6話「獣化と人化」
俺らは無の森を抜け、平野へと出た。
ヒアに聞いてみると今いるのはあの村とは反対方向の平野らしい。
俺は平野を見渡し、呟いた。
「広いな~」
見渡す限り広がる緑色の草。
地平線まで背の高い草も木もない。
見渡す限りの大草原だ。
これはこれで趣というか、風情というか、え~っと…………いい景色だ。
俺がこの景色に感動して突っ立っていると急に目の前に顔が現れた。
「ねぇ、どうしたの~?」
「うわっ! ってミリーか。驚かすなよな」
ミリーが両手を後ろで組み、前屈みになって下から俺の顔を覗きこむ。
くっ、いちいち可愛い仕草とりやがって……ごっつぁんです!
俺はその姿をたんまりと堪能した後、すまんな。もう行くか、と言って歩きだす。
と、少し歩いてヒアがついてきていないことに気づいた。
俺は立ち止まり、後ろを向いて突っ立っているヒアに声をかける。
「お~い、どうした? 早く行かないと野宿になるぞ」
「……うん。今行く」
そう言うとヒアは四つん這いになる。今は上半身にしか服を着ていないため尻が生で突き出てエロイ。
俺は困惑する。
「え~っと、ヒアさん? なにをしているんですか?」
そう思ったら脳内にアナウンスのような感じで無機質な声が響いた。
【ヒアの獣化を許可しますか?】
(なんだこれ?)
俺が疑問に思いヒアを見ると、お願いします、とでも言うような眼差しで見つめられた。
俺はヒアを信じて、許可する、と心の中で言った。
すると、ヒアは黒い靄に包まれた。
ミリーが、え? え? と驚いているが俺は気にせずヒアを見守る。
ヒアが言ったことだ。俺は信じる。
なんか今日で妙に信頼するようになったな。
俺が苦笑していると、黒い靄が膨張したと思ったら空中に霧散した。
あとに残ったのはヒアが人化する前の黒豹。
俺は呆然とその様子を眺めていた。
そして、おいおい、とため息をついて一言。
「服はどこだよ……」
うん、まずそっちの心配だよ。
だって獣が人になったんだぞ。ならその逆も十分ありえる。
それが分かっていれば、心配するのは自然と服のことになる。
俺がため息混じりにそう呟くとまた無機質な声が脳内に響いた。
【ヒアの人化を許可しますか?】
(なんでまた戻るんだよ……)
なんかもうやけになって、許可する、と心の中で呟いた。
そしてまたヒアは黒い靄に包まれた。
ミリーは何がなんだか分からなくて俺の腕にしがみついてくる。怖がってるのか猫耳が半ばから折れてるのが萌えるな。
次第に靄は晴れていく。
靄があった場所には先ほどと全く同じ格好をしたヒアが立っていた。
「……服、大丈夫」
「ああ、そうか」
返事をするのも億劫になってきた。
俺は一体いつまでこの現実から目を背けなければならないんだ。せめて人と出会ってこの世界のこと聞いてからにしてくれよ。
と、また脳内にあの声が……
【ヒアの獣化を(以下略)】
今俺たちは黒豹となったヒアの背中に乗って見渡す限りの大草原を駆けている。凄まじい速さなので風圧がすごい。
ヒアは黒豹になってもちゃんと自我があるようだ。喋れはしないが。
喋るときはミリーに通訳してもらっている。
ミリーは俺の後ろで俺にガッチリ掴まって振り落とされないようにしている。俺も落とされそうで怖いのだが……
それにしてもすごいスピードだな。時速百kmは出ているんじゃないか?
俺は風で声がかき消されないように大声で聞く。
「お前は何者なんだ?!」
ちゃんと聞こえたようでヒアはこれまた大きな声で鳴いた。
俺は首だけ後ろを向かせ、ミリーが通訳するのを待つ。
ミリーは、え? と言った顔になって通訳する。
「えっとね、『私は『こくひょう』っていう魔物らしい。前に出会った人間がそう言いながら襲い掛かってきた』だって」
俺は途中聞き取れないところもあったが前後の言葉で理解した。
へ~、黒豹っていう魔物なんだ……って魔物?!
