13話「元気っ子」
親父に尊敬の念を込めた視線を送り続けること十数分。俺たちはある建物の前に来ていた。
それは大通りのちょうど真ん中ほどに位置していた。
周りよりも一際高く、幅もある。壁は石に白の塗装をしているらしく、ところどころ塗装が剥がれ灰色の壁が露出している。
俺は、俺の腕に抱きついているミリーのことも一瞬忘れ、その貫禄ある建物に見入った。
人がたくさん行き交う中親父が振り返り、なかなかでかい声で喋り出した。
「ここは『冒険者組合』って言われてる場所だ。聞いたことあるだろ?」
うぉぉぉおおおおお! 夢にまで見た冒険者ギルドだ! なんか組合とかいってたけどギルドと同じようなもんだろ。
俺が目をキラキラさせて冒険者ギルドを見ているとバンッと肩を叩かれた。
「冒険者組合は初めてか?」
視線を親父に移すと、親父ははしゃいでる子供に向けるような優しい笑顔を向けていた。おい、どういうことだこら。
俺は眉を寄せてちょっといじけたような顔をする。
すると親父は、ガハハ、と笑ってまたもバンバンと俺の肩を叩く。さっきから思ってたけど意外に痛いんだよ…………
「すまんな! あまりにも子供っぽいからよ。意外に可愛いところもあるじゃねぇか!」
「いやいや、からかわないでくださいよ…………」
釈然としないながらも木製の扉へと歩いて行く親父のあとを追う。
相も変わらず俺の腕に抱きつくミリーに目配せをする。ミリーは分かったのか太陽のように輝く笑顔で返事をした。
親父は木製の扉に手をかけるとギギィと音をたてながら押し開いた。
もわぁっとした、外とは違う空気が押し寄せる。うわぁ…………むさい…………
親父が堂々と中へ入っていく。俺も縮こまりながらも続いていく。
「おぉ…………」
俺は思われず感嘆の息を吐いた。
今まで小説などで想像することしか出来なかった光景を目の当たりにして。
中は広いロビーとなっていて、ところどころに丸い机と丸い椅子が配置されている。そのどれもに鋭い傷跡が見られた。な、なにがあったんだろうなぁ…………
入口からまっすぐ、およそ十m先には市役所のような受付らしきところがある。等間隔で美人の女性が立っているのが見える。あ、今俺と目が合ったぞ!
ざわざわ
「ん?」
お姉さんを見ていて余裕が出来たからか、周りの音が聞こえてきた。チッ、もっと見るのに集中しとけばよかった。
集中が乱れた俺はあからさまにがっかりと肩を落としながら、渋々と視線をお姉さんから外した。
周りを見渡すとちょうど昼時だからだろうか、たくさんの厳つく、むさい男たちでごった返していた。そして、その誰もがこちらを見ている。ちょ、男にそんな見つめられてもなにも感じませんから!
親父はそんな視線を無視し、まっすぐ受付へと向かった。俺も慌ててあとを追う。
親父は受付の前まで来ると黒イノシシをドスンッと落とした。一体何kgあんだよ…………
そして、親父はツカツカと受付まで歩き、片手を受付の腰よりちょい上ほどしかないテーブルをバンッと叩いた。
「よう! これを買い取ってくれ!」
「あれ?! どうしたんですか、これ。もう冒険者は辞めてましたよね?」
声をかけられた真ん中の女性は親父の持ってきた黒イノシシを見やり、驚いたように尋ねた。
これに対して親父は得意そうな顔になり、親指で後ろを指した。
「実はな、あの小僧が…………」
「どこ指指してんですか?」
「うおぃ! びっくりさせんな!」
横にいたのに気づかないで後ろを指した親父に声をかけると大げさなリアクションをとって驚いた。そのあと、拳骨を落とされたけど…………自分が気づかなかったんじゃないか……
「うわぁ! これなんですかぁ!?」
俺が頭を抑えて痛がっていると、後ろからやたらと元気な声が響いてきた。
親父に恨みがましい視線を送るのを止め振り返ると、降ろした黒イノシシの周りをちょこちょこと移動しながら騒いでいる子供がいた。
親父も振り返ってその子を見て、少し考えるとニヤリと笑いながら近づいて行った。え? まさかそんな趣味が…………? いやいや、親父に限ってそんなことはない…………と思いたいんだけど。
親父はその子供の前まで行くと子供の頭にその大きな手をポンと乗せ、なかなか大きな声で喋りだした。
「嬢ちゃん、こいつはなぁあそこにいる兄ちゃんが仕留めてきたんだぜ!」
「そうなんですか?!」
「はぁ!?」
その瞬間、ギルドにいた無数の人たちの視線が俺を射ぬく。子供も俺を見る。
それに対して俺は思わず素っ頓狂な声を出した。いや、俺じゃないし。そんなのと出会ったら多分ちびっちゃってまともに動けないし。
そして話しかけられた子供はキラキラとした目で俺を見ている。うっ……なんか罪悪感が……
子供は俺と目が合うとタッタッタと俺の元まで走ってきた。背中に身長と同じくらいの鎚を背負っているのだが、案外軽やかに走るんだな。
俺の手前まで来て止まると未だにキラキラした目で俺を見上げてくる。ううぅ……罪悪感半端ない。
それにしてもこの子小さいな。身長は百二十cmほど。体型も服で少し分かりづらいが、太っていることはないだろう。こんな子が身長と同じくらいの鎚なんて持ってどうするんだろう? それとこの子は女の子だった。 まあ、遠目でもそんな感じかなとは思ってたけどね。ほら、ここ異世界だし。……誰に言い訳してんだ?
