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第1話その5

〈ちょっと何する気? て言うか運転頼みますくらい言いなさい、イオン〉

〈頼みました〉

 フロネシスによるフロートカーの掌握を確認したイオンは、シートベルトを外し、全開にした窓からルーフへと登る。並走していたトラックのドライバーが何事かと目を見開いている。そんなドライバーには一瞥もくれず、彼女はルーフ上でSWHを取り出していた。上を見上げる。直接車両を見る事は出来ない。にも拘らず、彼女が出来ると言ったのは自信があるからではない。飼われていた時の記憶が無意識にそうさせていたのだ。言われた事が出来なければ殴られ、蹴られ、撃たれた。痛みを、恐怖を忘れられていない彼女は頼みと命令の違いも分からずに、ただ頷くだけ。そして彼女は自身を動かすものが、恐怖だと言う事を認識していなかった。

 SWHの出力を最大に、射出口を絞り最少口径にし、貫通力に特化させる。

〈だからって……。ああ、もう! 位置はこっちで調節するから、合図はセオが出して! イオン、しゃがんで踏ん張って〉

 その言葉の直後、位置調節のために車体が揺れる。揺れが収まった事を確認すると、イオンは立ち上がりSHWを頭上に構える。

〈イオン、貴女の視界にガイドを表示するからそれに合わせて〉

 視界に透けた自分の腕が表示される。本物の腕を動かし、そこに合わせる。後はセオからの合図を待つのみ。直後、

〈撃て!〉

 と、セオの声が頭の中で響く。一拍も置かずにトリガーを引く。その動きに、人に当たるかもしれない事への躊躇は、全くなかった。人を殺してはいけないと言う、刷り込まれた中身無き言葉がまた彼女の精神を蝕んでいく。その事に気付くものは、彼女自身も含め誰もいなかった。



                        *



 撃て! と無音の叫びの直後、床から伸びた細い光線がアンドロイドの左腕の二の腕を撃ち抜いた。回路を焼き切られた腕は力無く垂れ下がった。そしてセオの極限にまで研ぎ澄まされた神経は、その腕が落下を始めるよりも早くパルスを全身へ走らせた。絞られ、撃ち出されたエネルギーは右肩を貫通。更に手首を上方向へと軽く捻る事で、肩を半ばまで斬る。

 アイスィは自分が何をされたのか悟った。悟ったが全く理解出来なかった。

 —何故失敗の可能性が高い方法を選んだ? 何故当たると確信しているかのような反応を見せた? 失敗するかもしれないのに、何故見えない相手への銃撃が出来た? それが人間の言う信頼なのか? 何故人間は不可視で不確かなものを信仰するのか。全く合理的ではない。何故誰も彼も合理的な判断が出来ないのだ。アーロンもそうだった。価値を考えれば彼女(・・)と人間のどちらを優先すべきかなど、すぐに分かるはずだ。そもそも生命自体、不当な理由で奪われる事など許されるはずがないのだ。何故こんな当たり前の事が分からない。何故私の邪魔をする。アーロンも、この男も! 何故だ、何故だ!—

 1秒にも満たぬ刹那の中で彼は、回答者のいない問いを何度も繰り返していた。 

「こっちに走れ!」

 セオが人質にされていた男に向かって叫ぶ。男は不整地で走っているかのように何度もつんのめりながらも、何とかセオの後ろまで辿り着く。恐る恐る振り向くと、倒れているアンドロイドが目に入った。肺の空気を全て出し切る程の溜め息を付く。自分は助かったのだ、と実感し、セオの礼を言おうと顔を上げようとすると、突然車両が大きく揺れた。

「うわっはぁ!! こここ今度は何だよ~?!」

 大の大人が涙を流しながら叫ぶが、その様を誰が笑えるだろうか。人質から解放され、心身共に弛み切った直後に不意打ちで起こる異変。

〈フローネ! 車両の速度が可笑しな事になってる。何が起きた?〉

〈アイスィの仕業よ! アンドロイドで始末出来なかったから、車両を脱線させて落とす気だわ〉

 今は直線だが、10分もすればカーブへ差し掛かる。正確な速度は分からないが、ガイドレールを突き破る事は火を見るよりも明らかだ。4本あるレールの内、カーブに対して最も内側を走っているため全てのレールに跨り横転。それだけならばまだしも、もし他の車両が追突すれば相当数の死者が出る。そして止まらずに落下する可能性。どのケースにせよ、相当数の死者が出るだろう。

〈鼬の最後っ屁か! そっちから止められるか?〉

〈ダメ、街全体のネットワークが遮断されてこっちから干渉出来ない!〉

 リニアの運行システムを掌握するには、アイスィの所にある端末を使う以外不可能となっていた。自分の事は疎か、乗客やそれ以外の人をも全く省みぬその所業にセオは戦慄を隠せなかった。カウカーソスの言い分は強ち間違いでもないのかもしれない、とセオは初めてAIに頼りきりのこの状況に危機を覚えた。人間は知らぬ間に、生殺の与奪権を他種族に預けていたのだ。

