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プロローグ

初めまして。

オリジナルSF小説を投稿する事になりました、こんぶと申します。SFと言っても、作者は理系の知識が圧倒的に不足しているのでS(少し)F(不思議)ぐらいの目で見て下さい。

突っ込みどころがあればどんどん指摘して下さい。指摘が来ないと寧ろ寂しいです。

では、少しでも楽しんでいって下さい。

 1999年。予言された恐怖の大王は来ず、新たなる火を携えた〈プロメテウス〉が来訪した。火の神により齎された火、〈テクノロジー()オブ()プロメテウス()〉は人類を進化させ、活動圏を外宇宙にまで広げた。

 彼らとのファーストコンタクトから1世紀以上が経ち、新時代と言う言葉が風化した頃。地球から70光年程離れた銀河系で、〈OT-306〉と名付けられた惑星からエネルギー反応が確認された。人類は自らが初めて発見した生命体の痕跡に沸いた。それが長く苦しい泥沼の戦争へと繫がる罠とも知らずに。

 初めに起こった異常は、その惑星へ赴いた調査団からの救難信号だった。信号を受信した近辺の惑星から救助部隊が派遣される。救難信号発信の理由は、突然発狂した団員による虐殺によるものだった。すぐさま鎮圧され、騒動は治まったかのように思われた。

 事件から半年後、突如〈外惑星連合〉による地球への宣戦布告が行われる。それとほぼ同時に地球への攻撃が開始される。突然の襲撃により各地に甚大な被害を出すも、撃退に成功。外惑星連合とのコンタクトが一切取れないまま1ヶ月が過ぎた時、中国の黒竜江省で住民の大量失踪事件が発生。更に調査に向かった警官隊も連絡が取れなくなる。事態を重く見た中国政府は国軍を派遣する事を決定。その調査により、謎の巨大建造物が確認される。しかし政府はこの存在を異星人由来の物と判断し、技術独占のために隠匿する。そしてこの判断は最悪の結果を招く事となる。

 国軍との一時的に連絡が取れなくなるも、再び取れた時には行方不明者の保護に成功していた。保護された行方不明者は検査の名目で隔離病棟へ移送。建造物は本格的な調査が開始された。プロメテウス由来の物とは違う技術に政府はほくそ笑む。しかし1本の通信がその笑みを凍り付かせる事となった。

「我々は本当の悪魔に目を付けられてしまった。すでに悪魔に取って代わられてしまっているのだ。……私の目の前で、私の友人は恐ろしく醜い生物、いや生物を冒涜するような何かに変貌してしまった。そして私を探している。……ああ! 聞こえる! 濡れた地面を裸足で歩くような音が……! か、影が見える! 生物を冒涜するような形が! 私は、私はあんな風になりたくない!」

 この通信の2時間後。軍と市民による大規模な武装蜂起が発生。声明や要求を一切せず市民を次々と虐殺しながら、中国全土へと被害を広げていった。そしてそれと全く同じ事がカナダ、イギリスで起こっていた。国軍や国連軍による奮闘も虚しく被害は拡大の一途を辿る。しかし戦争が始まるなどと誰も考えていなかった。大規模とは言え、人員も装備も圧倒的に国軍や国連軍の方が勝っていたからだ。だがその認識が容易く崩れ去った。

 1か月ほど経過すると、兵士達の間で不気味な噂が囁かれ始めていた。曰く「殺した人間を見た」「殺された友人が殺しに来た」。勿論どこの国軍も国連軍も信じようとはしなかった。だが、それを噂だと流す事の出来ない国があった。中国だ。噂が蔓延すると政府はすぐさま件の通信を国連へ提出。しかし俄に信じる事が出来ない。検証の名目でこの情報は開示されなかった。そしてそれはまたも惨劇を起こす。

 カナダの首都オタワで大規模な戦闘が発生。1個大隊を投入。誰も油断などしていなかった。兵士が活躍する事など久しくなかったが、それでも練度も士気も高いレベルにあった。そう思っていた。ある兵士からの全滅の報告が入るまでは。

「自分は、カナダ陸軍第1師団第3連隊第1大隊所属、パーシー・オア少尉です。誠に遺憾ながら、我が大隊は自分を残し全滅しました。市民を守れず後悔しかありません。しかしこの報告だけでは我が大隊が無能の集まりになってしまう。だから皆の名誉のために、そしてこれから戦わなくてはならない者達のために何が起きたのか、何故我々が一般人であった彼らに蹂躙されたのかをお見せしようと思います」

