4話「優しい?黒豹」
目を覚ました。
俺は空腹で今にも倒れそうな体に鞭打って上体を起こす。
ここはどこだ?
まず起き上がって見た感想がこれだ。
俺が今いるところは洞窟の中だ。
洞窟と言っても奥行きが十mほどしかない。
そして、俺の座っているところには草が敷き詰められており、柔らかいクッションのようになっていた。膝には白く、なめされた毛皮が乗っかっており、俺は不思議に思った。
俺はあのとき黒豹に会ってそのまま倒れて……
と、そのとき洞窟の入り口から入ってくる光が一部遮断された。
見るとそこにはあの黒豹がいた。
俺は一瞬逃げそうになったが、考えを改めた。
もしかしてこいつに助けられたのか?
いろいろ思案しようにも栄養がないため頭が回らない。
俺は座った状態で警戒心など微塵も見せずに口を開いた。
「なぁ、俺たちを助けてくれたのってお前か?」
俺が優しくそう語りかけると黒豹は首を縦に振る。
なぜか黒豹の目には警戒心とか敵として見てるとかそういうのがなかった。
あの村人たちに向けられたような雰囲気も感じない。むしろ好意的にさえ思う。
黒豹は俺に近づいてくる。近くで見るとでかいな。体長は約四mはあろうかという巨体で、背中までの高さは優に二mを越している。迫力満点だ。
黒豹は頭の先から爪、尻尾の先まで真っ黒だった。しかし、真っ黒というのに不快感などは全くなく、逆にこの鮮やかな毛並みは好感を覚えた。
黒豹は俺の隣に来るとクルリと反転して俺と同じ方向を向く。
そして両足を曲げて伏せのような形になる。
…………え?
これはどういうことだろうか? 俺の知っている知識ではこれは撫でてくれみたいなことだと思う。
いや、でもここで撫でてもいいのだろうか? 下手のことして刺激したら簡単に殺されそうだ。
俺がどうするか云々唸っていると黒豹は頭を上げた。
俺は、やっべ、と思いながらどうするか考えた。が、何も思いつかない。
そして黒豹は俺の顔に自分の顔を近づける。
やばい! まさか食われるのか?!
俺がギュッと目を瞑ると、
ベロリ
頬がザラザラとした、それでいて生暖かいなにかに舐められた。
俺は目を開ける。
黒豹は俺が目を開けたのを見ると頭を下げて俺に出す。
うん、これは絶対撫でてくれってことだろう。
俺はおそるおそる黒豹の頭に手を伸ばした。
そして手が触れる。
「ふあぁ、気持ちいいな」
俺は思わず声に出した。
見るからに美しいと思っていた毛は触り心地も最高のものだった。
俺がその感触を楽しみながら撫でていると黒豹が鳴いた。
俺は一瞬ビクッとしたが、顔を見ると気持ちよさそうにしていたので大丈夫だろうと思い撫で続けた。
俺は空腹も忘れてその触り心地の虜になっていた。いや、やっぱり空腹には勝てなかった。しばらく撫でているとクラッと来て手をつく。
黒豹は俺が倒れそうになるのを見て立ち上がり、外へと出て行った。
俺は空腹で倒れそうになるも気力でなんとか意識を保った。
次寝たらもう起きれないような気がしたからだ。
そんな意識の中、すぐに黒豹は帰ってきた。
その大きな口にはたくさんの果実と思われるものが入っていた。
黒豹は俺の前まで来ると口の中の物をペッと吐き出した。
俺は朦朧とする意識の中それを手にとった。
黒豹の唾液かなにか分からないが少しベタベタする。
だが、そんなこと気にしていられないほどの空腹だった俺はそれにかぶりついた。
味わう暇もなく、ただただ空腹を満たすためだけに果実を胃に送る。
果実は全部で四つあったが、それら全てすぐに食べ尽くした。
全て食べた俺は強烈な眠気に襲われて倒れるように寝てしまった。
