだから」

 玲奈の頭をなでて、優しく話す。

「若葉に助けてもらった。若葉に玲奈を助けてって頼まれた。俺は仲間に頼まれたからには、それをやらずにはいられねえんだよ」

 顔を赤らめつつも、少し考える表情を浮かべた玲奈。

「しょ、しょうがないわね。そういうことなら少しだけ休んでてあげる」

 巨人鬼は立ち上がると同時に、下を向いてキョロキョロする。俺を探してるんだ。だったら俺もバーガーバズーカに精神エネルギーをためながら、踏みつぶそうと迫り来る、足をかわしていく。

 しかしビリーブの高まった今の俺は、巨人鬼の攻撃をよけながら、短時間で精神エネルギーをチャージできるようになっていた。

 俺がバーガーバズーカを巨人鬼の背中に回り込んで放つ。再び倒れる巨人鬼。体の大きさが違いすぎるため一発で倒せはしないものの、それでも確実にダメージを与えていってるのがわかる。背中に命中した一発目は、少し赤くなった程度だったが、今度は皮膚を焼き尽くし、筋肉が焦げている。このまま精神エネルギーをチャージして、三発目を同じ場所にぶち込もうとしたときだった。

「キャー」

 若葉の悲鳴が聞こえた。振り返ると体中にとげをはやしたピッケルが若葉に襲いかかろうとしていた。

「ナルト手裏剣」

 玲奈は少し休み、俊敏さを取り戻していた。すぐに若葉の元へ行き、ピッケルの攻撃を防ぐ。

「春馬に倒されたんじゃなかったの?」

「あの姿は力を抑えておくためのもの。これからが本番だ!」

 ピッケルは素早く動き、玲奈に剣で攻撃する。玲奈も負けじと対抗するが、本気と言うだけあって、さっきよりも素早く、玲奈はチャーシューシールドで防ぐのがやっとだった。

 ラーメン鞭を使い反撃するものの、玲奈の攻撃はかわされ続ける。

「なんて速さなの!」

 あまりの速さに対抗できずに、回り込まれて攻撃を受けた。

「うわぁ」

 倒れる玲奈に駆け寄る若葉。

「大丈夫。下がってて」

 苦しそうな玲奈だけど、ビリーブの高さが立ち上がらせる。心配する若葉だけど、ピッケルが目の前にいる以上、戦わないわけにはいかない。

「次で終わりにしてやる」

「それはこっちのセリフよ」

 強がってみても、玲奈の表情には余裕がない。

「ハッ!」

 ピッケルの魔法弾が玲奈を襲う。しかしギリギリでかわす玲奈だが、スレスレすぎて命中はしていなくても、風圧のような魔力が玲奈の体力をわずかに削り出した。

「この程度は怪我でも疲れでもない」

 気持ちでは負けていないものの、ラーメン鞭で攻撃しても余裕でかわされ、手も足も出ない状態だ。

 若葉がまた歌い出す。希望に満ちたその歌声を訊き、玲奈のビリーブが高まっていく。無理矢理な強がりではなく、自然に生まれる余裕。

 ピッケルが攻撃をしても、チャ-シューシールドで防ぎ、ラーメン鞭が輝きながらピッケルに決まる。

 ダメージを受けたがまだ軽傷のピッケルは、後ろに回り込もうとしたが、玲奈の反応速度が上がり、逆に回し蹴りを受けた。

「俺の本気が通じないだと?」

 ピッケルは冷静さを取り戻そうとして、玲奈から距離を置き、何かを考えるような表情になる。玲奈は攻撃を仕掛けるが、ピッケルは防いで、何かに気付いた顔をする。

「まさか!」

 玲奈の攻撃をよけながら、隙を突いて魔法弾を放つ。玲奈にではなく若葉に向けて。

「どこを狙ってるのよ?」

 玲奈は最初気付かなかったが、振り返った瞬間猛スピードで若葉の元へ向かう。だがさすがに追いつけない。

 ピッケルは若葉の歌で、俺も強くなったのを思い出したのだ。

「危ない!」

 ひなたが若葉に飛びついてかがませた。魔法弾はそのまま遠くへ飛んでいき、ビルにあたって爆発を起こす。

 遠く離れているため、小さくではあるが悲鳴が聞こえた。

 俺もみんなの元に行ってピッケルを倒したいが、さすがに巨人鬼を放置できない。今も巨人鬼の攻撃をかわしつつ、玲奈達の方を見ていたが、攻撃のスピードが上がり、よそ見をしながら戦うのが困難になってきた。