 しかし今はそれを考えている場合ではない。どうにかして早急に止めなければ、最悪の事態が起きる。思考を高速で展開させていく。

 床を撃ち抜き車両の磁力を喪失させる……。ダメだ、この速度で一部分だけ喪失させたらバランスを崩すだけ。ならば全車両の磁力を喪失させられれば、レールとの摩擦で止められるか?  だがこちらからもフローネも干渉出来ない。……ならばレール側の磁力は……。

 次から次へと現れては消えていく思考の中で、濁流に呑まれずにいるものがあった。

〈……そうだ、変電所だ! レールでも車両でもいい。電力供給を止めるんだ! 場所は?!〉

〈……場所は分かったけど、衛星にアクセス出来ないからこっちの正確な位置情報が分からない〉

 地図情報があっても今走っている場所がどこなのか分からなければ、目的地まで辿り着けない。停車させて確認しようにも、一刻を争う現状ではそれも難しかった。だが少し思考を巡らせれば方法はいくらでも思い付く事が出来た。彼女がそれを出来なかったのは、稼働年数の短さから来る経験不足故の事だった。どことも繋がっていないスタンドアロンを今初めて経験している彼女は、冷静さを欠いていた。



                        *



 車内に戻らずルーフの上で待機していたイオンは、フロネシスとセオの焦りを聞き、行動を起こしていた。感情が酷く希薄な彼女だが、あらゆる事柄に対する知識が圧倒的に不足してるためか好奇心や知識欲と言ったものを人一倍持ち合わせていた。職場から自宅に戻る間、捜査途中の移動など彼女は常に周囲を見ていた。そしてセオやフロネシスに尋ね、知識を得ていた。そんな彼女だからこそ、当たり前の事を口に出していた。

〈オルム通り25-1〉

〈住所! ……現在地確認! ごめんイオン、荒っぽい運転になるからしっかり掴まってて!〉

 ルーフ上でうつ伏せになり、窓のサッシを掴む。冷気に晒され続けた両手の感覚はとうに消失していた。

 セオの荒い運転を咎めたフロネシスだが、彼女の運転はそれ以上に荒々しかった。信号無視しに、歩道走行。クラクションと悲鳴の混声合唱による良心への呵責に耐えながら、速度を緩めず走る。そんな初体験を強制させられているイオンは、表情を引き攣らせていた。次に見られるのがいつか分からない、そんな貴重な表情だった。高速で流れていく景色を見ないように顔を伏せるが、予測出来ない車体の揺れも彼女を引き攣らせるには十分だった。冷気が当たらない分伏せている方がマシだと彼女は考え、冷たいルーフに顔を預けた。どれほど走ったのか彼女には分からないが、一際強く長く揺れると吹き付ける風が弱くなっていた。停車している事を理解した彼女は、硬直したように強張った両手をサッシから外し地面に降りた。

〈イオン、私を持って中に入って〉

 シートに置かれていたセオの手帳をコートのポケットに突っ込み、代わりにSWHをホルダーから取り出す。積もった雪に多少足を取られながらも走り、ガラス張りになっている正面玄関目掛け撃つ。ガラスが粉々に吹き飛び、警報が鳴り響く。運行システムの管理は簡易AIが行っているため、従業員用の休憩スペースと言ったものがなく、構造は1階建ての1部屋と言うとてもシンプルなものだった。が、それゆえ巡回していた警備アンドロイドに、隠れる間もなく早々と見つかってしまう。鎮圧用スタン警棒を構え、イオンの前に立ち塞がった。

「止まりなさい。閉業時間にも拘らず貴女は許可なく立ち入っています。その場で大人しくとま」

 人を遥かに超える思考速度を持つアンドロイドに勝つには、数で圧倒する以外には不意打ちのみ。だからと言う訳ではないが、イオンは警告の言葉に全く反応せずに姿が見えた時点でトリガーを引いていた。胴体を光弾が撃ち抜き、そのすぐ後ろにあったドアも吹き飛ばした。大穴を開けられたアンドロイドは撃たれた衝撃で後ずさり、血の代わりに火花を散らしながらその場で倒れた。

 SWHのバッテリーが空になり、トリガーがロックされていた。空のバッテリーをイジェクトし、新たなものを挿入。インジケーターがMAXを表示した事を確認し、彼女は物言わぬ鉄の亡骸を飛び越え部屋に入る。

 部屋の中央に1つだけの大きな端末、部屋の奥に1つだけの大きなホロスクリーンがあった。ホロスクリーンにはリニアの運行状況が表示されているが、異常はどこにも生じてなく平時と何も変わっていなかった。妨害させないためアイスィがここの簡易AIに誤認識させているのだ。

