最終話「あれ? 軽くね?」
話し合いが終わり、外へ出るとちょうどラルルとヒアが偵察から帰ってきていた。
ヒアはラルルを降ろすとすぐさま黒い靄に包まれ人化を済ませる。手馴れてきたなぁ。
そんなことを思っているとラルルがさながらピンクの弾丸のごとく俺へと突っ込んできた。
「おにーちゃーん!」
「よっしゃ! 今度こそ受けてやボヘラッ!」
「……大丈夫?」
俺が今度こそその勢いをころしてみせる、と意気込んだ瞬間にラルルは俺の鳩尾へと額をクリーンヒットさせた。まだ、喋ってた、のに……
俺が痛みに悶えているとヒアがテッテッテッと駆け寄ってきてその漆黒の長髪を揺らしながら俺を気遣う。ありがとよ、ヒア。でもそれは言っちゃいけないぜ。なんてったって俺は男だかブフォ!
「えへへ~」
「ら、ラルルぅ……ちょ~っと離れてくれるかな?」
「……は~い」
俺が視線でヒアに俺の男っぷりを語っていたらラルルが頭をグリグリと押し付けてくるではないか! 嬉しいけど! 嬉しいんだけども! 力を考えてくれ!
俺がもはや半分死んだような声を出すとラルルは渋々離れてくれた。最後の最後にギュッ! と締め付けられたのはご愛嬌。腰がまた死ぬとこだった。
さて、これで全員が揃ったわけだ。
俺はみんなにこの事態をどうするべきか話そうと口を開いた。
「ちょっとみんな聞いてく――――」
「ねぇねぇ、ユウタは敵を殺さずに蹴散らすことにしたらしいよ~」
「え?! そうなのですかお兄ちゃん?」
「…………ん、ユウタが言うなら、それでいい」
「…………なんか俺の決意とかそれっぽいことやったのにこんなあっさりか?」
「なんかユウタ様かわいそうねぇ」
「そうですね。でも何故かそれが似合います」
俺の声を無視して喋るミリー。しかも軽い。
そしてそれに驚き俺を見るラルル。くりくりの大きなお目目が更に大きく見開かれている。
ヒアはというと…………どこの武士だよお前。
最後にそこの犬猫。同情しとんな。可哀想になってくるだろ……
しかぁし! この程度ではへこたれないのが俺! すぐさま切り替えて喋りだす。
「その通り! だから今からどうやってやるか作戦を――――」
「あ、私睡眠魔法などが使えます。精霊たちと手を合わせれば数万人程度なら眠らせることも出来ますよ。時間は数時間ですが」
「ならぁ、わたしもぉ、眠っている相手の夢の中にぃ、出現してぇ、堕とすことが出来ますよぉ」
「ならリリスちゃんとマリアちゃんはそれで決まりだね! ていうかそれで終わるじゃん!」
「ラルルは? 何もないのです?」
「…………ヒア、も」
「…………お前らわざとやってないか?」
もはや絶対狙ってるだろ、というタイミングで割ってくるこいつらに俺は恨みがましい目で睨みつける。
それを見てこいつらはというと…………ニヤニヤ笑っていやがる!
俺はもういじけてやろうか、と思ったちょうどそのとき。
「もう、ユウタは背負いすぎなんだよ。ミリーたちも頑張るからさ」
「そうなのです! お兄ちゃんはもっとこのラルルを頼っていいのですよ?」
「そうですね。たとえ聖人様でも一人では壊れてしまいますもの」
「むしろ魔王様はぁ、一人でぇ、暴走しますけどねぇ」
「…………ん?」
「お、お前ら…………」
俺はなんか喜んでいいのか悲しむのかよくわからない心境でそう返した。特に最後のヒアの言葉はちょっと効いたぞ。あれ絶対『?』ついてたよな? 何話してるのか分かってない顔してたもんな!