俺は頬がなにかに舐められるような感触を受けて起きた。
目を開けるとミリーと黒豹がドアップで映る。
俺が目を開けるのを確認したミリーと黒豹は顔を舐めるのを止めて顔を離した。
俺はゆっくりと上体を起こす。
そしてボーっとしていた意識がだんだんはっきりとしていく。
「俺生きてるんだよな……」
ボソッと呟いたその言葉はミリーと黒豹に聞こえたようでうんうんと頷いている。
すると、頬になにかが伝うのを感じた。
「もう、勇太は大げさニャんだから。ニャくことニャいのに」
ミリーがそう言いながら俺の頬をペロッと舐める。
舐めた瞬間、しょっぱい、と聞こえた。
そうか、俺泣いてるのか。
確かにあの空腹で過ごした三日、そしてここで目覚めたあのときは地獄だった。
どんなに探しても食料が見つからない。動物どころか虫さえいない。
最悪木を食べようかと思っても削ることも出来ない。
まさに絶望的だった。
だが今、意識がはっきりして起き上がれることが、生きていることが嬉しい。
俺は自然と涙が溢れてきた。
は~、なんかすっきりした。
俺は今、ミリーが持ってきてくれたりんごのようなものを食べている。
黒豹は俺にぴったりくっついて離れない。まあ、あったかいし気持ちいいからいいけど。
ミリーは黒豹とは反対側で俺の腕をがっちりホールドしていた。相変わらず頬を俺の肩にこすりつけて……全く、つい最近死にそうになってたのに元気なやつだな。
こんな感じで俺は今黒豹と猫耳美少女に挟まれながらの食事をしている。
俺はりんごを食べ終わると話しを切り出した。
「なあ、お前。お前が助けてくれたんだろ? ありがとう!」
俺は黒豹に向き直り頭を下げる。
ミリーも俺をまねて頭を下げる。
だが、黒豹はなにを間違えたのか俺の頭に手を乗せてきた。
俺はそのでかい手に押し潰されそうになったところで慌てて手をどかしてくれた。冗談じゃなく死ぬかと思った……
イテテ、と顔を上げると黒豹が申し訳なさそうな顔で俺を見ていた。
「まあ、気にすんなって。それよりここはどこだ?」
俺は手を振って、別にいいよ、と伝えると周りを見て独り言のように呟いた。
奥行きが十mくらいしかないな。でも、横幅も天井もなかなか広く結構良い感じの洞窟じゃないか。
外は相変わらずの森がある。
と、外に視線を向けたところで黒豹が鳴いた。
「え? な、なに?」
俺は少しびびりながら黒豹を見た。
するとミリーが通訳した。
「えっとね、『なんで‘無の森’を歩いていたの?』って言ってるニャ」
「え? お前言葉分かるのか?」
「うん! ニャんかね分かるのニャ」
そう言ってミリーは、褒めて褒めて~、とこちらを見ている。
俺はミリーの頭を撫でてやる。猫耳がふにゃんとして気持ちよさそうだ。
俺は黒豹の質問に答える。
「村を追い出されたんだよ。てか無の森ってなに?」
黒豹は、え? と言った感じに驚いた。黒豹だけど表情豊かだな。
そして俺の質問に答えるように鳴いた。
「ニャに? 『え? 知らないの? 無の森は生き物がいない森って言うので有名なのよ』だって」
へ~、確かに虫どころか草でさえ生えていなかったもんな。しかも木はこれでもかと硬くてまるで石かなにかで出来てるようだったし。
って今気づいたけどミリー普通に『な』をちゃんと発音出来てるじゃないか。
俺がそのことを言うと、だってこっちのほうが勇太は喜ぶニャ、と言い出した。確かに可愛くてよろこ……ゴホン、俺はすぐに止めさせた。
とりあえず俺はこの黒豹に聞きたいことをたくさん尋ねた。
感想・アドバイスお待ちしておりますm(_ _)m