「そろそろ決着をつけてやる」

 俺はバーガーバズーカを構える。金棒を叩きつけようとするが、巨人鬼の足下をくぐり抜け、背中側に回り込んだ。

 バーガーバズーカを何発も当てている部分に命中させた。巨大な燃えるハンバーガーが背中から心臓を燃やして、白い光りが包み込んだ。そして今までのモンスターと同サイズのコインに変化した。

 俺はコインを拾って、みんなの元へ向かった。



 若葉は怒るものの、ピッケルに対抗する攻撃がかわされ続けた。やはり玲奈一人のビリーブよりも、若葉の歌があって、有利になっていたようだ。

「逃がすか!」

 魔法弾を放つと思いきや、若葉達がいる目の前に、モンスターの現れるワープゲートを作り出す。そこからはキラーパンサーが出てきた。

「ちょっと待って」

 ひなたは襲いかかるキラーパンサーに、両手をブンブン動かして、無理な相談をした。玲奈はナルト手裏剣を投げ、キラーパンサーを倒したが、何匹も出てきたため対応しきれない。

「お前の相手はこの俺だ」

 ピッケルは玲奈に斬りかかった。右によけてピッケルの胸を蹴ってバク転をした玲奈は、チャーシューシールドをひなたに投げた。

「使って」

 すぐにラーメン鞭でピッケルに攻撃した玲奈。今は一瞬の隙も命取りになる。

 チャーシューシールドを受け取ったひなただが、若葉を護ろうと必死にキラーパンサーの攻撃を防ぐ。

 ひなたは背中にいる若葉に話しかける。

「あたしは若葉の気持ちが痛いほどわかる。大切な人を心配する気持ちは、うちのバカと同じだからね」

 ひなたに向かって噛みつこうとするキラーパンサーをチャーシューシールドで防いで、回し蹴りを入れる。普通の女の子のひなたのキックは、ちょっと痛いくらいのダメージのようだった。ひなたはキラーパンサーの攻撃を防ぎ、若葉を護り続ける。

「そうなの。いくら言っても聞いてくれないから、もう戦わないでって言うんじゃなくて、サポートしなきゃって思ってるの」

 ひなたの横を通り、若葉に襲いかかるキラーパンサーに、親父が体当たりをする。

「仲間っていうのは支え合うもんだからな。全員が完璧なグループなんてない。苦手な部分をできる人間が支えていけばいい。人間全てが完璧なわけじゃないんだからな」

 親父は倒したキラーパンサーをぶん投げて、次に迫ってきたキラーアンサーにあてた。

「ユー、中々やるね」

「ひなた。その呼び方はやめろって言ってるだろ」

 親父の名前は雄一。雄一のユーだ。ひなたは某大手事務所の社長を真似して、親父をユーと呼んでいる。

 ピッケルは予想以上にみんなが頑張っているのを見て、苛立ちを抑えられずにいた。そこに隙がうまれて玲奈の攻撃が決まった。

「クッ!」

 玲奈はみんなの元へ行くと、すぐに玲奈に向けて魔法弾を放つピッケル。玲奈はラーメン鞭で叩き落とし、キラーパンサーを一気に倒す。

「若葉の気持ちに応えられなくてごめん。若葉は大切な仲間だよ。これからもずっと大切な仲間だからね」

 玲奈は若葉に謝り、若葉は笑顔を作る。

「本当に心配なんだからね。でも玲奈ちゃんを支えることにしたよ」

「ありがとう」

 玲奈と若葉は握手をした。玲奈の目により強いビリーブが生まれた。ピッケルに攻撃をすると、どんどん決めていく。

 ひなたは若葉を護り、いつの間にか現れたユーレは、残ったキラーパンサーを倒していく。

 ピッケルは後ろへ飛んで距離を置く。

「何で急にこんなに強くなった?」

「ウチは常に輝き続ける。信じる仲間がいる限り」

 ピッケルは魔法を撃ちまくり、ひなたの背中へとんでしまう。ひなたは目の前のキラーパンサーと戦いよける余裕がない。ひなたの背中にナルト手裏剣を放ち、ひなたを護る玲奈。

