本当に何もできない僕を追放した勇者たちが、「お前が必要だった」と泣きながら迎えに来た。
「オリバー! お前は追放だ!!」
僧侶のミカエラ、魔導士のレイチェル、アーチャーのクレア、斥候のビビアン。
4人の美女に囲まれた男——勇者であり王太子でもある存在、アルヴィンは、オリバーに対して言い放つ。
オリバーは「そんな!」と首を横に振った。
「アルヴィン! どうして! どうしてそんなことを言うんだよ!!」
「うるさい! 黙って立ち去れって言ってるんだ!!」
「なんでっ!!」
認められない。認めたくない。
縋り続けるオリバーに対して、アルヴィンは静かに言い放つ。
「……。じゃあ、お前には何ができるんだ。言ってみろ」
「え……?」
問われ、オリバーは困惑する。
勇者アルヴィンは、ため息交じりに口を開く。
「3日前のドラゴン討伐。……あの時、お前は何をしていた?」
「全力で応援してた!」
「ほら! 何もできていないじゃないか!」
「ぼ、僕の応援でみんなは活力を貰ったはずじゃないか!」
「そんなことはない!」
アルヴィンは深々とため息を吐いた。
「……俺たちも、その可能性は考えた」
「え?」
「だから、お前が眠っている間に、同じ条件でドラゴンを討伐しに行ってみた」
「え……?」
「その結果、何も変わらなかった! つまり、お前がいてもいなくても同じだ!」
美女たちが頷く——そう、アルヴィンたちはわざわざ検証しに行ったのだ。
もしかすると、オリバーの応援には何かしらの効果があるのかもしれない。
力がみなぎるだとか、魔法の威力が上がるだとか。
仮にそうであった場合は、頑張ってくれたオリバーに申し訳なさすぎる。
優秀な人材の首を切ることほど、馬鹿げたことはない。
追放するには根拠が必要だろう。だからこそ、検証しに行った。
——その結果がこれである。
しかしオリバーはまだ食い下がる!
「僕は料理だってできる! みんな毎日、僕の料理を食べていたじゃないか!」
オリバーは戦闘で役に立たないからこそ他で頑張りたいと主張し、料理を担当している。
今まで真心を込めて、毎日頑張って、みんなが飽きないようにと様々な料理を作ってきた。
……それなのに、どうして。
アルヴィンはゆるゆると首を横に振り、叫んだ。
「今まで言えなかったが、お前の料理は味付けが濃すぎて辛い! 特に塩が多い!! 塩分過多で病気になる!!」
「そんな! そう思っているのなら、ちゃんと言ってよ!」
「そんなこと言ったら一生懸命頑張っているお前が傷つくだろう!?」
本当は、こんなことを言いたくはなかった。
心底申し訳ないと言わんばかりに、アルヴィンは少し涙目になっている。
何なら他の4人も涙目になっていた。全員、オリバーの料理を否定したくはなかったのだ。
「そして残念だが、料理に関してはミカエラが担った方が味も良いし、体力も回復することが判明した!
ミカエラの料理に追加効果が発生している以上、お前が味付けを改善したとて料理当番を任せる理由が無い!!」
涙を拭いつつも、僧侶ミカエラ以外の3人が頷く。
ミカエラは恥ずかしそうに頬を赤らめてアルヴィンから目を逸らしていた。
しかし、そんなミカエラも泣いていた。彼女もまた、オリバーの料理を否定したくはなかったのだ。
——そう、料理に関しても検証済みだ。
ミカエラどころか、アルヴィンを含む他の4人が全員頑張ってみた。
残念ながらまともな料理を錬成できたのはミカエラだけであったが、そのミカエラが優秀過ぎた。
オリバーは、まだ食い下がる。
「でも、あなたは王太子! 料理なんて……!」
「俺の料理は敵に投げつければ効果が絶大であることが発覚している!!」
「あなたは! それで! 良いんですか!?」
「やめろ! 俺が傷つくじゃないか!! どう足掻いてもダークマターしか生み出さない己の手をこれほど呪ったことはない!!」
……何にせよ、オリバーの料理は塩分過多で、何の役にも立たない。
そもそも魔物討伐のために汗水たらして頑張っているアルヴィンたちが『塩分過多』だと判断する時点で、オリバーの料理はアレだった。
それでもオリバーは、まだまだ食い下がる!
彼は決して諦めなかった!!