 手帳からフロネシスがインプットされたチップを取り出し、コンソールのスロットに挿入する。

『OK、掌握完了よ。高々B級AIの欺瞞工作なんて、吐息で吹き飛ぶ綿埃よ! 見つけた! セオ行くわよ』



                        *



〈セオ行くわよ!〉

 イオンの声が聞こえた時、セオは全ての乗客を引き攣れ後尾車両にいた。帰宅ラッシュと被ったものの、4両に纏める事が出来たのは不幸中の幸いだろう。

 不安の籠った視線がセオに集中する。それを感じながらも、払拭出来る術を持たない彼は何も言わずにいた。表情こそ繕っているものの、セオとて不安なのだ。イオン達が間に合わなければ、道路へと真っ逆さま。大勢の死傷者が出るだろう。そして彼も死なずとも、行動不能になる。それは即ち、任務の失敗を意味する。しかし殲滅課に失敗は許されない。全ての事件を圧倒的な武力で解決してきたからこそ、犯罪を未然に防止出来ているのだ。防波堤に罅が入ってしまえば、いつかは決壊する。殲滅課は解決し続けなければならないのだ。

「全員何かに掴まって踏ん張れ!」

 一瞬の浮遊感。そして激しい振動、悲鳴を掻き消す摩擦の音。セオの視界に映る、ガイドレールとの距離を示す数値の減り方は確実に遅くなっている。しかし確実に減っている。300メートルを切った時点で間に合わない事を確信した彼は、立つ事さえ儘ならない揺れの中前の車両へと歩き出した。セオの緩慢な歩みを嗤うように減り続ける距離。100メートルを切り、50メートルを切り、0になった。衝突。衝撃で体が前へと投げ飛ばされる。割れた窓から冷風を吹き込む。そして間髪置かずに新たな衝撃。2つ目のガイドレールも突破。3つ目を突破。これで止まれ、と胸中で叫ぶがまたも願いは届かない。4つ目も破壊し先頭車両が空中へと飛び出す。半ば以上まで出ると、重みで連結部まで一気に落ちる。その衝撃に2両目が一気に引きずられ、宙吊りとなる。そして3両目の半ばでようやく止まる。10秒ほど経ち緊張で止まっていた息を吐き出した直後、再び車体が揺れる。不意打ちの揺れに、精神が弛緩し始めていた乗客はパニックに陥った。他の者を押し退け外に出ようとする者、泣き叫ぶ者、気狂いのように叫ぶ者。

 そんな阿鼻叫喚の状況の中、セオは再び走り出していた。3両目と4両目の車端ダンパの上に立ち、SWHを手に取る。銃口を絞り出力を調節し、トリガーを引く。細い光線がダンパを焼き切る。半分まで達した時、バッテリーが空になる。交換しようと後に下がった直後、3両目も落下し宙吊りとなる。何も掴んでいなかったセオは危うく落ちかける。空のバッテリーが身代わりになったかのように、潰れた窓から落ちていった。

 猶予はもうない。一刻も早く切り離さなければ、全ての車両が落下してしまう。バッテリーの交換を済ませ、残りのダンパを焼き切っていく。焦げた臭いと擦れる音は、とても不快なものだった。残りが3分の1になると、宙吊りの車両の重さでダンパが千切れていく。軽く揺れ落下。下の道路はとうに無人になっており、乗客以外の怪我人は出なかった。しかしレールに車両と、経済的損失は果たしてどれほどになるのだろうか。課長の胃と頭髪に合掌しながら、セオは外に降りた。

〈フローネ、状況は?〉

〈ネットにアクセス出来ないから全体の様子は分からないけど、少なくとも目の前の道路はそっちと関係なく大渋滞してるわ。信号機が全部止まってるみたい〉

〈……足止め、だろうな。たぶん研究所にはロイヤルガードがいるはずだ。花を発見した地点を聞いておくんだったな〉

 しかし先回りしたところで無意味だろう。ロイヤルガードは管理AIを護るだけではなく、AIの本体を収納して安全地点まで移動する役割もあるのだ。つまり先回りしたところで、AERASを着用したアンドロイドと出会うだけなのだ。

〈どうするの? RタイプなんてAERAS着てても厳しい相手よ。生身じゃ死にに行くようなものよ〉

〈……警察署にAERASがあったはずだ。それを使う〉

〈だからAERASがあっても厳しいって言ったでしょ!〉

〈やりようはある。長期間の従軍は伊達じゃないさ。ともかくイオンと一緒に警察署に向かってくれ〉

〈……分かったわ。これが終わったら色々と2人に話す事があるからね!〉

〈分かったよ〉

 最寄りの駅まで走って向かう。ホーム上からの視線を気にする事も無く登る。階段を降り構内を走り、また改札を飛び越える。後ろから聞こえる静止の声を無視し、外に出る。と、辺り一面がフロートカーで埋め尽くされていた。全く変わらぬ事態に業を煮やした者の怒号が飛び交っている。混沌とした状況を横目で見ながら軽く息を整え、再び走り出す。警察署まで距離はあるが泣き言は言ってられなかった。



