14話「元気っ子再び」
行き交う人々と目が合う度にビクビクしながら服屋へと歩くこと数分。ようやく着いた。
店の前ではヒアが猫のように丸くなり寝ていた。ついでに子猫たちはヒアのお腹のあたりで寝ていた。
あの強さを持つヒアがいることに安堵した俺は身体中に入っていた力を抜いた。そして俺はヒアに声をかけた。
「おーい、ヒア。帰ってきたぞー」
俺の声に反応したのか、ヒアは首をぬーっと持ち上げて目を開いた。ちょ、その動作なんとなく肉食獣って感じで怖いんですけど…………
起きたヒアは俺を見つけ、目が合う。このとき少しちびりそうになったのは秘密だ。
ヒアは目で俺に、早く服買ってきて、と伝えるとまた伏せてしまった。仕草は猫みたいで可愛いはずなのだが、サイズがサイズなので軽く恐怖だ。
「そんじゃ、服を買いますか」
「うん!」
俺はずっと俺の腕に抱きついているミリーを見やり、そう言うと抱きつく腕に更に力を入れて返事をした。すっごい密着感…………あれ? なんか甘い匂いが…………?
「おーい! まだ店主が戻ってねぇぞー!」
少し、ミリーから香る甘い匂いをかいでいたら後ろから親父の声がした。あ、金の心配ばかりで親父のこと忘れてたわ。
俺は振り返ると親父に向けてお茶目な表情をする。騙されてくれんかなぁ。
そんなふうに思っていると、ったくしょうがねぇな、と言いながら親父は俺の頭をポンっと叩いて服屋の中に入っていった。え? 本当に騙された?
てかずっと思ってたんだけど、親父の身長って俺より低いんだよな。多分ドワーフだからだと思うけど。んで、それがいつも腕を目一杯伸ばして俺の頭をポンっと叩くとか。なんか笑える。
俺は親父の後ろ姿を見て思わずそんなことを思ってしまった。
「おら、服買うんだろ? 早くこいよ」
ぼけーっと親父を見ていたら、親父が入口で立ち止まり振り返って俺らを呼んだ。
そうだ、今の俺の格好は変質者だったんだ。
俺は親父の待つ服屋へと入りやっとのことに服を買えたのだった。なんかすっげぇ長い道のりだった気がするぜ……
無事服を買い、異世界らしくごわごわした感触に少し戸惑いながら外へ出るとなにやら騒がしかった。
何事かと視線を巡らすと、どこかで見たようなピョコピョコした動きでヒアの周りを周っている子供がいた。周りの人はオロオロしながら、ちょっと危ないよ! とか、食われちまうぞ! とその子に注意をしている。
その子供はそれらを適当にあしらいながらヒアを興味深そうに見ていたが、不意にこちらへと首をクルリと回し、俺を視界におさめた。次の瞬間パァーと顔を綻ばせこちらへと駆け寄ってきた。
「お兄ちゃ~ん!」
やっぱりあのギルドで会った妹萌えの子か。俺はそのピンク色の髪を左右に振りながら両手を広げ走ってくる少女を見て思いだした。思いだしたって言うほど時間は経ってないけど。
俺は、少女のその走るスピードに気圧されそうになるがギルドのことを思いだして、また俺の前で急停止するんだろうな、もう驚かないぞ、と思って悠々と立っている。
しかし、一向に減速しない少女。え? これ突っ込んでくるタイプ? あの速度で? あれに当たったら腰痛は確実じゃん…………避けたらダメ?
一瞬避けるという選択肢が頭に浮かんだが、それだと少女が壁に激突するので、俺は腰をグッと落とし、ミリーが掴まっていない方の手を広げ構えた。そしてついでに気合も入れる。
「ばっちこいや!」
「お兄ちゃ~ん!」
「ブフォ!」
気合を入れた直後に俺の腹を抉るようなタックルをかましてきた少女。思わず空気が漏れたぜ……
その衝撃はあの小さな体のどこからくるんだというほど大きなもので、あと少しで吹き飛ばされそうだった。
俺はガクブルな脚を気力でもたせ、俺の腹に顔を埋める少女を見る。
少女は、ニヘヘ、と笑っていてなにをしたいのか皆目検討がつかない。
とりあえず俺はここで何をしていたのか聞いてみることにした。
「ねぇ、君はここで何をしていたの?」
俺がそう問うと少女は埋めていた顔を上げてふわりとした笑みを浮かべる。あれ? なんかドキッてしちまったぞ? 元気っ子のこういう表情はちょっと卑怯な気が……
「えっとね、あそこの大きな黒豹を見てたのです!」
少女はヒアを指差すと元気に答えてくれた。さっきと違い、なんか微笑ましいので頭を撫でて上げたら、ほわぁ~、と言ってへなへな~となった。何この子、可愛すぎる!
