3話「嫌われ者」
今俺たちは森を彷徨っている。
さっきから同じ場所を何回も通っているのは気のせいだろうか?
うん、気のせいだ。てかそんなとこまで頭が回らない。
今俺の心は暴走寸前まで来ていた。
原因はミリーだ。
「えへへ~、また勇太と一緒に居れるニャ~」
顔をにへらとだらしなくさせて、俺の腕に抱きついて来る。
そう抱きついてきているのだ。
ミリーのG級のものが俺の腕に当たる。いや、包み込まれる!
コートは皮製で分厚いものだったのだが、ミリーが着ると胸の部分が押し上げられているのだ。
生の感触は伝わらないが、温もりは伝わってくる。ゴワゴワした感触というのが悔やまれる。生の感触が味わえなくて残念だゴホン!
とにかく俺はこの状況に平常心を保てていない。いや、なんとか表面上には出さないでいるが、もうやばい。
あれだ、上では優雅に泳いでいるように見える水鳥でも水面下では激しいやつと同じだ。
そんな感じで常時心が乱れている俺は周りを気にすることも出来ずに森を彷徨っている。
俺は気を紛らわすためにミリーに話しかけた。
「な、なあミリー。お前は猫だった頃の記憶もしっかりしているのか?」
「ニャ? ミリーはミリーニャ。しっかりしているニャ」
ミリーは首を斜め十五度くらいに傾けキョトンとした顔になる。クソ、可愛くてまともに顔を見れない。見たら多分暴走する。
俺はミリーの顔を見ないように前を向いたまま続ける。
「マジか……どんなことを覚えているか試しに聞かせてくれないか?」
「分かったニャ。え~っと、そういえば勇太は毎日おかしいくらいにミリーを追い出す時があったニャ。こっそり覗いているとここを握ってゴシゴシしていたニャ」
と言ってミリーは俺の‘あれ’に手を伸ばしてきた。
俺は慌てて飛びのこうとしたが腕をガッチリホールドされていて逃げることは出来なかった。
仕方なく俺はミリーの手首を握って止める。
ミリーはまたもキョトンとした顔になって続ける。
「ニャ? 確かにここをゴシゴシしてしばらくするとティッシュ? っていうやつをかぶせて……」
「もう止めて! それがなにか知ってて言ってるんじゃないよね?!」
「も、もちろんニャ。ミリーはニャにをしているのか気にニャったけどよく分からなかったニャ。でもそれをした後の勇太は満足そうにしてたニャ」
俺は頭を抱え、うわぁぁぁああ、と呻く。片手は掴まれているので片手でやっている。
今ミリーは超絶美少女ということもあり、意味を知らなくてもそんなことを言われるのは精神的に大ダメージだ。
気を紛らわせて心を落ち着かせようとやったことが、逆に心を乱す結果になってしまった。
俺は精神に多大なダメージを負ったまま歩き続けた。
時間が過ぎ、夕暮れ時になった。
こちらの世界も太陽はちゃんとあるようで、地球と同じように空がオレンジ色に染まる。
そんな中、俺らは二人とも腹を鳴らして歩いていた。ミリーにいたっては俺にもたれかかってくる始末だ。
そして、そんな状態でもう休もうかと考えていると木がない場所に出た。
「森を……抜けた?」
俺は碌に前を見ずにただただまっすぐ歩いていたので森を出た事に気づかなかった。
土から草へと地面が変わったことで初めて顔を上げた。
すると、一面に広がる草原。青々とした草が生え茂り、風に揺られてゆらゆらと揺れている。
そして、少し遠くを見ると人工物が見えた。
そう、あれは完全に‘家’だ。
「おい、ミリー! 森を抜けたぞ! しかも村がある!」
「ニャ……ご飯食べれるかニャ?」
ミリーはかなりお腹が減っているのか、もう頭の中にはご飯のことしかないようだ。
俺は、ああ食べれるぞ、と言うと今までフニャってた猫耳がピクッと動いてムクッと起き上がった。面白いなこれ。
触ろうかと思ったが、そんなことよりも村で食べ物をもらうことを優先した。
お金を持っていないが、最悪雑用でもしてパンの一個でももらえたらいいな、と楽観的な考えで村へと向かう。
俺とミリーは無言で一心不乱に歩く。食欲とはすごいものだな。
村へとついた。
周りは一mほどの柵で囲われており、飛び越えるのはちょっと難しそうだ(そんなことしないけど)
俺は柵に沿って歩き、村の入り口みたいなところを見つけた。
俺はそこから村の中に入る。
村はあまり統率はとれていなく、ところどころに好きなように家が並んでいた。その周りには畑と思わしいものがある。
畑があり、家と家の間はなかなかの広さがあった。
俺は村を練り歩く。とにかく誰かに会って食べ物を恵んでほしい。
早く出てきてくれ。そう願いながら歩くことしばらく。第一村人が出現した。
村人は俺を見ると見るからに警戒心をむき出しにして俺を見る。
え? 俺怪しく見える?