 リアルタイムで送られてくるその映像はヘルメットカメラによって撮影されているものだった。どこかの地下駐車場にいる少尉は、血と煤に顔を汚していた。ヘルメットを被る際の移動で周囲が映る。死体が転がっていた。

「おさらばです、此岸の隊長。最後の手柄を立て、私もそちらに合流します」

 外からの衝撃で激しく歪んだシャッターの下を潜り抜け、彼は外に出た。市街の様子も酷いものだった。まともに原形を留めている物が何も無かった。地面は割れ、車は炎上し、建造物は崩壊していた。固唾を飲んで映像を見ていた者達が違和感を覚えた。どこにも死体が無いのだ。

「ご覧になっている方々は、死体が一切無い事にお気付きだろうか。全て奴らが持ち去っていったのです。何のためかはまるで分かりません。ですが、ここ最近囁かれていた幽霊の噂と奴らの正体を鑑みるに、死体を再利用しているのではないかと推測出来ます。……! いました、奴らが本当の敵です」

 約50m先の交差点にいるそれらは人間ではなかった。人が想像する悪魔をもっと醜くしたような、見ているだけで正気を失ってしまいそうな悍ましい化け物だった。知性を欠片も感じさせない姿。しかし驚く事にそれらは、兵士の使う銃火器を手に持っていた。ただ持っている訳ではない。グリップを持ち、トリガーに指を掛けず真っ直ぐに伸ばしている。理解しているのだ。人間と同程度の知能があるのだ。

「残念ながら自分には奴を倒すための装備はありません。しかし、もはやこの身は生きて帰る事は出来ないでしょう。ですから一矢を報いるために、足搔こうと思います。幸い家族はおらず嫁もおりません。今だけはモテなかった自分に感謝したいと思います。彼岸には友人がおりますから、寂しい事もないでしょう。では、人類に幸があらん事を!」

 走り出した少尉に化け物が気付く。手に持つFNブローニング・ハイパワーⅣを構える。そして撃ち出された弾丸は彼の胸を正確に破壊する。カメラは青空を映したまま、動かなくなった。

 その映像や中国からの報告、武装蜂起が起きた地域周辺を衛星などで調査した結果、中国、カナダ、イギリスには謎の建造物が存在している事が判明。それらが地球外物質で作られている事は想像に難くなかった。もはやコミュニケーションの手段を模索する段階ではなかった。〈アウター〉と名付けられたその生物は、姿形が全く見えなくても間違いなく人類の敵だった。同じ轍を踏むまいとこの事はすぐに全世界に公表された。しかしそれはアウターが人間を騙し、社会に入り込む必要を無くしてしまう事となり、本気を出させてしまう結果となる。

 西暦2121年〈アウター戦争〉開戦。

 人類の何倍もの力を持ち、人類には無い技術で造られた武器を使い、死体を再利用するアウターに人類は蹂躙された。特にこの中で厄介だったものは、力でも技術でも無く、死体を再利用することだった。アウターがどの様な技術を用いて死体を動かしているのかは分からなかった。問題なのは生前と全く同じ姿で、人格で、思考で、記憶で人をアウターの理由で殺す事だ。人の姿であれば、容易く軍基地にも入り込めた。容易く家族に入り込めた。だからこそ人は勝つために、人を人たらしめているありとあらゆるモノを捨てた。人類を守るために、人を犠牲にしたのだ。

 人は3度の兵役があると言われる。1度目は一般市民から兵士へ。2度目は生身から義体へ。3度目は義体から生体CPUへ。老若男女、一切関係無かった。皮肉な事に滅亡の瀬戸際に立たされ、人類は漸く真の男女平等を達成したのだ。

 生まれて来る命でさえ、戦うための道具となった。遺伝子調整を施し、早ければ10代前半で戦場に送られた。

 だが、これだけやっても人類は劣勢を覆す事は出来なかった。

 多くの人が祖国を失い、多くの人が死んだ。開戦から50年、地球の人口は30億を切っていた。

 外惑星連合からの救援は来なかった。彼らが敵だからでは無い。彼らもまたアウターを戦っていたのだ。


                    *


 戦争は西暦2225年に終結する。100年以上続いたこの戦争で、いくつもの国家が消滅し人類はその数を10億人にまで減らした。

 勝利と言うにはあまりに傷が深過ぎた。この傷を癒すために人々は手を取り合おうと言った。本気だった。本気で手を取り合っていた。火種を見て見ぬふりをして。しかし5年も経てば、それは十分な大きさになっていた。難民問題や食糧問題、新たな国境線に関しての衝突。「ようやく戦争が出来るまでに回復した」と言う皮肉が流行った。

