不幸な妊婦
――どこかで聞いたことのある感じの子がいた。
ネットの情報って意外と当てになるもんなんだなって
私はその時、実感していた。
人間はウソをつくけど匿名なら本音を教えてくれるって。
『不幸な妊婦』
‘地方のキャバクラなんて人妻のババアとヤンキー上がりの
シングルマザーか芋いブスしかいねぇし行く価値ねぇよ’
クラブみらいに勤め出しても掲示板を見ることは日課にしていた。
もちろん不人気店に入ったばかりのミドリちゃんの話題なんて
上がるはずもなかった。
掲示板に書かれる悪口は大抵、的を射ていて見ていて面白い。
地方のキャバクラは確かに教養も美貌もない人間が大半だ。
特にクラブみらいは救いようがないぐらい底辺だった。
夜慣れしてない私ですらそう思うのだから相当だろう。
掲示板に書かれた言葉を確認するように私はキャストを
観察することにした。
暇な店では安易にできることだった。
まず目を付けたのは19歳のアキちゃんだ。
ガバガバのスーツを着て体系を隠していたが
顔が小さい塩顔の女の子だった。
良く言えば真鍋かをり風。
気が利くらしくそこそこお客さんを持っていて
やる気があり期待されている感じの子だった。
お客さんにもよくモテる感じの子だったが、
可愛いとか美人の部類ではなかった。
しいて言うなら男好きするタイプの子。
私が男だったら簡単に股開きそうな女と評価する感じの子だった。
「ミドリさん」
私の方が入ったのが遅かったが年上だったため彼女は私をそう呼んだ。
気の利く子だから無口な私にもよく話掛けてきた。
更衣室で着替えをしている時、少し異変に気が付いた。
明らかに目立つお腹。
お客さんにスーツのサイズあってないんじゃない?
なんて聞かれて、買ってやるなんて言われていたのを
断っていたことを思い出した。
「私、今5か月なんですよ。だからお酒もダミーかお茶のみ
にしてもらってるんです」
妊娠しているのに夜働くなんてよっぽどの理由なのだろうと
あまりその話題には触れたくなかった反面、掲示板の言葉を
思い出していた。
‘地方のキャバクラなんてシングルマザーか人妻しかいない’
アキちゃんはどちらなのだろうかと。
お腹が目立つ時点でわかってはいたが聞いてみた。
「5か月なのに働いて大丈夫なの?」
「もう安定期なんで大丈夫ですよ」
さすがに理由までは聞けなかったが、アキちゃんは
ぼそぼそとしゃべり始めた。
「実は今、お腹の子の父親と揉めてて
生活費稼ぎためにここで働いてるんですよ。
ずっと同棲してたのに、子供できた途端にこうなっちゃって」
アキちゃんは笑顔だった。
しばらくしてアキちゃんが休みの日に
クラブみらいでキャストがアキちゃんの
悪口で盛り上がっていた。
「アキちゃんって家事も完璧だし、頭もいいのよね。
でも私のお客さんに色目使うから気に入らないわぁ」
「わかる。すぐ客と付き合うし。
妊婦なのによくやるよね」
「でもお腹の子の父親と籍入れるつもりなんでしょ?
どういう神経してんの、あのこ」
アキちゃんはキャストの間では評判が悪かった。
たしかに私にも身に覚えがあった。
アキちゃんは好みの客が来ると接客お構いなしに
色目を使っていた。
それが気に入らないキャストが数名いたことも分かった。
10数名しかいないため悪口の標的は大抵アキちゃんだった。
特に嫌っていたのはアキちゃんを可愛がっていた
ナンバーワンのマミさん。
可愛がっていた分、裏ではだいぶ嫌っていた。
アキちゃんもマミさんを慕って全て話していたらしく
全て筒抜けになっていたようだった。
「あの子、普段男にモテなかったから
ちょっとチヤホヤされて調子に乗ってるのよ
悩み相談されるけど、勘違いしちゃってる感じよ。
そもそも私ですら孕んでる時にセックスなんて
しなかったわよ」
人より大きい声のマミさんの声を横目に掲示板を開く。
‘地方のキャバクラは地雷ばっか’
なんとなくこの世界のことが分かってきた気がした。