俺の今の服装は、コートを脱いだため上下ジャージだ。いや、ちょっと外に出るだけのつもりだったし。
俺は村人に近寄る。ミリーは相変わらず俺にもたれかかるようにしがみついている。
俺がある程度近づくと村人は叫ぶ。
「近づくな! 何のようだ!」
俺は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたと思う。
しばらく放心状態にいると、周りにはいつの間にか村人が集まっていた。さっきの叫び声を聞いて来たみたいだ。
我に戻った俺は全員に聞こえるよう話し掛けた。
「すいません。森で遭難してしまい食べ物が尽きてしまったのです。食べ物を恵んでくださいませんか?」
そう言って俺が頭を下げると信じられない言葉が返ってきた。
「知るか! とっとと村から出て行きやがれ!」
「そうだ! お前からは嫌な雰囲気が漂ってくる!」
「お前が村にいて魔物の被害にでもあったらどうしてくれる!」
俺は呆然とした。
え? なにこれ?
村人は全員俺を怪訝な顔で見ている。
おいおい、魔物の被害にあったら、って俺関係ないだろ。
ここで俺は昔のことが脳裏に浮かんだ。
中学校に上がった頃。
初めのホームルームで全員自己紹介をしていた。
みんな普通に自己紹介をして拍手をされるのだが、俺の時だけ違った。
みんな俺を見る目が冷たく、俺が自己紹介を終えても拍手が起きなかった。
小学生までは怪訝な顔をされはしたが、拍手はあった。
だが、中学でそれすらもなくなった。
俺は感じた。俺には人に嫌われる悪い霊でもついているのではないか?
と。
考えて見るといい。初めて会う人もいる。みんな初めて同士で他人行儀だが普通に接している。なのに俺には最初から敵視している。
今この状況はあのときと同じ感じだった。
初めて、初対面なのに苦虫を噛み潰したような、厄介者を拾ったような、心から嫌悪感を表したような顔で俺を見てくる。
俺は無駄だと悟ったが、ミリーだけでもと言って見ることにした。
「俺はいいです。でもこの子だけでも食べ物を上げてください」
俺は必死に懇願した。
初対面でこんなに罵倒されているにも関わらず低姿勢を崩さない。
だが返ってきた言葉はありえないものだった。
「ふざけるな! お前と一緒にいるようなやつを村に留めていられるか!」
「そうだ! そいつもお前と同じようなやつなんだろう!」
「そいつからはなにも感じられないがお前と一緒にいるから同じだろう!」
俺は絶句した。
俺といるからミリーも同じ扱いを受けている。
地球でも俺は人に嫌われることが多いと思っていたが、異世界でここまで発揮するとはな。
俺は諦めてそさくさと村を出て行った。
最後の最後まで村人からの罵倒の嵐を受けていたが俺の心はそれどころじゃない。
俺のせいでミリーは食べ物も食べられない。
すでにミリーは俺に引き摺られる様になっている。
俺は森まで戻り、ミリーを背負うと歩きだす。
背中にフニフニとした感触があるが、今はその感触を吟味しているときではない。
俺は森で食べ物を探すため歩き続けた。
三日後。
朦朧とする意識の中俺はフラフラとした足取りながらも歩き続けていた。
と、その時近くの茂みからガサガサっと音がした。
そちらに目を向けると真っ黒な女豹がその金色の瞳をギロリと光らせこちらを見ていた。
ああ、終わったな。
俺は人生の終わりを覚悟した。
何もわからず、見知らぬ土地に投げ出され、人に出会ったと思えば地球でも受けてきたものを顕著に受けて。
もう疲れた。せめて女豹が俺一人で腹一杯になってくれれば……
いや、こんなところに投げ出されるくらいなら一緒に食われるのを選ぶか?
俺は意識が遠くなるのを感じた。
ああ、もう終わりだな。
俺は意識は最後に真っ黒な女豹が俺の顔を舐めたのを見て切れた。
推敲とかしないで直接投稿しているので誤字脱字があると思います。
あと、特に考えずその場の考えで書いているので考えが浅はかだったり矛盾が生じたりしたら教えてくれると嬉しいです。
では、感想・アドバイスお待ちしておりますm(_ _)m