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最強パーティの専属荷運び人  作者: 智慧砂猫


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第41話 扇動

◇






「で、それが二日も目を覚まさなかったクソ野郎の言い訳か?」


 居間で椅子に座らされ、パーティメンバーに囲まれながらシレントは身体を縮こまらせ、どう謝罪したらいいものかと苦笑いを浮かべる。


 レアナの鋭い視線をまっすぐ見ることも出来ない。


「その、なんといいますか……。あのときは緊張と動揺でわりとデカいのをもらっていたことを忘れてしまってですね。僕としては、あの、本当に申し訳ございませんでした。まさか新手が出てくるとは思ってなくて……」


 ドルハダスから喰らった脇腹の痛みが効いて来たのは、帰ってきてレアナたちが騒がしく過ごしているのを見て安堵してからだ。


 じわじわと沼に沈んでいくような疲労感に襲われて、大切な話をしなければいけないと思いながらも意識を失っていき、目が覚めると二日経っていた。体は重たく、怒られているのもあってなおさら背中に何か乗っている気分だった。


「ごめんよ、本当に。ゼロやヴォリーダなら話が通じると思っていたんだけど、もっと厄介なのがいてさ。エッセレさんがいてくれなかったら……あっ、そうだ。彼女はどうだった、元気ならいいんだが」


 急に場の空気が気まずくなり、シャーロットが重たい口を開く。


「そのエッセレ様でしたら、昨日、冒険者ギルドをお辞めになったと聞いています。理由は聞いていないのですが、二日前にギルドに戻られてから随分とギルド側と言い争われていたと、もっぱらのうわさですよ」


 血相を変えてシレントが椅子から立ちあがった。


「待ってくれ。それならエッセレさんは今、どこに?」

「さあ……そこまでは私も知りません。でも見たと言う人なら」

「誰だ? そいつに会いたい。今、すぐに」


 肩を掴んで迫られると、シャーロットも流石に困った表情で言葉に詰まった。


「そこまでにしときなさいよ。それならアタシが知ってるわ」

「……ごめん、焦っちゃって。その人は今どこに?」


 そのタイミングで、ばーん、と浴室のドアが勢いよく開かれた。


「そう、ボクさ! お風呂借りたよ!」

「レオ! 君も来てたのか!」

「ハハハハ! ボクは風呂には二時間は使う女だからね!」


 長いな、と思いつつも本題からは逸れずにシレントが尋ねた。


「エッセレさんの行方を知ってるなら教えてくれないか?」


 レオはほかほかと湿った髪をタオルで拭きながら。


「無理だと思うなァ。彼女を連れて行ったのは皇太子直属の騎士だからね。どうもきな臭いというか、あれは辞めたんじゃなくて辞めさせられたようなものさ」


 皇太子に目を付けられているのはレアナだけではない。シレントと関りの強いエッセレが敵視されるには十分だ。王城へ連れていかれたのかもしれないと思うと、気が急いた。


「ちょっと出かけてく────」

「待ちたまえ。王城へ行くつもりならやめた方がいい」

「どうして?」


 こんなときに指を咥えて子供のように黙って待てなど無理だ。制止を振り切る勢いで返したシレントだったが、冷静なレオにあっさりと返されて黙った。


「皇太子が魔族について公表した。彼らは生贄を差し出せば許すと言っているなんて嘘を振りまいているが、先手を打たれた以上はボクらの声も届かない。今は町の住民も冒険者たちも、皆が誰を差し出すかで話し合ってる」


 ゾッとする話に、レアナも不満げな顔で仕方なさそうに続く。


「現状は私たちが当事者ってのもあって、魔族共に首を差し出すべきだっつう声がでかい。反対派も多いおかげですぐとはいかないが、こっちも動き辛い。お前の理想とやらに先手を打たれた形だな」


 シレントは、その意味がすぐに理解できた。エッセレが話を持ち込んだことで目的が見透かされ、皇太子が邪魔者を片付ける口実にしたのだと。


「やっぱり、王城へ行くよ」

「だろうよ。私は付き合うぜ、他の奴らは?」


 しん、と静まり返る。それまで沈黙を守っていたクローディアが手を挙げた。


「正直連中は魔族よりも話が通じんと思うのだが。素直に聞き入れる連中なら自分たちを槍玉にあげるはずがない。となれば、王城へのこのこ出向いて行って捕縛されるリスクも考えられる。何も準備せずに足を運ぶのはどうなのだ」


「じゃあなおさら行かないとね。ボクもいれば誰も捕まらない」


 パーティメンバーではないにも関わらず、関係者ならば当然だとレオも同行する気満々だ。クローディアも、どうしたものかと息を吐いて考え込む。


「僕はひとりでも行く。わざわざ全員で行く理由もない。僕と一緒に来る気があるなら、ついてきてくれればいい」


 自分がまきこんだ責任を取らないでどうする、とシレントはどうなっても構わないという状態だった。ゼロを相手に命を捨てる覚悟までしておきながら、いざ町に戻ってきたら仲間に頼って安全な場所で助ける方法を考えるなど出来なかった。


「あの、アタシにひとつ提案があるんだけど……」


 恐る恐ると手を挙げたルルが、視線を浴びると緊張して顔を青くした。


「ヴァーリーさんとか、他にも頼れる人たちに声を掛けておくのは、ど、どうかしら。全員で行ってもいいけど、もし全員捕まったら、全員が助けを待つだけの状況になるなんて最悪じゃないかなって」


 全員が同意に近い眼差しだったが、レオだけは目を細めて軽蔑した。


「僕だけじゃ足りないって言ってるのか?」

「あ……ご、ごめんなさい。そういう意味じゃないけど……」


 説明の足りないルルの言葉を、レアナが補強する。


「あんた、シレントが捕まったら何もできねえだろ。あっち側が何も用意してない前提で考えりゃ十分すぎるが、こっちの戦力を馬鹿にはしてねえはずだ」


「……まあ、一理あるかな。ボクもシレントが捕まると困る」


 息子のように可愛がっているシレントを人質に取られれば、さて取り返す算段がつくまでは無防備だ。魔力を封じる道具でも使われればひとたまりもない。いくらレオとて勝ち目はない。そうなったときの一手を皆が欲しがった。


「僕も必要だと思うよ、レオ。心当たりはいないか」

「心当たりなあ……。ひとりいるけど、会ってみるかい?」


 正直なところオススメはできないとレオは思う。シレントが真剣な目をしていなければ、わざわざ口にすることもなかった。友人を大切に思う気持ちが分かってしまうと黙って知らぬふりはできない。


「そいつはアルバート・ロー。闘技場最強の男の名前だよ」

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