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2. 世界を救う?

 お一人様冒険者だった俺に仲間が出来てから、5日が経った。相変わらず、パンドラは物を知らない。何かあればすぐに「あれは何だ」「これは何だ」と聞いてくる。


 しかも自分の事はあまり口に出さないが、どこで覚えたのか、俺の個人情報を根掘り葉掘り聞いてくる。どうせ俺は独り身だし、恋人が居たこともただの一度もない。


 流石にムカついたので、試しにパンドラについて質問してみることにした。

「なあ、パンドラ。お前には友達とか居ないのか?」

「居ないよ?」

パンドラはやけにあっさりと返事を返した。

「居ないってどういうことだよ、箱系モンスターの友達も居ないのか?」

「うん。モンスターなんて特に近寄らないよ。」

「何で?」

「魔素を濃く持ってる者ほど、災厄を強く感じることが出来るの。だから、魔物から見たら、私は危険物の塊に見えるのよ。」

魔素とはこの世界を構成している要素の1つである。大気中に多少存在する他、生物の体内に蓄積されているものである。魔法という超常現象を起こす媒介にもなるこの魔素を体内に濃く持っているということは、それだけ超常の力を持っているということだ。災厄の感知が出来たところで、何らおかしいことはない。

「そういえば、お前自身が箱を開けるのは大丈夫なんだろ?何で俺が開けたら駄目だったんだよ。」

「カイトだけじゃないよ、災厄は魔素の薄い者に取りつこうとするから飛び出したんだと思う。」

パンドラの言葉に、最悪自分が取りつかれていたかと思い背筋が寒くなる。

「あ、そうだ。言い忘れてたけど、私、箱からあんまり遠くに離れたら死んじゃうから。」

「えっ」

「箱が生命維持装置みたいな物で、まあ、箱系モンスターにはよくあることだよ。」

箱系モンスターの奥の深さに感心する。やはり箱がないと彼らは生きていけないようだ。

「つまり、これからの旅はこれを担いでいかなきゃならねぇってことか?」

「魔法を使っていいなら、浮遊することはできるけど…。」

「あー……。まあ、そこはお前に任せるよ、町の外ではな。」

この5日間で解ったことがある。それはパンドラが本調子ではないとはいえある程度の魔法を使えることである。本人曰く、本調子の時はもっとすごいんだそうだが、魔法なんてからっきしな俺には浮遊したり炎を出したりするだけで充分すごいと思える。