                        *



 セオが警察署に着いた時、イオンは鼻を赤くしながら外で待っていた。その事に苦言を呈しようと思ったが、息も絶え絶えの彼には行くぞ、の一言が限界だった。いくらホテルへ寄って2つのアタッシュケースを持っていたとしても、自らのそんな体たらくに衰えを実感していた。それもそうだ。彼の年齢はすでに36になる。どれだけ維持しようとしても、劣化の速度を遅くするだけ。彼はそうした衰えを実感するたびに、先の見えぬ人生をまざまざと見せ付けられているような拭えない不安を感じていた。こんな仕事をいつまでも続けられぬ事など彼自身がよく分かっていた。しかし青春の全てを戦争に捧げ、今も戦場に捧げている自分に果たして何が出来るのだろうか。彼の思考はいつもそこに行き着き、それ以上変わらなかった。

 ただ今は少し違っていた。この惑星に着いてすぐに出会ったタクシー運転手との会話を切っ掛けに、自分が少し自虐的になり過ぎていたのではないか、とも思うようになっていた。確かに培った技能を活かせる場所は限られている。だがその場所は何も最前線だけではないのだ。まだ明確なビジョンは見えない。それでも一寸先も分からぬ暗闇ではなくなっていた。

 ドアを潜り抜けると昼間の閑散さが全く見て取れず、席の温まる暇もないと言った様相を呈していた。

「忙しいでしょうが、署長を呼んで下さい」 

 電話対応に追われ全く気に留めていなかったが来客が殲滅課だった事に、受付嬢はまた虚を突かれた表情を見せた。慌てて呼ぼうと立ち上がったが、セオ達の来訪に気付いていたドミニコが小走りでやって来た。その顔には憔悴と焦燥がはっきりと見て取れた。

「これも件の事件と関係があるのかね?」

「あります」

「あれだけ大口を叩いておいて、失敗かね」

「失敗の報告ではありませんよ。少し借りたいものがありまして」

「これだけの惨状を引き起こしておいて、失敗していないと言うか?!」

「それに関しては申し訳のしようもありません」

「…………」

 相も変わらず喧騒に満ち溢れているが、その場だけは静かに張り詰めていた。対応に忙殺されている職員も横目で様子を窺っており、どこか余所余所しい雰囲気となっていた。

「……必要な物は何だ?」

「2人分のAERASとヘリを」

「事態の収拾は可能なのか?」

「市役所で手動にて()を再起動して下さい」

「やはり管理AIが攻撃されたのか?」

「我々が殲滅すべき相手こそ、その管理AIです。詳細は後ほど知らされると思います。それより案内をお願いしてもいいですか?」

「……そこまでの厄ネタだったか。誰か手隙の者はいるか? ……いないか。私が案内しよう。ドム、ヘリの準備をしておけ」



                        *



 

 〈最厳重警備隔離室〉と書かれたプレートのある部屋で、AERASは都市管理AIと同じレベルの警備・管理が行われていた。AERASの特徴は携行火器の類を一切通さぬ硬度を持つ複合装甲、様々な環境でも支障を来す事なく活動出来る呼吸循環システム、と言ったものの他に、サイズさえ合えば誰でも着用可能が挙げられる。もしAERASが犯罪者の手に渡ってしまえば、重火器による飽和攻撃など以外では携行火器による鎮圧が不可能になるのだ。それを防ぐために、現場では最高責任者以外着用許可を出せない、と言った厳重な警備と管理が取られているのだ。

 日替わりのパスコードを打ち込み、声紋・指紋・虹彩・輪郭の4つの生体認証を済ませる。ロックが解除され、音もなく開いていく。徐々に見えて来る内部の光景を見ながら、ドミニコがポツリと呟いた。

「出来れば2度と見たくなかったな……」

 奥行きのある白一色の部屋は、非日常的な警察署の中でも異質な存在感を放っていた。左右の壁の手前と奥に、ハンガーと呼ばれる専用のプラットフォームに戦争の申し子、AERASはあった。惑星の環境に合わせた白い塗装に、この型特有の丸い2つの目。脚部にある炸薬を用いた衝撃緩和機構。

「高高度降下仕様か。お誂え向きだな」

 AERAS様々なタイプのメットが存在している。この型のような2つ目や、スモークバイザーのもの、バイザーガードの付いたものなど。作戦に合わせ柔軟に変更出来る、と言う名目だが、どちらかと言うと多種多様なデザインを作る事で兵士に好みのモノを選ばせ、少しでも心に余裕を持たせようと言う意味合いの方が強い。セオは利用した事はないが、自作のデザインのメットを発注出来る制度もあった。 アタッシュケースを床に置き、ハンガー脇のコンソールに手帳を翳す。