「そうだ、洗濯! 僕は洗濯を頑張ってるよ!」
「洗濯に関してはレイチェルが水魔法と風魔法を使えばどうにかできると判明している! 何ならお前がやるよりも早い! 洗濯をするために川で時間を取る必要もなくなった! 畳むのも5人で協力すれば一瞬だ!!」
「荷運びできるよ!!」
「お前はクレアの戦い方を見て何も思わなかったのか!? クレアの弓矢がどこから出てきているのか分かっているのか!? クレアは異空間から瞬時に物を取り出す魔法が使える! 荷運び役など必要ない!
ていうか全力で応援してるって言うなら仲間の戦い方くらい見ろよ馬鹿!! お前は一体何を応援しているんだ何を!!」
「か、買い出しもしてるじゃないか!」
「ははっ、ビビアンの値引き交渉術を舐めてもらっては困るな! これも俺たちは実際に検証してみたが、同じ金額を使っているのにビビアンは値引き交渉をして俺たちの倍は物を買ってきたぞ!!」
「野営の準備ができるよ!!」
「それくらい俺でもできるわドアホ!!」
どちらも一歩も引かぬ攻防戦。
……それが、10分は続いただろうか。
「えっと……えっと……」
「頼む、もう諦めてくれ……諦めてくれよ、オリバー……」
オリバーとアルヴィンは息を切らしていた。
女性陣は固唾を飲んでふたりの行く末を見守っていた。
そして、全員が同じことを考えていた。
——アルヴィンはドラゴン退治をしている時の方がいくらか余裕そうだった、と。
少しの沈黙の後、オリバーは寂しそうに呟いた。
「僕は……あなたと共に戦いたかった……従者として、幼馴染として、ずっとあなたの側にいかった……」
「オリバー……」
もはや何のためにいるのか分からないオリバーとアルヴィンは乳兄弟で、主従関係にあった。
ゆえにオリバーは聖女が授かった天啓に従い、人類の脅威である魔王を討伐することを定められたアルヴィンと運命を共にすることを望んだ。そして、ここまで一緒に着いてきた。
「王太子の重圧に耐えながら育ってきたあなたに、勇者の重圧まで加わって……そんなあなたの、力になりたかった……」
「……ッ」
アルヴィンは、静かに涙を流す。
幼馴染を傷つけたくはなかった。その想いが、溢れていた。
そして彼らを見守っている美女たちは思った。
——王太子のことを思っているのなら、なおさら早急に城に帰ってくれ、と。
オリバーは、悔しそうに奥歯を噛みしめた。
しかし、今の自分は邪魔にしかならない。
だからこそ……笑う。
自分は笑って彼らを見送るべきだと、判断したのだ。
「きっと、アルヴィンなら魔王を倒して無事に帰ってくる。そうだと信じてるよ!」
「ああ、任せろ。必ず無事に、城に帰る。だからお前は、凱旋パレードの準備をして待っていてくれ」
涙を拭い、アルヴィンも笑い返す。
そしてオリバーはビビアンの転移魔法で城へと送られ、アルヴィンたちと別れた。
〇
——1か月後。
「頼む、オリバー! 戻って来てくれ!!」
アルヴィンたちが、城の図書館で寂しく仕事をしていたオリバーの元に泣きながら現れた。
当然の事ながら、オリバーは目を丸くする。
「ぼ、僕……何もできないよ?」
「何もできないお前が必要だったんだ!!」
「急にどうしたの!?」
泣いているだけではなく、心なしか元気が無いようにも見える。
どうしてだろうと首を傾げながら、オリバーは口を開く。
「僕の応援に効果は無いよ?」
「無くて良い! ただひたすら後ろで俺たちを応援しててくれ! 頼む!」
「えぇ……?」
何なら美女たちも「ちゃんと守るから!」、「大切にするから!」とアルヴィンの言葉に続く。
……オリバーには、全く理解できなかった。
「料理だって……」
「料理はしなくて良い! 洗濯も買い出しも野営の準備も必要ない! 俺たちの後ろにいてくれ!」
「えぇ……?」
一体、彼らはどうしてしまったのか。
引く気がないを通り越し、このままだと土下座しそうだ。
そう判断したオリバーは、慌てて椅子を持ってきて5人に座ってもらった。
アルヴィンは、口を開く。
「俺たちには……必要だったんだ。『無条件で守らなければいけない存在』が」
「な、なんで?」
「それだけで頑張れるからだ!」
「僕……お荷物でしかないのに!?」
「お荷物なんかじゃない! 無条件で守らなければいけない存在だ!」
——それを『お荷物』と言わずして何と呼べば良いのか!?