「ひなた自慢の魔族の力を解放しな」

「サンキュー。でもこの程度の敵に使う必要はないでしょ」

 ひなたは笑って見せたが、戦うときの表情は必死だった。

「中々しぶといな。この世界も悲しみ、恨み、怒り、裏切り、憎しみなどの感情で満たしていく」

 やっと俺はピッケルの前まで来た。

「そんなことさせないぜ。俺達は自分を、みんなを信じてるからな」

「大切な仲間を襲ったこと、たただじゃおかないわよ」

 俺の横に来た玲奈は、俺よりも先に攻撃に出る。

「こいつら戦いながら強くなっている。確実に傷が増えているはずなのに」

「仕方がない。俺の特殊能力を使うか。お前達程度に真の姿を見せ、この特殊魔法を使うことになるとは思わなかったがな」

 ピッケルは目を光らせると、二人に分かれた。

「俺の特殊能力は二人に分かれた上で、体力も回復する力だ」

「今までの敵とは全然違う使い方だと!」

 俺の呟きにピッケルは答える。

「魔族だからな。魔法もランクアップしてるのさ」

 これじゃ敵の目を見ないから効かないなんてことはない。

 ピッケルは赤と青の二体になった。

「二人ともウチが倒す」

 玲奈は無茶苦茶なことを言う。二匹あたるようにラーメン鞭を振るが、二人ともジャンプでかわし、赤は剣の攻撃をした。それをよけた玲奈だが、青いピッケルが殴ってきた。吹っ飛びながら歯を食いしばって痛みをこらえる玲奈。

「大丈夫か?」

 俺は玲奈に駆け寄るが、さしのべた手は払われた。

「ライバルがウチを助けないで!」

「玲奈。ただでさえ強いピッケルが、二匹になったのに一人で戦うなんて無茶だぞ」

「無茶でもやってみせる」

「いいや。俺と一緒に戦え」

「若葉は俺と仲間になったんだ。だったら玲奈も俺と仲間だ」

 少々強引なロジックだが、玲奈には一緒に戦うって気持ちになってもらわなきゃ困る。俺が玲奈に合わせて戦っても、怒ってコンビネーションもくそもないだろうから。一緒に戦わなきゃきっと勝てない。

 玲奈は少し考えてから、こう言った。

「仕方がない。今回は敵を倒すために協力する。若葉を助けてくれた借りもあるしね」

「ありがとよ」

 借りとかないと協力できないと面倒だと思いつつ、意志の強さと若葉を大切に思ってるのが伝わってくる。

「行くぞ」

「おう」

 俺のかけ声に玲奈は答えて、俺がポテトソードで赤いピッケルに攻撃すると、赤いピッケルはポテトソードをすくい上げるようにはじき胸を蹴った。その場で尻餅をつく俺だが、高く飛んでナルト手裏剣を赤いピッケルに投げた玲奈は、青いピッケルにラーメン鞭で攻撃した。

「ふ、サポートに回れ」

 青いピッケルにラーメン鞭が斬られたが、ビリーブを高めて再生させて、俺に命令する。

 俺は鼻をこすって玲奈に答えた。

「任せておけ」

 俺は武器をスープマグナムに変えて接近戦の玲奈を後方からサポートする。玲奈は二匹のピッケルにものすごい速さでラーメン鞭を放ち続ける。剣で防いだ赤いピッケルにスープマグナムが手首にあたり、剣を落とした。

「まだだ」

 赤いピッケルは魔法弾を放つが、その手を蹴られ、魔法弾は上空へ飛んでいった。青いピッケルはラーメン鞭をよけたが、剣を玲奈に突き刺そうとするが、上半身を反らしてかわす。そこへ俺がスープマグナムを撃ち、青いピッケルに命中する。

「春馬はサポートの方が向いてるな」

 楽しそうな顔で振り返った玲奈は、すぐに反撃がきたものの、気配で予想済みだった。チャーシューシールドで、迫り来る魔法弾の防ぎ、ビリーブを高めると、押し返して二匹のピッケルに命中させた。