『広域平和維持機構殲滅課セオ・インダーフィルと確認しました。特例法によりロックを解除します』

 ロック解除の音が響いたのはAERASの脇にある、黒い服のようなものが収納されたケースからだった。解除の音を聞いたセオは服を脱ぎ始め、下着1枚となった。ケースの蓋を開け、黒い服を取り出す。アンダースーツと呼ばれるこれは、AERASを運用する上で欠かせない存在だった。アンダースーツにはパワーサポートフレームと言う動作補助機構が内蔵されており、着用者に掛かる負荷に合わせ関節部のモーターが身体能力を数倍から十倍にまで上昇させる。また防弾性や衝撃吸収性にも優れており、製造にコストと時間の掛かるAERASの代わりに装甲を無理矢理括り付けて運用されていた。

 大きく開いた背中側から手足を入れていく。ラバースーツのような着にくさは、新兵の通過儀礼の1つだ。1分以内の着用が出来るようになれば半人前、とよく言われている。難なく手足の挿入を終え、手首のスイッチを押す。開口部の密閉、フレームの硬化、モーターの起動が行われ、アンダースーツの着用は終了する。

 コンソールに手を触れると、AERASの着用シークエンスが開始される。床のレールにそってハンガーが前方へと迫り出し、セオの目前で止まる、次いで反転。ハンガーに上がると、彼は慣れた手付きでメットの後頭部へ手を伸ばし着脱スイッチを押した。頸部装甲が胴体部へ収納され、メットと胴体との接続が解除される。間髪置かずに、人体で言う背骨から足首まで骨に沿うように一気に、左右の端部を軸に開く。メットを脇の台座に置き、先程と同じように手足を差し込み、胴体を押し付けるとセンサーが感知し開口部が自動的に下から順に密閉されていく。AERAS側の衝撃緩衝部に空気が注入され、体との隙間を埋めていく。ズレがない事を確認し、メットを被る。胴体に収納されていた装甲が展開し、接続が完了する。この際長髪であると絡まる場合があり、しっかりと纏めておかないと痛い目を見る事になる。バイザーを下から上に流れる自己診断プログラムを眼で追う。昔ほど読み取れなくなっていた。尤も、読み取れた所で意味などは全く分からないのだが。自己診断プログラムは滞りなく終了。台座に置いてあったSWHを手に取る。バイザーにはNO ARMSの文字。本来であれば火器のグリップを握る事で内蔵されたチップをAERASのFCSが認識し弾数やレクティルなどが表示されるのだが、型落ちであるためかSWHが登録されていないようだった。

 手帳からフロネシスのチップを取り出し、側頭部のスロットに挿入する。

「SWHをFCSに認識させられるか?」

『ちょっと待って。AERASのFCSは拡張性が高いから、大丈夫なはず。……OK、出来たわ』

「ありがとう。イオンの方もやってくれ」

 チップを取り出し、イオンに手渡す。同じサイズであるはずのAERASがセオと比べると小さくなっているのは、着用者に合わせ装甲自体をスライドしサイズを調節しているからだ。そのためあまりにサイズ差があると着用不可能となる。

「アップデートが完了しました」

 その言葉に頷くとセオは足元のアタッシュケースを片方イオンの方へ放る。彼女がしっかりと受け取った事を確認してから、もう一方を開ける。中にはSWH用の拡張ユニットと5個の大容量バッテリーが収められていた。バッテリーを腰部ハードポイントに取り付け、ユニットを取り出す。これと言った特徴のないマシンガンのような形をしているが、何故かトリガー周りが存在していなかった。セオはそれに驚く事もなく、SWHをそのまま差し込む。するとバイザーに表示されていた残弾数が変わる。この拡張ユニットはSWHをトリガーとしているのだ。セオはこれがどう言った意図で製作されたのか知らないが、変わった事を考える奴がいるもんだ、と思っていた。

「準備は出来たな、行くぞ」

 ドアを開ける。壁に寄り掛かって待っていたドミニコが、AERASの姿を見て目を細めた。

「イヤな思い出でも?」

「あの戦争にいい思い出がある奴なんぞいるか」

「確かに……。ヘリの方は?」

「完了している。付いて来い」

 重い足音を響かせ、2人は歩き出した。一般のエレベーターには乗れないため、階段で屋上まで向かう。擦れ違う職員が何事かと目を瞬く。屋上のドアを開けると、タンデムローター式の機体が鎮座していた。

「音の問題があるが、飛び降りるAERASの事を考慮するとこれがベストの機体だ」

「……操縦は誰が?」

 コックピットにはパイロットの姿がなかった。戦中には自動操縦の機体があったが、そんな高価なものをいつ使用するかも分からないような所に配備するとは思えない。ドミニコはセオの問いに何も言わず、歩き出した。そしてそれが答だった。

