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3. 旅の途中

 商業都市ヘイゼルを出てから2日が経った。パンドラの箱は今までの宝箱から、いつの間にか洒落た赤色のトランクケースに変わっている。どうやら、箱の外装はパンドラが箱の中に入れる程度の大きさならある程度パンドラの好きなように変えられるらしい。最初からそうしとけとは言わないでおこう。

「なあパンドラ。一体どこに向かえば良いんだ?」

「災厄が影響してるところには少し近づかないと感知できないから、変わったことがないか何処かの街で話を聞いた方が良いかも。」

「災厄ってそんなにすぐに影響を与えるものなのか?」

「うーんと、魔物に取りつくと凶暴化したり、変化した種類が産まれたりするの。ほかにも、理性が働かなくなって全てを自分の思うままにしたくなったりとか、悪い幻覚で気が狂ったりとかするみたい。」

「ふむふむ。俺は運良く取りつかれなかったってことか。」

珍しく真面目なパンドラに感心しつつ頷くと、パンドラはトランクケースから身を乗り出して続けた。

「カイトみたいに免れる人なんて中々いないんだから、早く回収しないと世界中の人々がおかしくなっちゃう!このままだと世界中に散らばるのも時間の問だ……あっ!」

身を乗り出し過ぎたのか、ふわふわと浮遊するトランクケースから、パンドラが落っこちた。

「危ね!」

慌てて手を伸ばし、パンドラを受け止める。

「全く、世話の焼ける……。」

「あ、ありがとう、カイト。」

そっと地面に下ろしてやると、パンドラはトランクケースに乗るのをやめ、俺の後をとてとてとついてきた。

「重いだろ、俺が持つ。」

そう言って、トランクケースに手を伸ばすと、パンドラは素直にそれを手渡した。本体が赤色で持ち手とベルトが茶色のトランクケースは、暗い色のクロースアーマーを着けた俺が持つと随分と派手に見えた。

「それじゃあ、まずは情報収集に行くか。」

「ここからだとどんなところがあるの?」

「うーん……ここからだと、シスルの森を抜けて、ピスタスにいくのが一番かな?人も多いし。」

ピスタスとは、妖精や小人、そしてエルフが暮らしている森の国にある街だ。ヘイゼルほど賑わってはいないが、美しい景観から、観光地として人気が高い。

「どんなところなの?」

「妖精と小人が住んでる町だよ。すごく綺麗なところなんだ。」

俺の感想を聞いて、パンドラは目を輝かせる。

「本当?見たい見たい!」

まるで観光旅行に来ているかのようにはしゃぐパンドラ。

「まあ、歩いたら一週間はかかるだろうな。森を抜けなくちゃいけないし。」

「遠いねェ。」

「お前は飛べるから良いだろ。」

なかなか長旅になりそうだ、という俺の言葉にパンドラはぶーぶー文句を言っていたがやがて諦めたようで、寒くないようにと買ったモスグリーンのローブを翻して走り出した。


 暫く歩くと、綺麗な小川が流れているのが見えた。

「カイト、少し休憩しようよ。そろそろお昼じゃない?」

懐中時計を見ると、確かに針は午後1時を指している。

「確かにちょうど良さそうだな。川に魚が居れば尚更だ。」

「お魚いるかなぁ。」

川原に立って川の流れに目を凝らすと、数個の影がゆらゆらと動いているのが見えた。

「お、いるいる。」

「やったー!お魚だー!……で、どうやって捕まえるの?」

「この針と糸でできるぞ。」

細い糸とそれに繋がった小さな特徴的な形状の針、そして鉛で出来た錘を見せると、パンドラは目をぱちくりとした。

「そんなのでお魚がとれるの?」

「勿論。」

河原の石の隙間に居た小さな虫を針に付け、水の中に放った。パンドラはつまらなそうに欠伸をしながら見ていたが、糸がピンと張ったところを見て、あっと小さく声を上げた。

「釣竿がなくても釣りはできるんだぞ。」

「へえー。」

スルスルと糸を引き上げていくと、水から揚げられた魚が元気良く尾鰭を動かした。

「すごい!本当に針と糸だけでお魚とれちゃった!」

「中々凄いだろ?」

胸を張ると、パンドラはムッとしたようだ。

「むぅ…私だってお魚捕まえられるもん!」

そう言うや否やパンドラはローブの裾を捲り、左手で押さえながら川に踏み込んでいった。ある程度進んだところで目を閉じ、ゆっくりと深呼吸する。するとパンドラの体を黒いオーラが包んだ。今までは見えなかったが、これが凝集した魔素のようだ。

「え?パンドラさん?」

「《銀色の槍》!」

パンドラの右手に手に冷気を放つ槍が出現した。

「せーのっ!」

明らかにオーバーキルな攻撃が魚を襲い、ズドンと槍が小川に突き立てられる。

「捕れたよ!」

槍を持ち上げ、嬉しそうな顔をするパンドラ。

「パンドラ、まさかこの間言ってたゴブリン達も…」

「勿論、こうやって捕まえてたの!」

内心ゴブリンさん達に合掌せざるを得ない。

「本当に逞しいのな、お前…。」

パンドラはいたずらっ子の様な笑顔でにひひと笑った。


 辺りを回って集めた木切れと絞った紙切れで焚き火をつくる。昼飯は焼き魚と乾燥野菜のスープにすることにした。先が二股に分かれた鉄の棒を2本鞄から取り出し、地面に突き刺した。そして吊るせるように取手のついた鍋を別の棒に吊るし、二股の棒の間に渡す。

「ほへー…。」

パンドラはぽかんと口を開けて見ている。

「どうした?」

「初めて見たよ、こんなの。」

「まあ縁がない奴はとことんないからな。」

まだ口をぱくぱくする魚に一思いに小枝を刺す。そして塩を適当に振りかけ、火の近くに置いた。

「ごーかいだね!」

「的確に頭を狙えるお前も充分豪快且つ繊細だよ。」

パンドラの捕まえた魚を見ると、身には殆ど傷がない。

「えへへ、誉められた。」

パンドラは照れ臭そうに頭を掻いた。


 しばらくすると魚から良い匂いがしてきた。焼き色もついて食べ頃だろう。

「さ、そろそろ魚も焼けたな。」

もうもうと湯気を上げる魚をパンドラに手渡すと、パンドラは鼻を近づかせて少し匂いを嗅いだあと、嬉しそうに口に運んだ。

「ほら、スープも注いでやるからな。ちゃんと全部食べるんだぞ。」

「えー……野菜やだー。」

「魚だけだと栄養が偏るから。」

小さなマグカップにスープを注いでパンドラに渡す。琥珀色のスープの中に橙や黄色の野菜が浮かんでいる様子は、胡椒の香りと相まって食欲をそそる。パンドラにはそうは映らないようだが。

「スープは美味しいのになー。私このオレンジ色の野菜きらい!」

そう言ってパンドラは木のスプーンで掬った人参を口に入れ、あまり咀嚼せずに飲み込んだ。

「良くできました。」

「うー。」

パンドラは唸りながらスープを一口啜り、顔をふにゃりと綻ばせた。

「おいしい。」

「良かったな。じゃあこれを食べ終わったらまた少し歩こう。」

「うん。」

スープを口に運びながら地図を広げる。どうやらこの川沿いに進めばシスルの森に着くらしい。

「まあ、ゆっくり行くか。川沿いなら道にも迷いにくい。」

空を見上げると、雲ひとつない青空が広がっていた。

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