「まあ、今はいいや。そんじゃ、もう計画というかそれでいいや。うん、てかただの高校生の俺に高等な戦術なんて無理だ。せいぜい落とし穴をえっちらおっちら掘ってウホウホ言うくらいしか脳のないスカポンタンさ」
「ユウタ?! みんな! ユウタを虐めすぎて逆に卑屈になっちゃったよ!」
「あーあ、ミリーちゃんいーけないんだー」
「聖人様! お気を確かに!」
「魔王様ぁ、魔王ともあろうお方がその程度でぇ、恥ずかしいですよ?」
「お前らにいたわるという言葉はないのか?!」
くそ、同情を誘う作戦はものの見事に外れた…………むしろ追い討ちをかけられた。
ホント、こいつら俺をどう思ってんの?
「ユウタ」
「お兄ちゃん!」
「聖人様」
「魔王様」
「…………主人」
「人の心を読むな!」
ほんと、油断も好きもありゃしない!
俺はいつの間にかいつものダラダラした雰囲気になっていた空気を咳払い一つで変える。
「オホン!」
「ねぇねぇ、そういえばあの泉どうなっ――――」
「怒るよ?」
「ごめんなさい……」
俺の本気が伝わったのかミリーはしゅんとしながら素直に謝った。
改めて俺は喋りだす。
「いまさらだが偵察の結果やつらはどうしてた?」
「えっとね! 森に入ってきてたよ!」
「…………ん。同じく」
まず敵は既に森の中。そしてごちゃごちゃやっている間に大分進んだだろうなぁ。
俺は次の質問をする。
「どれくらいでつくと思う?」
「ヒアちゃん!」
「……ん。半日、くらい。あの速さだと」
なるほど……
さて、次はマリアとリリスに質問だ。
「それじゃ二人……二匹は敵を眠らせた後に夢の中で戦意を喪失させる、みたいなことはできそう?」
「わざわざ言い直さなくても? まあ、癪ですが手を合わせれば言わずもがな」
「そうねぇ、本当にむかつくけどぉ、ユウタ様のぉ、言うことならぁ、聞きますぅ」
「よし、そんじゃ行ってらっしゃい」
「「は~い」」
よっしゃ~! もうこれでおっけーだな!
俺は家の前で両手を天へと伸ばし身体をほぐすと踵を返す。
「そんじゃ、俺は家でゴロゴロするか」
「ラルルが添い寝してあげるのです!」
「…………獣化、する?」
「………………あれ? なんかあっさりしてない? ユウタがなんか葛藤して私が慰めて、よしみんなで力を合わせよう! 的な雰囲気だったのに、あれぇ?!」
なんか背後で理不尽に嘆く叫び声が聞こえたが気にしない気にしない。
俺はいつも通りお気楽な頭で家へと戻っていった。
なんか精霊王とかサキュバスの女王とかめちゃくちゃ強いらしいのがいるんだから大丈夫でしょ。
「ユウタ様なんだかお気楽ですね」
「わたしはぁ、もう壊れたんじゃないかとぉ、思うのよぉ」
深く気味の悪い森の中。その場にいるのが似合わないくらい小柄な犬と猫が並んで歩いていた。
二匹は先ほどの主の様子について言葉を交わす。
「壊れた?」
「そうよぉ? 自分に処理できない出来事があって、しかも自分の命が狙われてるのぉ。どっちかっていうとぉ、現実逃避?」
二匹は心底心配だという雰囲気を出す。
「なら敵は排除しなきゃいけないですね」
「そうねぇ。敵は殺すなって言われてるけどぉ、ユウタ様にぃ、ばれないように遠くに運んでからぁ、殺っちゃいましょうかぁ」
「そうですね」
二匹は森の中を歩く。
その暗い、暗い奥の奥へと…………
それからというもの、勇太は平和に暮らした。
毎日動物たちと戯れ、ゴロゴロし、食べる。
そこに目的や意味などなく、どこか虚しさを感じるものに見えたという。
はい完結です。
やっぱ終わりが近づくと適当になってしまうのが悩みどころ…………
それよりも、こんなエタったんじゃね? と思われるくらい長い間放置していた作品をお気に入り(今はブックマークか)してくれた読者の皆様、ありがとうございます。
読者がいるからこそ書こうと思えました。
これからもたくさん書いてたくさん経験していい作品書けるように頑張っていきます!




