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12話「親父……!」

 お金がないことをすっかり忘れていた俺は服屋の主人の前でオロオロしていた。

 やっべどうしよう……肝心なことをすっかり忘れていたよ……

 俺が自分の馬鹿さ加減に失望しつつ、頭を抱えて悩んでいると主人が助け舟を寄越してくれた。


「お前さん森で生活していたんだろ? 動物とか狩っていただろうしその毛皮とか持ってきていないのか? よかったら買い取るぞ」


 いつの間にかカウンターからこちら側へ来ていた主人は俺のそぐ目の前に来ていて、ワイルドながらも優しさが滲んだ笑みを浮かべる。

 おお! 親切な人だ! 前世でも人に(・・)親切にされたことなんてなかったから思わず目頭が熱くなる。

 だが俺は…………


「ご親切にありがとうございます。しかし残念ながら……」

「分かった! ちょっと待っててね!」


 俺が主人にそういうものが無い旨を伝えようとしたところでミリーが俺の言葉を遮りタッタッタと店を出て行った。店内はそんなに広くないため駆け足でもしたらすぐに扉につくので、ミリーが出て行くのは一瞬の出来事だった。

 俺はミリーが何をしでかすのか分からないので主人に一言断ってから店を出た。もちろん歩いて。


 店を出ると周りを警戒しながらも座って休んでいるヒアにミリーがなにかを話しかけていた。子供みたいにわーわーと騒ぐミリーと、これまた子供みたいに首を横にふるふると振るヒア。…………周りの目が痛くはないのか?

 俺が出てきた事に気づくと二人? ともこちらを見る。自然と周りの目もこちらに向く。数十、下手したら百を超える瞳が俺を捉える。

 お、おう……そんな見つめちゃイヤん……

 心の中でふざけてみたが、こんなたくさんの人に注目されたことのない俺は結構な挙動不審になっていたと思う。

 そしてなんとかミリーたちに視線を戻すと、ミリーが先に口を開いた。


「毛皮ならヒアのものをちょっともらえばいいからちょっと頂戴! って言ってるんだけど言うこと聞いてくれないの!」


 ミリーがむーっとして俺に訴えてくる。

 ヒアに視線を送るとヒアはその大きな頭を(可愛らしく言えば)プイッと動かし拒否しているのが分かる。確かに毛皮を剥ぎ取らせて、なんて嫌だもんな……

 う~ん、確かにいい案だけどヒアが嫌ならダメだよな~。いや、でもここだけは我慢してもらいたいな。…………うん。

 俺はヒアの視界に入るように移動して話しかける。人通りが激しかった大通りだが、ヒアの周りだけは一定の感覚で空白地帯が出来ているので容易に回り込める。


「あのさ、今は最初だからお金がないんだよ。持っているものもほとんどないし。お金を稼ぐにも最初は出資しないといけないんだよ。だから……」


 と俺が説教じみたことを言っているとヒアがスクッと立ち上がった。俺はヒアが急に動いたことに驚き、あたふたと慌てる。

 え? なに? うざかったの? ごめんなさい!

 などと勝手に妄想しているとヒアが走り去って行った。崖まで続く大通りは、面白いほどに人ごみが真っ二つに割れて行く。崖まで行くとヒアはピョンピョンと跳びながら崖を登り、向こうへと消えた。

 俺はそれをただ呆然と眺めていた。

 それはミリーも同じで俺らは二人してしばらくそこで固まっていた。














 ヒアが崖の向こうに消えてからというもの、俺たちはヒアが戻ってくるのを素直に待っていた。あ~、子猫たち大丈夫かな、などと緊張の欠片もないことを考えながら。

 大通りはヒアがいなくなったことで、また多くの人が行き来し出した。やはり怖いんだな。魔物だし。


 そして体感で数分後。崖の向こうからヒアが現れる。ここは大通りなのでちょっと高いところならヒアがこちらへ来る様子も見える。

 凄まじい速さでこちらに近づいて来る。……あ、兵士さんたちに説明しないと!ヒアには特に印みたいなのがないから俺の仲間だってことに、気づかず攻撃されるかもしれん。そうなったら兵士さんたち全員星になる。

 そう思い走り出そうとしたが、街に入る手前で止まるヒアを見て止まる。

 兵士さんたちもそれぞれ武器を構えていたが、立ち止まったヒアに知性を感じたのか武器を降ろしてくれた。躾がちゃんとしているからさっきのだろうと思ったのかな?

 やっぱ警備軽過ぎんだろ…………

 それを見たヒアは一礼してまたこちらへと走って来る。また人の波が真ん中から真っ二つに割れて行く。ここで有名なム○カさんの言葉を言いたいな。

 近づくにつれヒアがなにかを咥えているのが見えた。ん?なんだ、あれは?

 目を凝らして見ると黒いイノシシっぽい動物を咥えていた。まさか…………ね?


 そして俺の目の前まで来たヒア。またも一定の距離をあける道行く人々。

 ヒアは咥えていた動物をドサッと音を立てながら落とした。黒イノシシは結構でかく、体長一、三mほどで丸々としていた。体積が大きそうだ。

 ヒアはそれを落とすと俺を見て笑ったーー気がした。ついでになにか言った。

 ミリーに毎度のこと通訳を頼む。


「えーっとね、『これなら私の毛皮をとらなくてもいいでしょ?』だって」

「ああ!もちろんだよ。ありがとうな、ヒア」


 呆然としていた俺はミリーの通訳を聞いて大きな返事をしたと共に苦笑した。そんなに毛皮をむしられるのが嫌なのか、と。


 そしてヒアに礼を言うと恥ずかしいのかしゃがんで俺の顔をベロンっと舐めた。

 その大きな舌で舐められ俺は転倒してしまう。だが、ヒアはそれでも舐めるのをやめない。可愛いやつめ。


 と、俺が珍しくヒアと戯れていると頭上から声が聞こえた。


「おいおい…………毛皮って言ったけどよ、さすがに魔物の毛皮は服には使えんぞ。どっちかってっと、防具だしな」

「マジっすか……」


 俺が顔を上げると店先に立つ服屋の主人の姿があった。カウンター越しだから分からなかったけど、下半身もムッキムキだな。短パンから伸びる大根よりも太い足でどっしりと立つ主人は威厳のようなものが滲み出ている。

 主人は目の前にある黒イノシシを見て驚愕の表情を浮かべると服屋では使えないとの旨を聞いた。

 マジか…………

 俺が両手を地面につき、項垂れていると主人はまたも俺に優しい言葉をかけてくださった!


「しょうがねぇな。俺が代わりに売って来てやるよ。俺なら知り合いだしちょっとくらい割高で買ってくれるかもしれないしな」


 その分たくさん買えよな、と付け加えて主人はガハハと盛大に笑う。


「お、親父…………」


 俺は感極まって主人を親父と呼び、熱い視線を送る。変な意味ではない。

 主人……親しみを込めて親父でいっか。親父はそのままヒアの足元にある黒イノシシをよいしょっと担ぎ上げると歩き始めた。


「え?親父すごっ…………!」


 俺はそのようすを両手両膝を地面につけたままただ呆然と見ていた。


 少しして親父が人ごみに入りそうになったとき俺は我に戻った。てか入る前にまた人々の海は真っ二つに割れる。

 そして俺は立ち上がって駆け出し、親父に向かって叫んだ。

 だってこのままここにいたって、


「俺もついていくっす!親父!」


 暇だしね。



ドワーフの国に建築を頼みに来ただけなのに………………

てか服を手に入れるだけですごい手間ですね(^^;;

早く終わらせます…………


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