オリバーは混乱した。
何ならアルヴィンも混乱している。自分が意味不明なことを言っていることは理解しているのだろう。
「そう、後ろに無条件で守らなければいけない存在がいるからこそ、俺たちは全力で戦えたんだ!」
「自分が何言ってるのか分かってる!?」
「なら、もう応援もしなくて良い! 後ろに立っててくれさえすれば良い!!」
「それだったら『その辺にいる人』で良くない!?」
「その辺にいる人じゃ頑張れなかった! お前じゃなきゃ駄目なんだ!」
「あ、ちゃんと試したんだ……」
「ちゃんと試してからじゃないとお前に失礼だろ!?」
というより、その辺にいる人たちは勇者パーティに協力することに対する理解がなかった。
怖がって逃げ出すか、後ろに立ってて欲しいという意図を理解せずに前に飛び出してしまうかの二択しかなかった。もう絶望的なくらいに……全く役に、立たないのだ。
そもそも今となっては、どう足掻いたとてオリバーには勝てない。
旅を共にしてきたオリバー以外に、無条件で守らなければいけない存在役は務まらない。
「頼む……頼むよ、オリバー……」
アルヴィンたちは本気だ。
オリバーは、困ったように笑う。
「他のことも手伝うけど、僕には応援することしかできないよ。本当に、それで良いの?」
「本当か!? 応援もしてくれるのか!?」
「うん! もちろんだよ!」
図書館内にいた他の人々は思った——王太子たちは疲れているんだろうな、と。
だが代わりを申し出たところで「オリバー以外は要らない」と言われそうだ。
意味が分からなさすぎるやり取りに聞き耳を立てながら、彼らは仕事に励む。
そうして、オリバーは喜んで勇者パーティに戻った。
ひたすら応援して、これでもかと応援して、頑張って頑張って応援した。
その後、(アルヴィンたちは)戦い続け、ようやく辿り着いた魔王城。
待ち受けていた魔王と(アルヴィンたちが)一瞬の隙さえ許されぬ攻防戦を繰り広げて……いたのだが、唐突に魔王が「タイム」と言ってきた。
魔法の類ではない。
スポーツの類にある「タイム」だ。
後ろでアルヴィンたちを応援していたオリバーが叫ぶ。
「そんなこと! アルヴィンたちが許すわけないじゃないか!」
「いや、お前だ。我が気になるのはお前だ。だからタイムしたかったんだ」
「え……?」
アルヴィンたちは、とりあえず魔王の訴えを一旦聞くことにした。
客観的に見て、オリバーの存在が気になるのは流石に理解していたからだ。
魔王は、困惑を顔に滲ませながら口を開く。
「……あの男は何なのだ? 我は、あの男に攻撃して良いのか? そちらのルール的にOKなのか?」
魔王は人類を思いやる心は持ち合わせていないが、スポーツマンシップだけは持ち合わせていた。
ゆえに、オリバーへの攻撃は許されるのかが気になって気になって仕方がなかったのだ。
アルヴィンは、おもむろに口を開く。
「構わない。ルール的にOKだ」
「そうか、良いのか」
「オリバーは無条件で守らなければいけない存在だ。むしろ、積極的に狙ってくれなくては困る!」
「は?」
美女たちが「そうだそうだ」と訴える。
魔王は本気で困っていたが——ルールが分かった以上、問題はないと判断した。
「よかろう。ならば、我も本気で行かせてもらう! 先程からあの男に攻撃を当てそうで本気が出せなかったからな!!」
「ははっ、そうだな! 俺たちも守り甲斐がなくて本気を出せなかったからな!!」
そうしてオリバーの存在によって、より厳しい攻防戦が繰り広げられた。
もはや死闘としか言いようがない戦い。オリバーは全力で声を張り上げて応援した。
アルヴィンたちはオリバーを全力で守りながら、懸命に魔王と戦った。
息絶える直前。
魔王は、最期に呟いた。
「我の敗因は……無条件で守らなければいけない存在がいなかったこと、だな……うっ」
魔王を討ち滅ぼし、勇者たちは国へと帰る。
オリバーは「自分は凱旋パレードに参加するべきではない」と最後まで抵抗したが、アルヴィンたちは譲らなかった。
「お前は必要不可欠な存在だ! 一緒に行こう!」
アルヴィン、ミカエラ、レイチェル、クレア、ビビアン、オリバー。
世界を救ったのは勇者、僧侶、魔導士、アーチャー、斥候——そして、無条件で守らなければいけない存在。
彼らの活躍はいつの時代も困惑という名の2文字を生じさせながら、後世へと語り継がれていった。