「す、すごいな!」

 俺自身サポート向きなのは理解している。自分が前に出てガンガンいくよりも、全体を見ながらどうすべきかを考えて行動するタイプだから。

 モンスターと戦いだしても、俺の戦いだけでなく、みんなは大丈夫か意識して戦うようにしている。

 赤と青のピッケルは二人の剣を重ね、そこに魔力を集中させた。すると魔法弾は今まで以上の魔力と大きさになり、俺達の方へ飛んでくる。

「かわすよ」

「えっ?」

 魔法弾はかなりのスピードで、玲奈はジャンプで飛び越え、俺は右に飛んでかわした。だが次の瞬間意外な展開にやられた。

「二人を追いかけろ」

 魔法弾は二つに分かれ、玲奈の足と俺の左腕に命中した。

「クッ! 中々やるじゃねえか」

 俺が悔しいがると、玲奈はさらに意外な言葉を漏らす。

「こっちも協力をするよ」

 俺はもちろん頷いた。

「仲間の底力を見せてやろうぜ」

「春馬は仲間じゃない。ライバルよ」

 テンションが上がってきたところで、細かいこだわりみせるなよ。と思いつつも、玲奈らしくて嫌いじゃない。

 二匹のピッケルは魔法弾を撃ちまくった。俺に向かう魔法弾を、ラーメン鞭で防ぎ玲奈は背中を向けたまま語る。

「いつかウチが倒すまでは護ってあげる」

 俺も魔法弾をポテトソードで斬っていくと、自然に玲奈に背中を向ける形になった。そこで格好つけてみる。

「背中任せたぜ」

「ウチが倒すまでやられないでよ」

 首だけ振り返り、玲奈は俺を見た。その顔は言葉とは裏腹に、俺を信頼しているように見えた。

 大量に飛んでくる魔法弾を防ぎながら、ピッケルの方へ向かっていく。二匹のピッケルは大量の魔法弾を防がれてしまい驚き、接近戦になった。俺に剣で攻撃しようとした赤いピッケルに、玲奈はラーメン鞭で腕を攻撃して剣を叩き落とさせる。

「ビリーブクラッシュ」

 ポテトソードにビリーブを集中させて、輝きだしたポテトソードで、思いっきり斬り裂いた。受け止める剣はなく、赤いピッケルは白い光りに包まれてコインになった。

 続いて玲奈は片手でナルト手裏剣を投げ、よけたところを俺はスープマグナムを青いピッケルに命中させた。痛みで一瞬動けなくなった。玲奈はその隙に必殺技を放つ。

「ラーメンスパークルフィニッシュ」

 チャーシュー、ナルト、メンマ、味付け卵が青いピッケルに炸裂し、最後に輝くラーメン鞭で叩きつけた。

 青いピッケルも白い光りに包まれて、コインになった。

 ピッケルを倒した俺達は握手をして、笑顔を交わす。



 俺と玲奈はお店に向かって歩き出した。俺は考えていたことを打ち明ける。

「玲奈。やっぱり俺は玲奈とコラボしたい」

 俺は玲奈と一緒に戦って、何となくじゃなく、切実にそう感じた。呼吸が合うといえばいいのか、玲奈のやろうとしていることが何となくわかる。それに合わせて俺がサポートした結果、ピッケルを倒したが、これは歌でもうまくいくような気がする。

 歌やダンスは決まっていることをしっかりやるのが基本だけど、それでもパフォーマンスを引き立て合うことができそうに思った。

 少なくともMCなら、玲奈に突っ込みを入れれるぜ!

 求められてるかどうかはさておき、俺は玲奈の言葉を待った。

「春馬がそこまで言うならやってもいいけど」

「よっしゃー」

 俺は両手をグッと握って、叫んでいた。無意識にこんなに喜びの声を上げたのは久しぶりだ。玲奈みたいに本気で生きてる人間がそばにいると、刺激的で頑張りがいがあると思う。

 玲奈の声が聞こえていたようで、みんなが俺達の方に駆け寄ってきた。みんな笑顔で喜んでいる。唯一反対した玲奈が賛成したから。

 それに今回の戦闘で、俺達ピュアビリーブと玲奈達スパークルには絆が生まれた。ただの知り合い程度から、一緒に戦った仲間になったんだ。そう考えると会長さんに頼まれた段階よりも、嬉しさは格段にアップしている。

「玲奈も中々素直じゃないんだから。すぐにやるって言えば良かったのに」

 ひなたが肘を玲奈の体にあてながら、酔ったおっさんみたいな口調で話す。玲奈は絡みにくそうな顔になり、きっぱりと言う。

「その代わりひなた以外とな」

「ガーン。そこを何とかお代官様」

 ひなたは玲奈が怒って言った言葉に、ボケを重ねた。眉間にしわができた玲奈の顔を見ずに、ひなたは自分だけが楽しいテンションになっている。ひなた以外のみんながヤバいと思い、これ以上ボケないように止めようとする。