とちょっとこの少女で和んでいると右腕が万力のような力で締め上げられた。やべぇ、声も出せねぇよ……
顔を向けると、俺の右腕に掴まっているミリーがジトーっとした目で俺を見ていた。ちょ、おま、どゆこと?!
俺がどうしてだ? という顔をしているとミリーが少女へと視線を移した。ああ、こっちばかり撫でてて怒っちゃったんだな。分かった分かった、甘えん坊だなぁミリーは。お前も撫でてやるよ。だからいい加減腕を解いてくれないか? ミシミシ音が聞こえるし、肌の色も魔人(想像上)のように紫っぽくなってきてるから……
ミリーを撫でて、ようやく腕が解放された俺は未だに俺の腰に抱きついたままの少女にも解放してもらおうと声をかける。
「それじゃあ俺たちはもう行くよ。だから腕を解いてくれないかな?」
「いーやーだー!」
俺がそう言うとなぜか拒否をし、抱きつく力を強くする少女。ぐぉぉぉおお! 腰が! 腰までもがやられる!
俺は腰の大ピンチに冷や汗を流しながら理由を問うた。
「な、なんで?」
「離れたくないんだも~ん!」
駄々っ子のような口調で答える少女。その言動と行動が噛み合っていない。見た目的には噛み合っているのだろうけど、俺の腰は今にもHPが零になりそうだ。
俺は腰の崩壊が迫っていることに焦りながら説得を試みる。
「お、お願いだからは、離してくれ」
「いいよ」
「へ?」
俺がきつそうな顔で頼み込むとあっさりと返事が返ってきて力が緩まる。ほっ、とりあえず腰はもってくれたようだ。限りなくHPは零に近いがな。
だが、回している手を解放するつもりはないらしく、わずかに力を入れている。俺がどうしようかもがいていると少女がまた喋りだした。
「でも条件があるのです! あちしも連れてって欲しいのです!」
「え?」
俺は思わず動きを止め、呆けた顔で少女を見た。なぜ? なぜ俺についてこようとするんだ?
俺がそんな顔をしていたからなのか少女は続けて言った。
「お兄ちゃんに会ったときにね、こうビビッと来たのです。あちしは純粋なドワーフだからそう言う特技でもあるんですかね?」
いや、俺に聞かれても…………
そんな風に心で呟いているとだんだん締め付けが強くなってきた。え? なにこれ、脅迫じゃん!
「分かった分かった! いいよ一緒に行こう」
「やったー!」
俺は思わずOKを出してしまった。いや、本当にこの小さい体のどこにこんな力があんの?ってくらい強いんだよ。だからまた腕を締め付けるのは止めてください、ミリーさん。
少女は俺からOKをもらうと瞬時に離れ、万歳をしながら跳びはねている。はたから見たら微笑ましいんだろうが…………あの力を身に受けると、なぁ。
ま、それは置いといて、俺はこれからドワーフに建築を頼みたいのだが…………連れてっても問題ないか。
俺はこれからの予定を少女に伝えよう…………と思ったが、まずは自己紹介だな。すぐに森に帰るだろうけど名前くらいはね。
そう思い、俺はまだ嬉しそうに跳ねている少女に声をかけた。
「おーい、もう行くんだけどその前に自己紹介するぞー」
「はいです!」
元気良く返事をした少女はペンギンのように両手をまっすぐにし、トテトテと近寄ってきた。
「とりあえず俺からな。俺は勇太だ。十七歳で、ここに来たのは初めてだ。んで、おい」
俺は俺の腕に抱きついているミリーを小突いて催促した。さっきから少女を睨みすぎだろ……あ、少女も睨み返してる。こいつら上手くやっていけるのか……?
「ミリー。六歳」
ミリーは睨みをきかせながもとりあえず自己紹介はしてくれた。てかミリーって六歳なんだな。あ、猫だったからか。
案の定六歳と聞いた少女は一瞬ポカンとしたが、ピクピク動く猫耳を見て納得したようだ。獣人って成長早いのかな?
俺は続けてヒアの紹介も行う。ヒアの人化についてはもちろん触れないでおく。なんか特殊能力っぽいじゃん?
「最後にあそこで寝ているのがヒアだ。これで全員だ、よろしくな」
「えー! あの黒豹ゆうたさんが飼い主だったんですか?!」
すごいすごい! と少女は囃し立てた。いや、これも飼い主ってわけじゃないんだけど…………
あんなすごいのをペットにしてるんですか?! と聞いてくる少女のキラキラした目にまたも罪悪感が生まれる。
しばらくして、少女は自分の紹介を始めた。
「あちしはラルルなのです! よろしくです!」
「ああ、よろしくな」
自己紹介が終わったので俺は声をかける。
「それじゃ行くぞ?」
俺は未だ腕に抱きついているミリーと満面の笑みを浮かべるラルル、そして欠伸をしているヒアに聞こえるように大きな声で言った。