魔物ってあれだよな。動物が魔力的なのを含んで凶暴になったやつ。ファンタジー小説では絶対と言うほど出てくるもの。
これはもう認めるしかないな。
ここは異世界だと。
まあ、薄々感じてはいたよ? あんなでかい黒豹いるわけがないし、無の森なんて聞いたことないし、マスルル王国なんて国名聞いた事ないし…………結構判断する材料あったじゃねぇか。
ま、今はそれが分かっただけで十分か。
なんたって今の俺の頭の中にはつい最近読んだ異世界物の小説が入っているのだから!
ふふふ、今は全く情報がないからな。あの小説のように行けばなんとかなるかもしれん。
俺が心の中でこれからの計画を立てながら薄ら笑いを浮かべていると遠くに白い壁が見えてきた。
「お! あれはまさに城壁じゃないか!?」
テンション上がってきた~!
さて、まずはあれだ。『冒険者ギルド』なるものに登録しなければならない。
あそこで『ギルドカード』をもらって身分証をゲットする。ギルドカード=身分証らしいからな。(俺が読んだ小説では)
俺がそんなことを考えていると、ヒアが徐々に減速して、止まってしまった。
「どうした?」
俺がそう尋ねると、
【ヒアの人化を許可しますか?】
と脳内に無機質な声が響いた。
なにか分からないがとりあえず、降ろして、と言い降ろしてもらってから許可を出した。
靄がヒアを包み、晴れると人になったヒアが現れる。
「……魔物、町に入れないから……」
申し訳なさそうに俺に言うヒアはわずかに表情を曇らせる。
いや、美少女にそんな顔されると俺が悪いように思えるから。
俺は慌てて手を振って答える。
「いやいや! 大丈夫だよ。そうか、忘れてたけどヒアは魔物だったもんね。そんじゃここからは歩いて行きますか」
俺らはまだポツリとしか見えない城壁へと向かって歩きだした。
ミリーは相変わらず俺の右腕に掴まっている。いや、これはしがみついているな。
少々歩きづらいが、嫌ではないので特に何も言わない。ついでに猫耳も触らせてもらう。きもちええな~。
ヒアは秘部が見えない程度の長さの服が風に揺らされながら俺を見ている。いや、ちゃんと押さえましょうよ。その見えるか見えないかのチラリズムは核兵器ですよ。
「あの~、ヒアさん。服を抑えて歩いてください」
「……なんで?」
ヒアは首をコテンと横に傾けて俺に聞く。
俺は気づいた。このコンボはいけない。
見えそうで見えないチラリズム。風でふわりふわりと揺れるが絶対に露にならない秘部。
そして首をコテンと傾ける。王道だが……王道だからこそ可愛いと誰もが思う美少女がやるとそっちにも目を奪われる。
結果として今まで凝視していたところからそちらにも目を奪われる。そして両方を見ようと欲張り、目を回す。
首をかしげる動作とチラリズム。まさかこれが合わさるとこんな悲劇を起こすとは……
俺はフラッと倒れそうになったがミリーが抱きついているので倒れずにすんだ。
……って何考えてんだ俺は。ヒアが思った以上に可愛くて頭がオーバーヒートしたか。俺の頭容量悪すぎだろ!
と、質問返さないと。
「え~っとな、大事なところが見えてしまうからね」
「……これ?」
そう言うとヒアは服の裾をつまんで‘上げた’。
そう上げたのだ。つまり…………
「ぶほぁ!!!!!!」
あ、興奮が過ぎると鼻血出るって本当なんだ。
俺はあまりの衝撃に気絶した。
めっちゃ更新遅れてしまい申し訳ないですm(_ _)m
最近は「金でry」の執筆に追われてて……
ちょくちょく更新しようと思ってますが、さすがに毎日はきついので御勘弁を……
感想・アドバイスお待ちしておりますm(_ _)m
なお、感想がくるとエンジンかかります(*^-^)