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27話「俺悪いことしたぁぁあああ?!」

「ひょひょがひょくみひぇるばひょか」


 ここがよく見える場所か、と呟いた俺は真っ赤に腫れた頬を気にしながら前方を眺めた。

 前方には森の入り口から少々離れたところに軍らしきものが駐留していた。しかも動きが活発で今にも出陣しそうな雰囲気だ。

 俺は真っ赤に腫れた頬を持つ顔で思案にくれる。

 …………うん、なんかしまらない。けどしょうがないわな。ミリーのあの怪力で往復ビンタ何回もくらったんだから。十から先は数えてない。てか目で追えなかった。

 ちなみにビンタの後すぐに森の入り口の木の上に移動した。おかげで人間の動きをいち早く知ることが出来たわけだ。あのとき意識を手放さなくてよかったぁ。


「ユウタ様。殲滅してきますか?」

「だからなんで二言目には殲滅なんだ!? 脳筋か!? 脳筋なんだな!」


 相変わらずのマリアの発言に思わず叫ぶ俺。あ、喋れてる。ちなみに一応防音の魔法がかけられているから叫んでも大丈夫だ。


「限度がありますが」

「先言えよ……!」


 マリアの呟きに俺は声を潜めて叫ぶ。器用なことするなぁ、俺。

 木の上で足をプラプラさせながら軍を見ているととうとう軍は動き出した。

 おっと、なにしに来たかわかんないけどとりあえず俺がいるってことだけでも伝えようかな。

 そう考えた俺は隣で一緒に見ていたミリーに負ぶさって木を降りた。いや、こんな高さから普通の人間である俺が飛び降りたら折れるよ? 普通の、人間の、俺なら。

 なんだか最近自分のことを人間じゃないと吹き込まれているせいか、やたらと心の中で普通の人間と連呼しながら俺はミリーの背から降りた。てかミリーの能力が未知数なのだが……


「おうヒア。ちょっくら乗せてってくれよ。この前にみたいに襲われたら敵わん」

「ん」


 そういうやいなや人化していたヒアは俺の横でいつもの靄に包まれた。

 靄が晴れて獣化したヒアにまたまたミリーに乗せてもらい人間たちの下へと行く。ちなみになんでこんなにミリーがかまうかと言うと、ビンタされまくった後にしばらく俺から離れないっていうのを約束させられたからだ。まあ流石にトイレくらいは別だと思うが…………そうだと信じたい。

 俺がこれからのことに若干暗い気持ちでいると急に視界が開けた。


「おぉ、外か」


 俺の呟きの通り俺の視界には見渡す限りの大草原が広がっていた。どこぞのアルプスを連想させる。山じゃないけど。トロトロチーズのパンをくれるおじいちゃんもいないけど。あれ食ってみたかったんだよな……


「止まれ!」


 な~んて考えていたらいつの間にか軍の前にいて剣先を向けられている。うえぇ、殺気とかやべぇ、ちびるぞこの野郎。

 後ろで俺の腰に手を回して密着しているミリーは威嚇しているのか、シャー! みたいな声が聞こえる。赤い彗星、か。


「っと、そんなんじゃねぇわ。すいませ~ん、不躾で申し訳ありませんが、何しに来たんでしょうか?」


 なんか遠まわしな発言とか面倒、というかこれ以上いたらマジでちびりそうだったので単刀直入に聞く。

 軍の隊長さんらしき人は俺の言葉を聞いて顔を憤怒に染める。え?! 俺なんか悪いことした?!