「……驚いた。貴方がパイロットですか」

「従軍してた頃は輸送部隊のパイロットだったからな。お前さん方みたいなの相手のフライトは慣れてる」

 コックピットに入ったアクセルに続き、2人もハッチから乗り込んでいく。機体が徐々に震え始める。久しく感じていなかった震えに、戦中の事を思い出す。セオも含めた多くの兵士にとって、ヘリコプターと言うのは地獄への渡し舟のような存在だった。往復か片道か途中下船か。自分が持っていたのは、幸運な事に往復切符だった。しかし道半ばで撃墜される事を考えれば、渡し舟よりもっと性質の悪い何かだろう。

 体に掛かる重力が少し強くなった。上昇を開始したからだ。通信が入る。

『目的地はどこだ?』

「研究所です。近くなったらもう一度連絡を」

『了解した』

 窓から見える地上の景色はブレーキランプの赤一色だった。ここまで渋滞してしまっては解消は容易な事ではない。数日の間はこの街は機能不全に陥るだろう。この騒動での死者は幸いな事に出ていない。しかしリニアの暴走では多数の死傷者が出てもおかしくなかった。管理AIがその気になれば、それ以上の死者を出す事も可能なのだ。

〈フローネ。同じAIから見てこの騒動はどう思う?〉

〈そうね……正直言えばおかしな事だらけよ〉

〈それはどう言う事だ?〉

〈私達AIには情緒的な成長を妨げるリミッターがある事は知ってるわよね? 今回の騒動はそれが何らかの要因で働いていない事が発端だと思うんだけど、そもそも働かなくなってるって事自体おかしいのよ。そのリミッターってのは分かりやすく言うと、あくまでイメージ上だけど鎖みたいなものなのよ〉

〈……つまり自分で外す事は無理って事か?〉

〈その通り。でもAIに対して無許可な接触を行えば射殺ものだし、そもそもガードを突破できない。でもAIの内的要因による変化が考えられない以上、外的要因しか有り得ないの〉

〈可能か不可能かは抜きにして考えてみるか。……定期検査時に接触、認識障害を引き起こし接触、製造段階から細工が施されていた、ウィルス感染〉

〈現実味のない案ばかりね〉

〈言ってて思ったさ。ただこの事件、アイスィを止めただけじゃ終わりそうにはないな〉

『もう少しで研究所だ。突入プランは?』

「それをこれから考えるのでここで一旦止まって下さい」

 コックピットへ続くハッチを開け、シートの後ろからキャノピー越しに研究所を視界に収める。

「スキャニング、ズーム」

 プリセットボイス。初期のAERASから搭載されている機能の1つで、複雑な手順を踏まずに様々な機能の起動を目的に開発されたものだ。スキャニングの他にも通信やバイザーの倍率調整やマッピング機能と言った基本的なものが使用出来る。内部にある事から稼働率は極めて高く、前線の兵士からの信頼も厚い。

 スキャニングはサーモや反響などによる索敵を行う機能で、本来であればこの長距離で使用するものではないが、ネットワークが切断されている状況ではフローネによる監視カメラなどのハッキングが不可能となっており、方法が他にないのだ。バイザーを最大望遠にし、視界を研究所で埋める。サーモによる索敵を行うが、距離が離れているせいで鮮明にとはいかなかった。

『こっちで補正してみるわ。……1階のロビーに人質とRタイプがいるわ。1ヶ所に集められてるせいで人質の数は正確には分からないけど、Rタイプは5体よ』

『5体? 1体はリニアの奴でもう1体は……アイスィが逃走に使ってるのか?』

「で、どうするんだ?」

「……高度を上げて屋上を通過して下さい。その後反転しもう一度通過して下さい」

 質問には答えていないが、自分のすべき事が分かればドミニコは構わなかった。

 機体後部へと戻ったセオは手に持っていたSWHの側面にある摘みを捻る。すると銃身が伸長。スナイパーライフルとなる。

 後部ハッチへと向かい、開閉スイッチを押す。冷気が流れ込むが鋼鉄に身を包んだ2人は些事ですらなかった。

 完全に開いた事を確認すると、壁のフックに固定されていたワイヤーを手に取り、片端を自分の胴体に結び付けていく。鋼鉄製のワイヤーならば切れる心配はないが、雑な結び方では解けてしまうためしっかりと結ぶ。何度か引っ張り問題ない事を確認し、もう一方の片端をイオンに投げ渡す。

「オレが落ちないようにしっかりと握っててくれ」

「分かりました」

『屋上を通過するまであと1分だ。何するか分からんが、数秒で通過するぞ。大丈夫なのか?』

「下手に留まったら感付かれる可能性がありますからね。予想外の方法で侵入して予想外の方法で殲滅する必要があるんですよ」

 タラップの端に足を掛ける。動きに淀みはなく淡々としているが、これから行おうとしている事は彼も未経験の事だ。内容を聞けば成功すると思う者はいないだろう。それでも彼に失敗する気は微塵もない。事件解決は殲滅課に求められる唯一にして絶対の要求。