「そういえば、お前って今まで何食ってたんだ?肉が好物みたいだけど。」

「生肉と、焼いた肉と、山菜と……あとお肉かな。」

「大体肉だな。」

「ゴブリンよりホブゴブリンの方がおいしいよ。」

ゴブリンが食肉になる事が驚きだ。

「結構たくましい生活してたのな…。」

「まあね。」

褒めてないが誇らしげに胸を張るパンドラ。

「それじゃあ、あんまり味のついた食べ物は食べてこなかったのか。」

「うん。あ、でも赤いのと黄色いの……。えーと、ボムライス?ってやつは美味しかった!赤いのがしょっぱくて酸っぱくておいしいの!」

パンドラは大きく頷くと、目を輝かせて言った。

「オムライス、な。赤いやつはケチャップ。」

「ねぇカイト、あの赤いのは何で出来てるの?」

「トマトっていう野菜だよ。」

「へぇ……何かの血だと思った。」

お前は人間を何だと思っているんだ、と聞いてみたくなったが、要領を得ない返事が返ってくるだろうと思い、やめておいた。


 しばらく話した後、パンドラが腹が減ったと言うので、食事をとることにした。宿の食堂に入ると、丁度昼だからか、テーブルはほぼ満席だった。

「えーと…ケチャップのやつがいいなあ。」

「曖昧だな。」

「うーんと、じゃあ昨日のオム…オムなんとかにする。」

「ハイハイ、オムライスな。」

パンドラがあまり高いものに手を出さないお陰で、食費は危惧していたほど上がらず、地味に助かっている。

「……ま、最初の頃は俺の飯分けてたしな。俺の食べるものの味から覚えていくか。」

「カイトは何食べるのー?」

「俺は鶏肉のソテーにしようかな。」

注文する時にオムライスと鶏肉のソテーの他にケーキを一つ頼むと、パンドラはニヤニヤとこちらを見てくる。

「またケーキ食べるの?」

「う、うるさいな、好きなんだよ。」

「美味しいとは思うけど、ケーキってお腹いっぱいにならないじゃん。私はもっとこう……たべたー!って感じがするやつの方がいいな。」

あくまでも好みは肉らしい。何度かケーキを食べさせてみたが、パンドラは断固として肉推しだった。


 昼食を食べ終わり、部屋に戻ると、パンドラが珍しく真面目な顔をして、俺に向かい合うように椅子に座った。

「真面目な顔してどうした?」

「これからの事なんだけど…。」

「まだ心配してるのか?ちゃんと探すって。約束しただろう?」

元気付けるように言うが、パンドラはふるふると首を振った。

「違う、違うの。」

「?」

「災厄は、魔素を濃く持ってるほど見たり、感じたり出来るって言ったでしょ?つまり、言い換えると、魔素をあまり持っていない人間には見ることも出来ないし、触れることも出来ないの。それどころか、取り付かれることもある。カイトからは、その魔素がほとんど感じ取れない。」

ふむふむ、と相槌を打ちながら頷くと、パンドラは続けた。

「多くの魔素を取り込まないと、カイトがこれ以上災厄に関わるのは難しいと思うの。……ただ、人間じゃなくなっちゃうかもしれないし、魔素中毒で死んじゃうかもしれない。」