そんなことを思いながら見ていると少女はニコッと笑って首を傾ける。
…………ぉおう。あぶねぇ、クラッときちまったぜ。俺はどうしてこういう元気っ子に弱いかね? ミリーしかり、この少女しかり……
「ねーねー! お兄ちゃんは魔術師なのぉ?」
「………………え?」
今なんて言った?
俺は耳に手をあてがい、上半身を屈める。
少女は一瞬俺の意図が分からずキョトンとしていたが、すぐにハッとなって気づいた。本当に感情が表情に出る子だな。
「魔術師なのぉ?」
「いや、もうちょい前」
またも首を傾げて不思議そうにする。しかも今度は、あれれ? と呟いている。ヤヴァイ。可愛すぎる。悶え死にそう。
いや、ここで悶え死んでたら次の言葉にしゅんさ……
「お兄ちゃんは……」
「お兄ちゃんキタコレ!」
お兄ちゃんとかマジでグッとくるな。
俺は思わず、握り拳を腰に引きつけるようにガッツポーズをした。
いや、だってお兄ちゃんですよ? 俺、一人っ子だったし、ちょっと憧れてたんだよね。……ある日見た妹萌えというもので価値観が変わったかもしれんが……
と、俺に奇異な視線が集まっているのを感じた。
あ、やっちまったな…………
親父に視線を送ると華麗にスルーされた。あるぇ? 妹キタコレはダメなのか? …………うん、ダメだな。こんな人がいる場所で叫ぶとかどうかしてる。イッツクレイジー。ノンノンノンノン、アイアムクレイジー。
みんなから奇異な視線を受けて軽く落ち込んでると、下から少し耳がキーンとするような声が聞こえてきた。
「お兄ちゃんはお兄ちゃんって呼んでもいいんだよね?」
「ぜひそうしてくだんせぇ」
いかん、反射的に答えてしまった。しかも言葉が暴走しとる。
ま、少女は、うん! と伝わったようだし平気だろ。
そんな風にちょっと遊んでいると後ろから声をかけられた。
「遊んでないでそろそろ行くぞ。もう換金はすんだからな」
振り返ると親父がソフトボールほどの大きさの袋を持って歩いてきた。そういえば、さっきからギルドの役員と思わしき人がなにかやってたな。
俺は、は~い、と返事をするとその袋が差し出されたので受け取る。
ズシンとした重みが手に伝わりわずかに腕が下がる。うわぁ……かなり重いな。
俺は顔を上げて親父の顔を見て言った。
「あいつこんなに高いの?」
「そりゃあ、こいつはあの『黒猪』だぜ? こんくらいは普通だぞ」
へぇ、と俺が視線を落とし、手元の袋をまじまじと見ていると親父が耳元で囁いた。
「……あとな、あんまりそういうことを外で言わないほうがいいぞ。こいつは価値を分かってないとか思われてそこらへんの冒険者にいいくるまれる。ま、さすがにそんなことをするやつはそうそういないと思うがな」
「は、はい」
親父に忠告された俺は同じように小さな声で返事をしながらコクコクと頷いた。この世界にも詐欺とかあるんだな。いや、商売があるなら当然かな?
…………早く出て行こう。
親父の言葉で全ての人たちが俺の金を騙し取ろうとしているかのように見えて俺はそさくさと冒険者ギルドを後にした。後ろから、お兄ちゃ~ん、と聞こえた気がするが一刻も早くヒアの元に行って守ってもらいたいので気にせずに大通りへと出た。
受験生ということもあり、なかなか執筆に集中できませんね(いや、受験に集中しろよ)
そしてすいません。まだ服は買いません…・つ、次こそは!…………多分