「おだいか」

 ひなたが喋りだして、俺は口を押さえた。せっかくまとまってきたものをぶっ壊す可能性しか見いだせない。

「玲奈。ひなたには後でキツく言っておくから、大目に見てくれないか」

「仕方がない。春馬に免じて許す」

 みんながどっと笑う。

 俺達はお店の方へ歩き出すと、後ろからミシャミシャミシャという聞いたことのない不思議な音がした。

 振り返るとモンスター達が現れるような、ワープゲートにそっくりな白と青の光りが生まれていた。

「なんだろ?」

 結菜が疑問を口にする。みんな同じ気持ちだったが、そこから現れたのは、特殊な宇宙服のような白いスーツに身を包んだ人達だった。

「伏せろ!」

 玲奈の叫び声が辺りに響き渡った。

 そこから現れたのは、三十人は超える人数で、外国語かは理解できないが隊長らしき人が合図をすると、一斉に光線銃を連射してきた。

 玲奈は誰よりも速く気付いていたため、すぐにラーメン武装をした。そして若葉にチャーシューシールドを渡して、ラーメン鞭でものすごい量の銃から放たれる光線をはじいていく。それを見て俺も急いでバーガー武装をする。

 玲奈同様結菜にマフィンシールドを渡して、ポテトソードで光線をはじいていく。

「あいつらなんなのよ!」

 ひなたの悲鳴はもっともな疑問だ。だが相手は狙いを俺達から外さない。俺と玲奈が光線を防いでいるため、相手はバラバラに移動した。

「チッ! 全て防いでみせる」

 半円状にフォーメーションを組んで、光線は防がなきゃいけない範囲が広がった。しかし俺はみんなを護ると硬く決め、勇者としてのレベルアップした自分を信じることにした。

「オリャオリャオリャ」

 ポテトソードを光線に向かって振り回し、防いでいくが叩き落とそうとした光線が、一つ防げずに通過してしまう。すぐに振り返って叫んだ。

「ごめん。防ぎきれなかった」

「バカ。止まるんじゃない!」

 玲奈に怒鳴られ、俺は目の前にきた光線を裁ききれずに、いくつも後ろへ向かわせる。しかし結菜と若葉には、シールドがあるから少しくらいは大丈夫と思った。

 だから振り返らずに、これ以上のミスが出ないようにと、頑張っていた。

「結菜ー!」

 ひなたの叫び声が鼓膜を突き刺した。どうなったのか確認したい気持ちにかられたがグッとこらえた。

「結菜、結菜」

 ひなたの必死な声に、我慢は五秒と持たなかった。振り返ると結菜は青白く輝き、何かとんでもないことが起ころうとしていた。

「どうしたんだ?」

 光線を防ぐことよりも、結菜の異常な状態に驚き、駆け寄ってしまう。

「バカ!」

 玲奈にそう言われてもしょうがない。ただ大切な妹に異変が起ころうとしているときに、そばにいられないなんて耐えられない。

「結菜、結菜-!」

 結菜の肩をつかんで体を揺らすが、苦しそうな表情の中に、俺が来たことで笑顔をにじませた。

「来てくれてありがとう」

「結菜ー」

「いつもお兄ちゃんは、あたしを助けてくれ」

 そこで結菜をの体の輝きは強まり、モザイクのような粒子を生み出した。それが体全体に広がったと思ったら、まるで花火のようにパァッと拡散して、結菜は消えてしまった。

「結菜ー!」

 俺の叫び声をきっかけに、みんなも結菜の名前を叫んだ。しかし俺がミスをしていたことに今更ながらに気付く。

「春馬。いい加減にしろ!」

 玲奈の声で振り返ると、俺達を囲むようにお店の壁から、半円状のあらゆる方向から、光線が迫ってきていた。

 俺はとっさにはじいていくが反応が遅かったのと、数の多さによって防ぎきれなかった。ポテトソードを振る俺自身は護れたが、結菜に続いてみんなが同じように光線が命中して、青白く輝き消えていった。

「この野郎!」

 俺は怒り光線銃を持った奴らに向かっていく。一発食らうだけで消えてしまうが、自分がどうなろうと関係ない。大切な人達がいない場所で、生きてることに意味なんてない。そう思い怒りを爆発させて、一人二人と白い宇宙服のようなスーツを着た人間を斬っていく。

「ゴシャルゴミリタレビ」

 隊長らしき人が語気を荒げて文句を言っているようだ。しかし明らかに日本語じゃない言葉は、俺には理解できずに、俺の頭に血を上らせた。

「みんなをどうした」

 俺が怒鳴るが、異世界人は別の国の言葉を話し理解できない。

「仲間を護れなかった……。やっぱりウチに関わると」

 玲奈が俯き自分を責めたが、俺は玲奈の横に行き、異世界人達を睨みつける。

「今怒りを向けるのは自分にじゃない。あいつらだ」

「そうね。行くよ!」

 俺達は同時に走り出した。


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