「…そうしないと世界が滅ぶんだし、お前も困るんだろ?だったら答えは一つだろう。」

パンドラは、ぐっと唇を噛んだ。

「ごめんなさい……こんなことに巻き込んじゃって。」

ポロポロと涙を溢しながら、何度も謝罪の言葉を口にするパンドラ。

「気にするな。俺は家出してる身だからな。帰る場所なんて無いし待ってる奴も居ない。」

そこまで言って、ふと騎士を目指していた義理の妹の顔を思い出したが、ふるふると頭を振って紛らわせた。

「カイト?」

「いや、何でもない。」

俺が答えると、パンドラは椅子から立ち上がると両腕を軽く広げて目を閉じた。

「今ありったけの魔素を集めてるから。」

パンドラの髪の毛がふわりふわりと波打つように動き始める。

「一体何をするつもりなんだ、パンドラ?」

パンドラは目を開けると、ゆっくりと座ったままの俺に近づいてきた。

「《魔操術・雫》。」

占い師が水晶玉に手を翳すポーズをとるパンドラの両手の間に黒い粒子が集まり、固まって一粒になる。

「口を開けて。」

「ん。」

口を開けると、パンドラは黒い粒を俺の口の中に垂らした。

「ぐっ…?」

ドロリとした小さな塊を飲み下すと、喉の奥が焼けつくように痛み始める。これが魔素中毒とかいうやつなのだろうか。

「っ……!」

吐き出しそうになるのを堪えて蹲る。

「パン、ドラ…。本当に、これで大丈夫、なんだろうな……?」

「……うん。」

顔を上げると、パンドラが泣きそうな顔をして立っているのが見えた。

「泣くな、よ。また、俺が、泣かせた、みたい、だ。」

「んく……ぐぅ……ううぅぅ……。」

パンドラのしゃくりあげる声を聞きながら、俺はゆっくりと気を失った。


 目を覚ますと部屋は暗く、サイドテーブルに置いてある蝋燭が、ぼんやりと辺りを照らしている。

「あれ、パンドラは……?」

辺りを見回すと、ベッドに突っ伏すようにして、パンドラが眠っていた。どうやら俺をベッドに寝かせて、布団までかけてくれていたらしい。

「お前なりに気を遣ってくれてたんだな。」

俺はそっとパンドラを抱き上げると、ベッドに寝かせ、布団を静かに掛けた。

「俺は椅子で良いか。」

ふう、と溜め息を一つ吐いて、備え付けの椅子に座り、そのまま眠りに就いた。


 次に目を覚ましたのは、翌日の朝だった。昨日の出来事を思い出し、急いで鏡を見てみたが、パッと見ただけでは変化が感じられない。

「本当に、これで大丈夫なのか……?」

変化があるとしたら、若干八重歯が伸びた程度だ。気のせいだろうが。

「んー……。おはよ、カイト……。」

「おぅ、おはよう。」

鏡を覗き込んでいると、パンドラが眠そうに目を擦りながらやって来た。

「カイトー……。ご飯はなぁに?肉?」

「たまには肉以外の物を欲しろよ……。」

俺が溜め息を吐くと、パンドラはぷうと頬を膨らませた。

「肉は最強なんだぞ!」

「いーや、甘いものだね」

俺の反論に、パンドラは心底聞き飽きたと言いたげな顔をする。

「カイトってホントに甘いもの好きだねー。」

「糖分は大事だからな。」

「それでも食べ過ぎだよー。毎日おやつにケーキと、朝はパンにたっぷりジャム塗ってー。」

「好き好きだろ?」

「じゃあ私が肉が好きなのも好き好きで良いじゃん。」

パンドラはますます頬を膨らませる。まるでタコみたいだ。

「……カイト、気分はどう?」

「うん?ああ、悪くない。」

「そっか、よかった。」

「なあ、あまり変わりがわからないんだけど、本当にこれで災厄を感知できるようになるのか?」

パンドラは、うーんと考えたあと、控えめに頷いた。

「た、たぶん……。」

「あの……俺、血を吐く思いで頑張ったんですが。」

「そもそも魔素を取り込ませるのなんて初めてなんだもん…」

ボソッと言ったつもりだろうが、丸聞こえだ。


 朝食を食堂で取ってから、この町を出ることに決めた。必要な物を買いに店に入ると、商人達は皆一様に身を固くした。自警団に連れていかれるところを町の人には見られてるわけだから、当然の反応だろう。

「こんなもんか。」

乾燥野菜や干し肉を選んでいると、パンドラが物珍しそうに俺を見上げていた。

「甘いものは買わなくていいの?」

「ん?まあ、余裕があれば買うけど…。」

財布を開くと、思ったよりもある、といった程度の金がはいっている。

「……。」

今後も金は入り用だろう、と考え、適当な保存食と、氷砂糖を少し買って店を出た。自警団の世話になった奴が町を出ていくのを喜んだのかどうかは知らないが、店主は地味に氷砂糖をサービスしてくれた。


 命の次に大事とも言える甘味を買い込めなかったことで、正直に言うと俺はへこんでいた。

「カイト、どうしたの?」

「これからの旅路を氷砂糖のみで凌がなきゃならないなんて……残酷だ、残酷すぎる……。」

「そんなに甘いものが好きなの?」

「甘味は人生だ!」

熱弁する俺に、パンドラは若干引き気味だが気にしないことにした。

「…あ、そうだ。お前の替えの服ももう少し必要だな、買いにいこう。」

「私はこれでいいよ?」

そう言って、パンドラは自警団の人に買って貰ったという子供服を鞄替わりの箱から取り出して、俺に見せた。勿論、今着ている服は、俺が変な目で見られながら買った藍色のワンピースだ。

「流石に2着は駄目だろ。汚れたときとか、破れたときとかに必要だろうし。」

「うーん、カイトがそう言うなら。」

「好きなの選べよ。……買える範囲でな。」

ということで、また出発が遅れるのであった。


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