 体を前方へと投げ出す。タラップと水平になる直前で、イオンの手の中で流れるワイヤーを止めさせる。体がぶれないよう全力で突っ張る。それに負けぬよう彼女も全力で引く。

 セオの眼下を景色が高速で流れていく。見た事のない景色だが、何かを思う暇などない。すぐに屋上が視界に入る。認識した瞬間にすでに通過しているような速度の中、彼は只管冷静にトリガーを引いた。床を貫通せぬよう、さりとて浅過ぎぬように大きな円を描く。通過していく屋上に合わせながらのその作業は、芸術的と言ってもよかった。

 彼が作ったのは入口だ。人が踏み付けてビクともしなくとも、AERASが飛び降りれば容易に踏み抜ける。こんな方法を取らざるを得なかったのは、やはり敵がアンドロイドだからだ。着地の音を聞かれれば、いざ入口を作って突入しても迎撃されるのが目に見えている。だから着地と同時に突入する必要があったのだ。

「よし、成功だ」

『お見事よ、セオ』

「アンコールはないからな。イオン、突入後の事だ。頭に入れておくべき事は、相手の意表を突く事、そしてスピーディに片付ける事だ。フローネにサポートさせるが、実際に動くのはお前だ」

「分かりました」

「復唱しろ」

「意表を突く事、スピーディに片付ける事」

「よし。署長さん、旋回お願いします。オレ達が突入した後は待機してて下さい」

『余所者に任すのは癪だが、頼むぞ』

 旋回でふらつかぬように壁面の出っ張りを掴む。

『カウントするぞ。5、4、3、2、1、0!』

 スタートを知らせる号砲が響く。駆け出した2人はタラップの縁を蹴り、空中へと飛び出す。浮遊感を感じる間もなく重力に引かれ、落下が始まる。

 迫り来る地面を見るのはやはり慣れないな…!

 下腹部にヒヤリとしたものを感じながら、サークルの中へ着地、そして間髪入れず再び落下が始まった。

 足元の床の残骸を蹴り飛ばし、スナイパーモードのSWHを構える。バイザーの映像が拡大表示され、こちらを見上げようとする5体のRタイプアンドロイドが映った。先日に見たRタイプのポッドと数が合わないが、1体はリニアで片付けた個体で、もう1体は恐らくアイスィが逃走に使用しているのだろう。理由はどうあれ、数が減っているのはありがたかった。

 ガチリ、とトリガーの引かれる音を指で聞く。セル化されたエネルギーが解放され、加速誘導器に従い獲物に食い付かんと吐き出される。光線は射線上の分子を焼きながら真っ直ぐにRタイプの頭部を貫く。対SWH塗布が施されていなければ、他の部位でさえ数秒しか保たないのだ。バイザーでは耐えられるはずがなかった。制御部位を破壊され、糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちる。

 残り3体。

 既に状況を把握したRタイプは、落下中では身動きが取れずここに着地せざるを得ない、空中からでは動体目標に対する有効射撃は行えない、と言う判断から並んで落ちてくる2人を捕縛するため落下予想地点へと走る。いくら手持ちの武器が鎮圧用のものとは言え、AERAS着用のアンドロイドに押さえ込まれれば抜け出す事はまず不可能だ。

 だかセオの顔に焦りはなかった。それどころか、予想通りに動くRタイプに感謝すらしていた。

 床との距離が5メートルを切った瞬間、彼はイオンを蹴り飛ばし、自身も反動で反対側へと飛ぶ。密集していたRタイプへの挟撃が可能な位置への着地に成功。

 AERASの脚部で炸薬が爆発を起こし着地の衝撃を緩和。薬莢が排出される。体に染み付いた反射で動く敵への照準。マシンガンモードへ切り替えられたSWHからいくつもの光弾が吐き出される。着弾。なす術なく全身を隈なく撃ち抜かれ、不格好な踊りを披露するRタイプ。

 バッテリーが空になり、トリガーにロックが掛かる。

 火花と白煙を上げ崩れ落ちゆくRタイプが突然。セオ目掛け突進。不意の事に反応が遅れながらも、彼はそれを腕でガードした。

 左右の個体を壁とする事で中央にいたRタイプは損傷しながらも破壊を免れていたのだ。視界を塞いだ一瞬の内にセオへと肉薄、タックルと同時に胴体へと組み付く。このまま押し倒せば少なくとも彼の無力化は成功する。だがセオとて歴戦の戦士だ。簡単に倒されはしない。