 しかしそんな皮肉が効くのも一部の国だけだ。未だ多くの国が疲弊し、失業者や餓死者を出していた。かつては大国と言われた国でさえ、それは変わらなかった。

 こうした状況は様々な問題を引き起こしていた。中でも悪化の一途を辿っていたのは、犯罪の凶悪化だ。疲弊した国では、強者と弱者の差が顕著になる。そして強者になるにはまともな手段では不可能だった。費用削減のために軍を追い出され、差別により社会から排斥された元義体兵士が手を染めている事も悪化の一因だ。

 元々は戦闘目的の技術ではなかったのだ。だが、いつの時代も人道目的で開発された技術は、容易くその道を外れてしまうのだ。

 彼らに使用されている技術は全て、実体を持たない情報生命体―彼らが人類に分かりやすいように当て嵌めた―と言う特異な生物であるプロメテウスが、他の知的生命体と接触する際に用いる専用インターフェースから得られたものだ。そのインターフェースは彼らが中に入り込む事で動くロボットのようなものなのだが、驚くべき事に筋肉や骨格に内臓などを全て機械で再現しているのだ。挙句の果てには食事はおろか性行為さえ再現されていた。この技術は医療界に激震を走らせた。ドナーを待つ重い内臓疾患を持つ者や四肢を欠損した者に希望を与えた。

 これを捻じ曲げたのはやはり戦争だった。四肢を欠損した兵士に銃器を仕込んだ義肢を。失明した者に多機能義眼を。パイロットには耐G性能に優れた内臓や血管を。偵察兵にはブレインインプラントを。この義体兵士はⅠ型と呼称される。

 そして戦争はその技術を進化させていき、やがて戦闘用に作られた鋼鉄の人形へ脳を移植する技術が確立される。鉄を砕く腕と脚。電波さえ識別できる目。砲弾でさえ破壊できぬ体。命を感じさせない姿。彼らはⅡ型と呼称された。

 このⅡ型こそ人々を恐れさせる要因。これこそが義体兵士が社会から排斥されてしまった要因。ただ破壊する事を目的に造られた物の造形は、人々に恐怖しか与えなかった。

 自らの体を捨て血の通わぬ鋼鉄の体へ乗り換え、何度も撃たれ壊され散りながら、それでも戦い続けた彼らに対する人々の仕打ちはあまりに残酷なものだった。終戦直後の混乱から抜け出せなかった各国は、この問題に対する対応を遅らせてしまった。1年が経過した後に、統一連合―国連と外連からなる機関。月に本部を持つ―により〈戦傷者社会復帰支援法〉が可決される。支援法に則り、メンタルケアなどを行う〈戦傷者社会復帰支援センター〉をWHOが開設。これにより義体兵士の約3割がPTSDなどの精神的な傷を負っている事が判明。この内、戦後に社会復帰し精神病を患ったのは4割にまで上る。

 彼らに対する治療は困難を極めた。彼らが精神を病んでしまった原因は、人々の言われない誹謗中傷だけではない。彼ら自身が馴染めなかったのだ。戦場で居場所を見つけてしまった者は、戦場以外での生き方が分からなくなっていた。多くの同胞を失いながら、渇望したはずの平和は彼らを受け入れず、また彼らも受け入れられなかった。そして理想と現実のギャップに磨り潰されていった彼らは、心地良い血と硝煙の世界に戻ってしまう。

 この事態を重く見た統一連合により、凶悪犯罪の撲滅と元義体兵士の雇用先確保のため〈広域平和維持機構〉が設立される。統一連合に裏打ちされた独自の権限と、莫大な予算と、豊富な人材により活動を行う彼らは、しかし救世主とはならなかった。あまりに過激過ぎたのだ。彼らは逃走した犯人を追うために市民から車を徴収し、追い詰めるために障害を破壊し、動きを止めるために手足を撃ち抜いた。その事実がメディアで取り上げられようとも、彼らはそのスタンスを変えなかった。

 平和維持機構とは名ばかりの荒くれ者集団を、人々は侮蔑と畏怖を込めてこう呼んだ。

〈殲滅課〉と。


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