 と、俺が内心オロオロしていると隊長殿はとうとう叫びだした。


「ふざけるな! お前を殺すために決まってんだろうが!」

「えぇ?!」

「殺す! おい! 目標が目の前にノコノコやってきたぞ! 殺せ! 弓兵と魔導兵よ! 前へ!」

「ちょっ! マジで?! ヒア! …………帰るか」


 なんか怒涛の展開になってきたな~、と若干現実逃避しながら俺は森へと帰って行った。いや、あの量の兵士たちが俺を殺すためだけとかどんだけだよ。

 森の中を駆けるヒアの背の上で俺は叫ぶ。


「俺なんか悪いことしたぁぁあああ?!」


 若干涙声のこの声は森中に響いたそうな。












「それで、殲滅ですか?」

「ぶれないのな、お前は」


 森の中にある俺らの家にて。

 戻ってそうそうの言葉がマリアのこれだ。

 それに対する俺の言葉も必然と言えよう。

 マリアの頭を軽くペシッと叩いて諌めると口を開く。


「とりあえずなんで俺が狙われてるかわかるやつ挙手」

「「「………………」」」


 ま、当然のごとくの沈黙。

 予想していた俺はため息をつくでもなく次の問いを言おうとして……


「あのぉ、多分ですけどぉ……」

「お? なんか心当たりでもあるのか?」


 声を上げたリリスに反応する。

 リリスはしばし言いづらそうにモジモジしていたが、意を決して話し出す。ちなみに言わずもがなリリスは犬だ。中型犬だ。


「ユウタ様がぁ、魔王様だからだと思いますぅ」

「は? ユウタ様は聖人様ですけど?」

「ちょ! またかお前らは! とりあえずそれは一旦置いといてどういうことだ、リリス?」


 リリスの言葉にマリアが毛を逆立てて反論する。

 が、またも勝手に俺の種族を決めようとする二人(二匹?)を宥めて続きを促す。


「はいぃ、魔王様は人間の敵なのですぅ。ですので国が動いたのかとぉ……」

「ん? それはおかしくないか?人間の敵なら他の国も攻めてくるだろうし」

「それはユウタ様が聖人様で、不服ですが魔王にも思われるからだと思います。聖人様が魔王様の近くにいるように見え、戦闘していると勘違いしたのでしょう」

「なるほどなるほど…………って俺本当にあれなの? 人間やめてるの?」


 とりあえず俺は一番の心配である俺の種族を聞いた。

 その答えは…………


「「やめてます(ね)」」

「ぐはっ!」


 いや、俺ってば滅茶苦茶強いとかないよ? 魔王や勇者みたいに剣の一振りで山を一刀両断! みたいの出来ないよ! 魔法だってわけ分かんないし! 

 …………つまりあれか? 俺は今世紀最弱の魔王&勇者ってか? いや、まず魔王&勇者って時点でおかしいから。


「……ノゥ!」


 やべぇじゃん! マジでやべぇじゃん! 俺殺されるの?! ちょ! マジでなんなんだよ! 俺なんかした?!

 俺はもう周りの何も見えずに狼狽える。

 俺は狙われている。俺一人を殺しに国という単位で襲い掛かってくる。敵うわけがない。俺は普通の平々凡々な高校生だ。出来ることなんてたかが知れてる。なら大人しく殺されるのか? 嫌だ! そんなの嫌だ! でもどうすれば……どうすりゃいいんだよ!

 頭がごちゃごちゃに、ぐちゃぐちゃに、べちゃべちゃに溶けるくらい混乱し、もう意識が掻き消える。

 その時だった。


「……大丈夫だよ!」


 ふわりと背中から何かが俺を包み込んだ。

 視界の端に黄金に輝く髪が見える。


「ミリー……」

「いざとなったらみんなで逃げようよ! 世界がユウタの敵になっても私はユウタの味方だよ!」

「ミリー……」


 一度目は歓喜の呼び声。二度目はこんなことを言わせて俺への呆れを含ませた呼び声。

 完全に立場が逆だなぁ、と考えながらも俺の思考はある程度落ち着き始めていた。なんかこう、包み込まれてるのが心地いいんだよ。

 俺は両手で頬をパンッと叩く。


「よし! もう大丈夫だ! ありがとなミリー!」

「うん! どういたしまして!」

「…………目の前でぇ、イチャイチャされるのってぇ、なんか嫌ですねぇ」

「…………悪魔と契約するくらい嫌ですが同感です」


 なんかリリスとマリアの声が低い気がしたけど気のせいだよね!

 とりあえず俺は背もたれにもたれかかり、力を抜く。ギィと椅子が音を立てて軋む。

 フッ、と余計な力を抜いてひとまず落ち着いた俺はもう一度みんなへと向かって口を開く。


「とりあえず目標は敵を出来る限り殺さないで無力化。そしてその程度の戦力じゃ手も足も出ないと思わせて二度と攻めさせないようにする」

「……それは難しいのでは?」


 俺の言葉にマリアがそう言う。

 確かにそれは難しい。だけど俺も好き好んで殺しをしたいわけじゃない。それにまだ人が死ぬなんて思えないんだ。

 俺が指示を出して殺した人はどんな思いでそこにいたのか。国のため。家族のため。愛しい人のため。上からの指示のため。

 そしてそんな人たちを殺して悲しむ人たちを考えると思わず吐いてしまいそうになる。

 だから殺しは嫌だ。でも死にたくもない。傲慢だ。分かってる。でも、それしか、ないんだ……

 俺は一つ溜めを置いてから話し出す。


「……マリアの言うとおりだ。だけど、これは俺のわがままなんだが、殺しはしたくないんだ。俺のせいで罪のない人が死ぬなんて耐えられない。ましてやその人が死ぬと悲しむ人もいるんだ。それも考えるととても殺しなんて……」

「…………分かった!」

「ちょ、ちょっとぉ!」

「え、えぇ?!」


 俺が消沈気味にそう言うとミリーが元気よく返事を返してくれた。


「ミリー…………ありがとう」


 俺は感謝の言葉を口にする。

 俺の思いが詰まったその一言。それはミリーに伝わってくれたのかニッコリと微笑んでくれる。そこにはいつもの元気っ子のようなあどけなさはなく、夫の留守を守る妻のような力強さと優しさを感じられた。

 俺はしばし俯き、バッと顔を上げる。


「よっしゃ! そんじゃいっちょぶちかましてやりますか!」

「おー!」

「えぇ、ユウタ様ぁ、このリリス、急展開過ぎてついていけません……」

「まことに遺憾ではありますが私もこのハエと同じ気持ちでございます」

「な、なにいってるのかしらぁ? この羽虫風情がぁ」

「そちらこそ身の程をわきまえたらどうですか? 消しますよ?」


 俺とミリーはギャーギャー騒ぎ立てる犬猫を無視し、ふわりと微笑みあった。



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