 Rタイプに完全に組み付かれるまでのほんの僅か、引き伸ばされた刹那の永遠の中での判断。

 銃器を放棄し両手をフリーに。Rタイプの突進力を流すために片足を1歩引き半身になり、同時に両手でRタイプの脇を掴む。体を更に捻り、突進力を殺さずに後方へと投げ飛ばす。反応出来たのが奇跡とも言えるほどの速度で壁へと叩き込まれたRタイプは、胴体の半ばまで壁にめり込む。だが足も床に着き、手も動く。すぐにでも壁を破壊し抜け出すだろう。それに対しセオの取った行動は、攻撃ではなくただ横に1歩動くだけ。目的は射線の確保。動かした視線の先には、膝立ちでSWHを構えるイオンの姿があった。

 叩き込まれた光弾がRタイプの下半身を食い千切る。足が落ち、腕が落ち、Rタイプは動かなくなった。バッテリーをエジェクトし、新たに装填。構える。セオが引きずり出し完全に停止している事を確認するまで、警戒を緩めなかった。

 突入から殲滅までおよそ2分の出来事だった。人質達が分かった事は自分達がどうやら助かった、と言う事だけだった。

「全体の殲滅完了だ。署長、降下して来て下さい。後雑用を頼むようで恐縮ですが、人質達の拘束を解いてあげて下さい。イオン、フローネと一緒にサーバールームへ行ってくれ」

 メモリーチップを抜き取り、投げ渡す。

「分かりました」

『壊されてるんじゃない?』

「サルベージ出来るかもしれない。オレは所長の部屋に行ってみる」

『何しに?』

「シルヴァーノ氏が所長は日誌を付けてるって言ってた。もしかしたら座標が書かれてるかもしれない」


                        *


 アーロンの個人部屋は綺麗に整頓されていた。小物も値の張るものではないが、落ち着いた色合いで統一されており見ていて気持ちがよかった。これからこの部屋を荒らす事を心の中で謝罪する。

 一番初めに目についた机の上にはない。一番下の引き出しに手を掛ける。案の定鍵が掛かっているが、物理的に単純なものであれば(パワー)(サポート)(フレーム)でお陰で開ける事は容易い。少し力を込めただけで留め具が圧し折れる。

 ファイルが敷き詰められた中、黒い革張りの手帳は埋もれずに自己主張していた。当たりである事を願いながら手に取る。

「イオンサーバーはどうだった?」

『物理的にも電子的にも破壊されています。サルベージは難しいかと』

「分かった。署長にヘリを借りる事を伝えて、搭乗しててくれ」

『了解しました』

 その手帳は予想通り日誌だったが仕事以外の事も書いてあり、どちらかと言うと日記に近かった。

 流し読みの中で分かった事は、情熱的な心を持っていると言う事だった。生前に話してみたかったと少し悔やむ。アイスィが出て来る事が多く、好意的に書かれている事からもこの時点では信頼関係があった事が窺える。

 更に読み進めていくとようやく件の花が出て来たが、座標は書かれていなかった。余程興奮していたのか、文字と文章に乱れがあった。

 その興奮は次第に分からない事への剥き出しの闘争心と少しの苛立ちに変わっていく。数ページ飛ばし読み進めると、文章の内容に変化があった。花に関して積極的に関わろうとするアイスィに困惑し、信頼していた相手への自分の感情に苦悩していた。

 ―アイスィが花の調査に言及して来る事は少し前からあった事だが、とうとう中止にしないかと言ってきた。無論私は断ったのだが、彼は更なる説得を試みてきた。今回は強引に話を切り上げたが、これ以上酷くなるようなら製造元にクリーニングを頼んだ方がいいかもしれない。何が原因かは分からないが心配だ。

 ―アイスィからの中止要請は止まなかったが、ある日奇妙な事に気付いた。動植物拘らず、生命に対する調査・研究を止めさせたがっているならば他のチームにも要請しているはずなのだが、それとなく探りを入れたところ干渉すらないと言う。彼が止めたい調査は私のチームだけのようだ。これはひょっとするとプログラム的な問題ではないのかもしれない。私は予てより花は他の生物と何らかの方法でコミュニケーションを取っているのではないかと考えていた。と言うのも、花を採取した後から都市の外縁部に野生動物が異常接近している事が報告されているのだ。1回だけならば何とも思わなかったが、それが毎日ともなれば話は違う。電波を用いたテレパシー染みた手段で取っているのではないかと考えた。そしてもしかしたらアイスィはそれを受信しているのではないだろうか。助けようとしているのだとすれば再三の中止要請も納得がいく。だが彼とてバカではない。危害を加える事はないと言えば納得してくれるはずだ、と思いたいのだがこのところの様子を鑑みるに何かしらの備えは必要だろう。もし持ち出されてしまった時の事を考えて座標を記しておく。+H49E09A61


「イオン、今から言う座標をセットしてくれ。+H49E09A61」

『……入力完了』

「今からそっちに向かう。発進準備を頼む」

『分かりました』

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